ある行商人の旅路
行商人である私は街で多種多様な物を仕入れて街へと向かう。
普通の行商人は冒険者の護衛を雇って街から街へと向かうだけだが、私は途中にある村を経由し、その場所の特産品を物々交換してから街へ向かう。
その特性上、一人の方が行動しやすいので護衛は雇わない。
危険はもちろんあるのだが、そういう生活をしていると何となく危ない気配というものを察知する事が出来るようになった。
そうしてあちこちを旅しているときにふと気になる噂を耳にした。
曰く、ポリタンの街では最近面白い形の商店が出来たというのだ。
あそこの街は商業ギルドの長が持ってきた品物をを幾らでも買い取ってくれるという話があった。
私の知り合いの行商人仲間はそれを鵜呑みにしてポリタンの街に向かったが、私は何か危ない気配を感じ取っていた。
そこで敢えてポリタンの街をルートから外していたのだが、その商店の形というのが何故か気になった。
気になったからには行くしかない。
行こうと決めればすぐに動けるのは1人の良い所であろう。
ポリタンの街に向かい始めた頃には色々と危険な気配を感じる事があったが、街に近づくにつれてそんな気配はパッタリと無くなった。
道中で見回りをしている兵士が休憩していたので、許可を取ってお邪魔させてもらう。
「ほう、それでは貴方はあちこちを旅してらっしゃるのですね」
私が話をしていたロバートという人は兵士の隊長と思えない程に物腰の柔らかい人物であった。
「旅をするのも好きなのですが、物資の乏しい村に立ち寄ると本当に喜んでもらえるんですよ。
それが何よりの活力ですね」
「ふむ・・・確かに各村から行商に来てくれる商人の話というものがあがっていましたね。
門では街に入る審査が行われるのですがこれをお持ちください」
ロバートは私に丸められた紙を手渡してきた。
「これは?」
「私からの紹介状です。
それがあればすんなりと街に入る事ができるでしょう」
「それはありがたいですがいいのですか?」
「ええ、貴方の話は各地の村から感謝しているという形で報告があがっておりますので。
それに今は彼女が街に来ている時期ですからね。
悪さを働こうとしても無理だと思いますよ」
ロバートの言葉に私は首を傾げた。
「彼女?」
「貴方が興味を持っている場所に行けば自ずと分かりますよ。
ああ、そうだ!
街に入ったら同じ服を着た子供たちがその場所を宣伝しているはずです。
その子供達に尋ねれば案内してくれますよ」
「それはご丁寧に」
とお礼を言ったものの訳がわからないという感想しか出てこない。
何故わざわざ子供を使うのであろうか?
そもそも子供達の安全は確保されているのだろうか?
様々な疑問が湧いてくる。
「色々と思うことはあるでしょうが行けば分かりますよ。
さて、私達は休憩を終えて出発します。
良い旅が出来ることを祈っていますよ」
ロバートはそう言って立ち上がると周りの兵士に檄を飛ばし、あっという間にこの場から立ち去っていった。
その姿は先程の優男然とした態度と違い厳しい部隊長だと印象付けた。
「エターニャ・・・一体どういう店なんだ?」
出発した時よりも遥かに膨らんだ疑問を抱えながら私はポリタンの街へと向かうのだった。




