揺れる思い
私が倉庫で運んできた荷物を整理しているとアンドレさんが見慣れぬ男性を連れてきた。
その人はアンドレさんの行商人時代の仲間でダリエルさんというらしい。
アンドレさんは店の経営の仕方からエターニャのオーナーが名うての商人で、中年以上の男性だと思い込んでいたらしい。
私がオーナーだと紹介された時には驚いた顔をしていたが、アンドレさんの態度からそれが冗談ではないと分かり勘違いを謝罪し始めた。
「先程は勘違いとはいえ大変申し訳ないことを」
「いえ、何も知らなければそう思っても仕方ないことですから。
それよりもダリエルさんはあちこちで行商をしているそうで。
良ければ旅の話など聞かせてもらえませんか?」
「そんなことで良ければ喜んで」
ダリエルさんは本当にあちこちを旅していたらしく面白い話を多数聞けた。
中には私が父さんと旅した所の話もあったりして懐かしく思ったものである。
そんな中で特に気になる話が一つ。
「ひんがしの国・・・ですか?」
「ええ、ここから遥か東に向かった先にある国です。
そこでは人々は着物という変わった衣を身につけ、刀という反ったそれは美しい武器が流通しているのです」
「刀・・・これの事ですよね」
私が以前に四階層のボスと戦った時に取り寄せた武器を見せる。
「おお、これですよ!
何処でこれを手に入れたのですか?」
「すいませんが、それは企業秘密なので教えられませんね。
しかし、刀や着物が流通しているひんがしの国ですか・・・」
「ええ、遠いのが難点ですが独特の芸術品と文化もあって面白いと思いますよ。
そうそう、そこには隣のビフラーイの街のようなダンジョンもあるのだとか」
「ダンジョンもあるんですか!?」
「え、ええ。
そこでは日夜侍や忍者になる為に訓練に励む人たちがいるそうですよ」
「そうなんですね」
その後も暫くダリエルさんと談笑し、彼は宿の時間があるのでと帰っていった。
私は従業員の一人に彼を案内することを頼む。
窓から彼らが歩いていく姿を見送りながらポツリと呟いた。
「ダンジョンと独自の文化が育った街・・・」
エターニャに戻ってからも私の心を捉えて離さない情報。
「ぐべあっ!?」
「あ、ごめんごめん」
ボーっとしていたせいで組手中のカイトを思いっきりぶっ飛ばしてしまった。
「いたたたた。
姉ちゃん、最近ボーッとしてる事が多いけど大丈夫かよ?」
「ちょっと気になる事があってね」
「そんなにずっと気にするなんて姉ちゃんらしくないじゃん。
迷ったらすぐ行動が姉ちゃんだろ?」
「そうなんだけどね・・・」
正直全てを捨てていいなら今すぐに行きたい。
だが、私はビフラーイとポリタンの街に関わりを持ち過ぎた。
実は本店と支店の売り上げからあっという間に父さんから言われた課題もクリアーしている。
ダンジョンの攻略も終わっているので私が旅立っても問題はないだろう。
しかし、それで今までやってきたことを全て放り出していいのだろうか?
答えの出ない問いかけだけが頭の中をぐるぐると回っていた。




