不穏な気配
「落ち着きましたか?」
私は院長を近くにあるベンチに座らせ、近くの配膳係から水を受け取って手渡す。
「ありがとうございます。
あの、失礼ですが貴女は一体?」
「私はタチアナ・アマリス。
愛称でターニャと呼ばれることが多いです。
カイトの保護者みたいなものだと思ってください」
「貴女があの噂の・・・私の名前はパラミーナと申します。
あの子達の面倒を見ている孤児院の院長をしております。
この度はあの子達の面倒を見ていただきありがとうございます」
パラミーナさんはベンチから立ち上がると深々と頭を下げる。
「いえいえ、こちらが勝手にやったことですのでお気になさらずに。
それよりもこちらにはどうやって?」
ガルシア様は今回、様々な人が楽しめるようにと門戸を広く開けていたと言う話は聞いていた。
それでも孤児院の人たちが気軽に来れそうだとは思えないのだが。
「我が孤児院は領主様の直轄となっています。
なので予算もそれなりに出ているのですが、孤児の数は年々増えていく一方で裕福な暮らしとは程遠いのです。
今日は庭先で無礼講のパーティを行うということで領主様に招待をしていただきました。
せめてこの日は子ども達にお腹いっぱい食べさせてあげたいと言う優しさを感じられたものです」
「なるほど、素晴らしい方なのですね」
「ええ、本当に感謝してもしきれませんよ」
私たちが談笑をしていると子供達がこちらに向かって走ってきていた。
「ターニャお姉ちゃん、終わったよ!」
「確認もしたから間違いないはずだぜ」
「つ、つかれた」
子供達は何十枚と袋に入った鱗を持ってきた。
私はそれを受け取るとパラミーナさんに手渡す。
「こ、これは?」
「カイトの剥がれた鱗です。
私には必要ないのでパラミーナさん、良ければ処理してくれませんか?
売るなり捨てるなり好きにしてくれていいですよ」
「ドラゴンの鱗と言えばとんでもない価値の素材ではないですか!
そんなもの受け取れませんよ」
「そうは言ってもそれはカイトの背中という採取地で子供達が採取したものですからね。
保護者であるパラミーナさんに所有権があるんですよ」
そこまで言ったところでパラミーナさんは私に頭を下げる。
「本当に、本当にありがとうございます。
このご恩は決して忘れません」
「別にすぐ忘れていいですよ。
マリー達へのお礼は後で孤児院に届けるから楽しみにしておいてね」
私がそう言うと3人は喜びの声を上げる。
「さ、今日はお暇しましょう。
ターニャ様とカイト様にお別れの挨拶をするんですよ」
「ターニャお姉ちゃん!今日は楽しかったよ!
カイト君もバイバーイ」
「カイト、また遊ぼうぜ!
ターニャ姉ちゃんもまたな!」
「きょ、今日は貴重な体験ができました。
また会いたいです」
「本当にありがとうございました。
さ、行きましょう」
パラミーナさんと手を繋いで去っていく子供達。
その後ろ姿を見送りながら私は近くの植え込みに声をかける。
「気付かれないように監視を。
トラブルが起きたら相手に気づかれないように尾行してアジトを把握。
その後に1人は帰還、1人は監視を。
決して無茶はせずに私を待つこと。
お願いしますね」
植え込みの方から返事はなく微かに揺れるのみであった。




