領主様と悪巧み
「このように2種類の契約を用意して混乱を収めます」
私がガルシア様に説明すると顎に手を置きながら感心した顔をしている。
「なるほど、それならば商人達も食いつこう。
ターニャ殿の身元は私とペーター殿で保証すれば信頼を得ることも出来るであろうしな。
しかし、何故2つの契約なのだ?
全て買い取って販売すれば莫大な利益になるであろうに」
「1つはギルド長のようなコネと実績がないことですね。
いきなり同じ量を買い取って捌き切れるとは思いません。
カイトを使ってビフラーイの本店に持っていっても良いのですが、なるべくこの街で完結させた方が良いでしょう」
「なるほど。
他にも理由があるようだが?」
「2つ目は従業員の確保ですね。
それだけ規模の大きい店を切り盛りするスタッフは見つかるものではありませんし、技術力を給料に換算すると高くつきます。
一から育てる暇もありませんしね。
しかし、賃料の契約なら彼らが自分で商売をしますのでスタッフを用意する必要がなく人件費もかかりません。
また、自身の城ですのでそこを守る為に必死になって働くでしょう」
「ふむ、納得の理由じゃな。
そして弛んでいた商人としての意識を改革して自立を促す・・・ということもあるのかな?」
ガルシア様は私が言わなかった利点を言い当ててニヤリと笑う。
「そうですね。
自分の手で今後今のような事態になっても店を運営したという経験は必ず役に立つでしょう」
「それで場所はどうするのかね?
元々は商業ギルドから土地を借りるという話を聞いておったが」
「土地に関してはガルシア様からの許可を頂きたく。
ちょうど良い土地が建物付きで空いたと思うのですが?」
私の言葉にその場所を思いついたガルシア様が大声で笑う。
「はっはっはっ、なるほど!
確かにちょうど良く空いた土地と建物があったな。
分かった、その土地は今回のお礼も兼ねてターニャ殿に進呈しよう」
「もう1つお願いがあって、一階を賃貸店舗に。
二階をエターニャの支店にしようと思っているのですが使わせて頂きたい者たちがいます」
「ふむ、言ってみたまえ」
「私が捕まえた闇組織の人間の一部を。
彼らは犯罪奴隷として重労働に送り込まれるそうですが、その一部を私に使わせて欲しいのです」
「ふむ・・・ターニャ殿なら上手く使いこなしそうではあるが。
済まないがその者たちの様子を聞きたいのでロバートを呼んできてくれ」
ガルシア様が近くに待機していた使用人にそう伝える。
暫くしてロバートさんが来たので先程と同じ話を伝えた。
「なるほど・・・結論から言いますと全く問題はないと思います。
彼らは従順であり、とても大人しいです」
「犯罪組織の人間が?
何か企んでいるのではないか?」
「私もそう考えましたが、彼らは過去に犯した罪も全て認めて私達が聞いていない事まで洗いざらい話すなど非常に協力的です。
理由を聞くと皆が自分達は今までの罪深い自分は死に新たに生まれ変わったのだと。
しかし、以前の罪が消えるわけではないので全てを告白した上で償いたいと申しております」
「確か駆け付けた時には大人しくなっていたのだったな」
「ええ、ターニャさんの手によって。
因みにサラさんとユリさんによって捕まえられたものはこの限りではありません」
2人は私の方をじっと見た後で何やら納得したように頷き合った。
「そういうことならターニャ殿に捕まえ者の中から必要な数だけ貸し出すことにしよう」
「ありがとうございます。
それでは後のことは私に任せてください」
私はそう言ってガルシア様に深々とお辞儀をするのであった。、




