浄水魔法と尻尾の組み合わせ
「とりあえず現状をまとめながら対策を立てますか」
私は自身の身体の変化をじっくりと観察する。
肌の色は変わらない。
爪や牙も生えていない。
背中の羽は・・・自分の意思で動く。
けど空を飛べるような力はない。
動かすことで推力は得られているようなので、肉弾戦時のバランス制御には使えるかもしれない。
尻尾は黒く、細く、先が槍のようになっている。
しかし、これを使って宙に浮いてバランスを取れる当たり腕や脚よりも強靭なのかもしれない。
「というか、これって服を貫通してますよね?
どういう理屈なんでしょうか?」
羽や尻尾は服を貫いているように見える。
しかし、試しにジャケットを脱いでみたら阻害されるようなことは無かった。
ジャケットを裏返しても傷ひとつ付いていなかった。
「実体がないけど影響はあるってことですか・・・ひょっとして・・・」
私は一つの仮説を思いついて体内で新たに得た力を意識的に動かす。
すると尻尾がぐんぐんと伸びていった。
更に意識して尻尾に力を送りこむと赤く燃えたり、雷を纏ったりしている。
属性を変えることも自由自在のようである。
「これ、かなり便利な気がしますね。
尻尾と違って羽には幾ら力を注いでも影響なしですか・・・うーん、後気になるのはこれかな?」
私が意識して羽と尻尾に流れる魔力を断つとスッと消えていく。
再び魔力を込めると羽と尻尾が出現した。
「出し入れ自由なのはありがたいですね。
変える時にどう言い訳しようかと思いましたよ。
後は以前よりもかなり身体が軽いというか動かしやすいというか・・・マーチャントの時よりかなり能力が上がっているのかな?
これってもしかして・・・再度突入してみる価値はあるかもしれませんね」
私は再び4階層に来ると意識を集中させる。
「やっぱり・・・さっきは分からなかった敵の気配が探れるようになってる。
これは極めたクラスの補正値が上がってるみたいですね」
通常、クラスを極めて別のクラスに移ったと時に前のクラスで得た力の半分の補正がかかると言われている。
私が生産職であるマーチャントで戦えているのも極めた前衛職の補正値の賜物である。
しかし、現在はそれ以上に強い補正がかかっているのを感じていた。
「私みたいに色々極めてる人だと恩恵が大きすぎるくらいですね。
正直、バトルエキスパートより上では?」
そのまま注意深く歩いていくと通路の先で待ち構えている気配を感じる。
これは先ほどの隠密職の敵だろう。
どうしたものかと考えたときに私は一つのことを思いついた。
先ずは尻尾に魔力を送り込んで壁沿いにスルスルと伸ばしていく。
その際に私は気配を断つことをやめて殺気を放つ。
通路沿いに緊張感が伝わってくるが動く気配はない。
(私の気配に集中していて尻尾には気付いてないみたいですね。
では・・・)
魔力が身体にあるのは分かるが私はまだ魔法というものを習っていないので難しいものは使えない。
しかし、簡単な初歩魔法・・・洗浄やらの生活魔法の使い方は何となく分かっている。
その中で以前話題に上がった魔法。
生活魔法でありながら対象を一撃で死に至らしめる可能性のあるもの。
対象に触れていなければ効果のない魔法を私は唱えた。
相手の足に伸ばした尻尾を巻きつけた状態で。
突如、何かに足を掴まれて慌てたと思った途端に痙攣し動かなくなる。
そして尻尾から何かを掴んでいた感触が無くなる。
警戒しながら角を覗くとそこには敵の姿はなくドロップ品と思われるものだけが残されていた。
「分かってはいましたが、この尻尾と組み合わせると凶悪という言葉では済みませんね」
自分の発想ながら、その絶大な効果に呆れつつ先に進むのであった。




