カエデの過去
今日も糖分多めです。
いま私は背中から抱きつかれて横になっている。
身体の大きさのせいだが後頭部にはとても柔らかい感触。
おかしいよね?同じ人間なのに。
どうして私は固いんだろうね?
一瞬現実逃避をしそうにになったがすぐに現実に引き戻される。
カエデが約束通りに自分のことを話し始めてくれたからだ。
「私が東の国から来たのは知ってるよね」
「うん」
私は頷く。
特徴的な格好や喋り方は間違いなくこの辺りの出身でないことを表している。
「私の国は昔から争い事が多くて最近になって天下統一って言って1人の英雄が全ての土地を傘下に収めてやっと平和がやってきたんだ。
人々は平和を喜んだけどそうじゃない人もいた」
「うん、分かるよ。
全員が全員平和を望む人ではないって事」
かつて誘拐された犯罪組織のように一見平和な街でもそのような集団が生まれるのだから仕方のない事なのだろう。
「その平和を望まない人物が暴走し、かつて封印されていた八岐大蛇という8本首の化け物竜の封印を解いてしまったの。
もうダメだと思った時、白い衣と赤い袴を着た女性が現れて八岐大蛇を退治してしまったんだ」
「そんなスゴい人がいたんだ。
今もその人は東の国にいるの?」
「いや、元が旅人だったらしく八岐大蛇を退治したらすぐに旅立ってしまったよ。
その人・・・アマテラス様って呼ばれてたんだけど、私は避難している時に一瞬だけ戦っている姿を見たんだ。
何処にでもいるような普通の女性に見えたけど、その姿は今まで見たどんな人よりも格好良くて・・・あんな風になりたいって思ったの」
「それでアマテラスさんって人と同じような服装してるの?」
私は普段のカエデの服装を思い浮かべる。
白い衣と赤い袴を着ているカエデは話の中に出てきたアマテラスさんと全く同じ格好だ。
「あはは、形から入っちゃった。
私はあの人みたいになりたくて・・・それで、私が魔力の操作が上手い理由なんだけど。
私はあの人が刀を振るう姿が忘れられなくて侍になりたかった。
でも、私に与えられたクラスは陰陽師だったの」
「オンミョウジ?」
聞き慣れない言葉についおうむ返しに聞き返してしまった。
「こっちでいうソーサラーみたいなものよ。
不思議な術を使ったり式神っていう使い魔を召喚したり。
それは私が望んでいた姿じゃなかったの」
人間には最初に神様から与えられたクラスというものがある。
それは余程のことが無い限り変えられないし、クラスを無視して違うことをしても中々上手くはいかない。
普通は諦めてそのクラスを活かす生活か全く関係ない単純労働をこなすものだ。
しかし、現在のカエデのクラスは侍。
刀を扱う姿勢などを見ても間違いないだろう。
その意味するところは・・・
「つまり、侍になりたくてクラスを変える為に陰陽師っていうクラスを極めたってこと?」
「そう言うこと。
だから魔力の操作が人よりも上手いの。
周りの人たちからはそこまで極めたのに一から侍を始めるなんて馬鹿だって笑われたけどね」
少し悲しそうなカエデの声。
私はくるりと反転してカエデの方に向き直る。
「マリー?」
どうしたの?という顔をしているカエデの顔が対等の高さになるように移動した後、両手で頭を抱きしめて胸元まで持ってくる。
「カエデは夢を叶える為にとっても努力して頑張ったんだね。
エラいよ、スゴいよ。
誰に馬鹿にされたって気にしなくて良いよ。
その人達が馬鹿にした以上に私がカエデの事を褒めてあげるから・・・だからそんな悲しそうにしないで」
よしよしと頭を撫でるとカエデは私の胸に顔を埋めて背中に回した手に力を入れた。
うん、私の胸にはクッションが無いから少し痛いな。
でも、ありがとうとお礼を言うカエデの為に頑張って我慢する。
いつしか手の力は抜けて胸元からは寝息が聞こえてきた。
「ふふ、おやすみなさい」
私もカエデの頭を撫でながらいつしか眠りに落ちていたのだった。




