身近な災害
「ここボナラ山はポリタンから南にあり、山の向こうの街と交流するのに必ず通らなければ行けない場所なんです」
ボナラ山に向かう途中でロバートさんが説明してくれる。
「のどかで綺麗な場所ですね」
「空気がいいです!」
山と名前が付いているが街道は綺麗に整備されており、坂道もなだらかでピクニック気分である。
「山を通っているとはいえ真ん中を突っ切っていく訳では無いですからね」
「とても山の上にドラゴンが住んでいるとは思えませんね」
「殆ど降りてくることはないそうですからね。
あと山の上にドラゴンがいるお陰で根城にしそうな山賊たちが寄り付かず、魔物も他の魔物も山から逃げてしまったので非常に安全なんですよ」
ロバートさんの言うように山の上から大きな気配を感じるがそれ以外は静かなものである。
皮肉に災害級の魔物が住み着いたせいでそれ以下の人や魔物は全て淘汰されてしまったらしい。
「うーん、それって倒す必要あるんですか?」
「ドラゴンさんがいるお陰でこの辺りは平和なんですよね?」
クレスト姉妹は首を傾げてロバートさんに尋ねる。
確かに普通に考えたらドラゴンのおかげで何のトラブルも無くなっているのだから、討伐依頼が出るのもおかしな話かもしれない。
「それついては難しいですね。
例え今まで何の被害が無くてもこれから先も本当にそうなのか?
という確証は得られていないわけですよ。
そして、ドラゴンが一度暴れ出したらポリタンの街ですら再建不可能な程の被害を被る可能性があります。
その心配を取り除けるのなら山賊や下級の魔物が住んでいる方がマシと考えるのでしょう」
人間は不確かなものを信じられるほど強くないということだろう。
しかし、姉妹はロバートさんの言葉にあまり納得できないという顔をしている。
「身近にドラゴンがいるという生活は想像するのは難しかったですかね?」
「いえ、普段は穏やかですが暴れだすと全部破壊し尽くせる人が身近にいるという気持ちは分かりますよ」
「私たちの場合はあまりに身近過ぎてそれが怖いという気持ちが無いだけです」
そう言って2人は揃って私の方を見る。
ロバートさんも「ああ、なるほど」
などと頷いていた。
言いたいことは分からなくもないですが少し失礼じゃないですかね?
あと、私は商人なので損しかしないような破壊はしません。
お忘れなく。
「それで山の上まで登るんですか?」
「登るにしては軽装ですけど」
「いえいえ、登るのはまた別の機会にしておきますよ。
今日は向こうの方から来てもらいましょう」
私がそう言った時にはちょうどよく開けた場所に到着する。
ここならドラゴンも飛んできて着地しやすいだろう。
「それでどうやって呼ぶんです?
叫んだら来てくれるわけではありませんし」
「呼ぶにはこれを使います」
私は懐から笛を一つ取り出した。
それを高らかと吹き上げるも何もならない。
「何も鳴らないですね」
「壊れちゃったんですか?」
「気を落とさずに次の手を考えましょう」
と各々が音が聞こえなかったことに対して反応を見せる。
しかし、私たちは彼らの方を見てニコリと笑い空を指差した。
「いえいえ、ちゃんと聞こえてたみたいですよ」
私がそう言うと辺りが暗い影で覆われる。
そして
「ウルサァァァァァイ!!」
という叫びとともに青い色のドラゴンが空から舞い降りた。




