コマの進化と甘い時間
朝、目が覚めると胸に抱いていた手応えは無くなっていた。
のそのそとベッドから起き上がるとカエデが屈伸をしながら体を解しているところであった。
「おはよう、マリー」
私が起きたのを見てカエデが挨拶をする。
「おはよう、カエデ」
私も同じように挨拶をした後で窓に近づき少し開ける。
その隙間からは爽やかな風と朝方の喧騒が入り込んでくる。
「そう言えばコマちゃんは大丈夫かしら?」
「私が起きた時は変化なかったけど・・・あら?」
私とカエデが揃って窓際に置いた繭を覗き込む。
すると、繭がぷるぷると震えていた。
やがてその震えが止まると大きな亀裂が走り、パキパキという音を立てながら繭は割れた。
中からは何故か繭よりも大きくなったコマちゃんが出てきた。
「これは・・・我が国にいる小型犬のようね。
体長は・・・15センチくらいかしら?」
「センチ?」
「私の国の長さを測る基準の呼び方なんだけど・・・こっちでは違うのかしら?」
「長さとか気にしたことないから分かんない。
知っておくと便利そうだし、カエデの国のことも知りたいから今度教えてよ」
「もちろん。
それでコマなんだけど見た目は白い犬だけどやっぱり精霊なんだね」
「そうだね・・・普通の犬には無理だもんね」
「きゅうううううん」
いま、コマちゃんは喜んでいるのか私達の頭の周りをくるくると回っている。
白い毛に覆われた翼をバタバタさせながら。
そう・・・見た目は完全に白い犬にしか見えないコマちゃんだったが、その背中には白い翼が生えていたのだ。
「これ、やっぱり誰かに見られたら良くないよね?」
「誘拐される可能性も考えるとね。
ねぇ、コマ。
空を飛ぶのは私たちといるこの部屋だけって約束できるかしら?」
パタパタと空を飛ぶコマを両手でキャッチしたカエデがコマに尋ねる。
「きゅーーん」
カエデの言葉を聞いたコマは私の鞄まで行くとパンパンと前足で叩いた。
「これって・・・」
「外に出る時はこの中で大人しくしてるって言いたいんじゃないかしら?
話が分かってくれて良かったわ」
「そうですね。
頭の良い子で良かったよ」
「きゅるるん」
私がそう言って頭を撫でるとコマちゃんは気持ちよさそうな声を上げた。
そうして私がコマちゃんを撫でている反対、左の方からしゃがんだカエデがすすすっと寄ってくる。
「マリー、私も!!」
そう言って頭を寄せてくるので左手で頭を撫でながら髪を鋤いていく。
「なんか大きな妹が出来た気分なんだけど・・・昨日から甘えすぎじゃない?」
「私、末っ子だったから仕方ないよね。
マリーにしか甘えないから大丈夫だよ」
それは本当に大丈夫なのだろうか?
そんな疑問が頭に浮かんだが悪い気分ではないので、ガイ達が呼びに来るまでの時間そうして穏やかな時間を過ごしたのであった。




