ある行商人は気付く
本日二話目なのでご注意ください。
2023/08/29 誤字報告受け付けました。
いつもありがとうございます。
「ここがポリタンの街か」
2時間後、私は街の中にいた。
入り口では行列が出来ており厳しいチェックが行われていたのだが、言われた通りに近くにいる兵士に紹介状を渡すとあれよあれよと言う間に街の中に入れていたのだ。
チェックも殆ど無かったので私は逆に怖くなって兵士にロバートという人はどのような人か尋ねてみた。
驚くことに彼はこの地域を治める領主の息子らしい。
領主の息子自らが警備兵を率いて警備をするなど聞いたことがない。
やはりこの街は普通とは違う場所なのかもしれないと感じ始めていた。
入り口から少し進んだ先にある広場を見渡す。
確かに言われた通りに同じ服を着た子供たちがエターニャという文字とお店の絵が描かれた看板を持っている。
行き交う人達が子供達と挨拶をしており、警備している兵士もそちら側に注意を向けている。
歩きながらお店のアピールをしている子供もいるが、それも見回りの兵士の後ろをトコトコとついていくスタイルである。
ここまで徹底的に周囲の大人に守られているのであれば安全であろう。
私は偶々目についた少女に道案内を頼む。
彼女は
「分かりました。
少々お待ちください」
と深々と頭を下げてから近くを警備していた兵士に声をかける。
声をかけられた兵士の指示で近くに待機していた別の兵士が立ち上がり、少女に連れられてやってきた。
「私が道案内を、彼が護衛を担当させていただきます」
「よろしくお願いします」
「あ、ああ。
こちらこそよろしくお願いします」
敬礼をする兵士に私も頭を下げる。
正直な話、ただの店の道案内に兵士が付いてくるとは思わなかった。
そのことを疑問に思って彼に尋ねると
「街民の安全を守るのが仕事ですから。
それに護衛の訓練にもなってありがたいのですよ」
なるほど、守るものが具体的に見えているというのはモチベーションの増加にも繋がるようだ。
この街の兵士たちの士気が高い理由を垣間見たきぶんだった。
少女とも話してみたがとてもマナーが良く言葉の使い方も上手い。
君もその商店の従業員なのかと尋ねると驚くべき答えが返ってきた。
「いいえ、私達はただの孤児なんですよ。
そんな孤児に仕事と教育を施してくれるエターニャの皆さんには感謝してもしきれないのです。
いつかあの店の従業員になって恩を返すことが私達の目標なんです」
頭をハンマーで殴られたような衝撃だった。
それはこの少女の感動的なエピソードについて・・・ではない。
いまの彼女の言葉から導き出されるエターニャという店の利益を理解してしまったからだ。
大店に品物を卸す事もあり、そこで常に問題になっているのが従業員だ。
単純な教育不足、店への背信行為、人手不足・・・どれをとっても致命的であるが常に悩まされる問題でもある。
しかし、幼い頃から孤児達に教育を施し、案内という形で商売の世界にも慣れさせる。
この事に大きな恩義を感じた子供達は将来高い確率で裏切ることのない優秀な従業員となることが約束されている。
中には才能のないものもいるだろう。
だが、言っては何だが孤児など各街に溢れるほどいるのだ。
例え半数が使い物にならなくても半数が使えるならばそれで良いだろう。
優秀な為に雇った孤児はそれから何十年もの間店を支え続けてくれることが約束されているのだから。
丁稚奉公とは全く違う完璧に計算された人材の確保術後に冷や汗が止まらない。
一体こんな計画を生み出したエターニャの店主とはどんな人物なのだろうか?
全く人物像が見えてこない。
わたしが頭の中で答えの出ない問答を繰り返している内に少女の足が止まる。
「おつかれさまでした。
ここがポリタンの街最大の商店エターニャでございます」
見上げるとわたしが取引したどんな大店よりも立派な建物がそこにはあった。




