60ひとまず一件落着……とも言い難いです
いろいろあったが、今日も私は大学に行く。
「おはようございます。蒼紗さん」
「おはよう蒼紗。ねえ、今朝のニュースは見た?」
「おはようございます。ニュースですか?何か面白い話題でもありましたか?」
「佐藤さん、あれのことですよね。私は見ましたよ。なんなんですか、あのニュース。本当に人騒がせな連中ですよね。そのせいで、私たちは夜中の外出に気を遣うようになったというのに!蒼紗さんもそう思いませんか?」
朝、大学に着くとジャスミンと綾崎さんが挨拶の後、今朝のニュースを見たかとぐいぐい攻めよられた。朝のニュースで取り上げられていて、彼女たちが話題にしそうなものは一つしかない。私は苦笑いしながらも彼女たちの望む回答を口にする。まあ、綾崎さんがすでにネタバレをしているようなものだが。
「綾崎さんが言っていることなら、私も今朝、ニュースで見ました。ですが、事件で犠牲者が出ていないのですから、迷惑でしたけど、そこは良かったと思いますよ」
「そうですかね。でも、これで事件の犯人は自首したので、今後は安心して夜中の外出ができるというのは、確かに良かったですけど」
「そんなことで許しちゃうなんて、綾崎さんはお人好しねえ。蒼紗は天然だから仕方ないとして」
「私は天然ではありませんよ」
彼女たちが口にしている事件について、真実を口にするのはためらわれた。事件の黒幕は別にいて、西園寺家が仕向けたものだと、二人に伝えることができなかった。彼女たちには私と居ることで、これ以上、迷惑をかけたくない。とはいえ、車坂のもらった紙切れに書かれていた「西園寺家現当主」という言葉のみで、西園寺家の仕業だというには、根拠が不十分とも言える。九尾たちは確信しているようだが、私はどうにも腑に落ちない。
西園寺家の残党だと決まったわけではないので、不確定要素を話すことで、彼女たちに不安を抱かせたくない。
「ていうか、蒼紗の今日の恰好は何?もしかして、とは思うけど、もうてるてる坊主だとかいうんじゃないでしょうね」
「私も思いました。だって、梅雨はまだ始まったばかりですよ。それなのに、もうそれって」
「いいじゃないですか。どんな格好でも私の勝手です!」
私が考え事をしていたら、ジャスミンに唐突に今日の恰好を指摘された。彼女の言う通り、てるてる坊主をイメージしている。白い布を頭からかぶり、白いケープを足元までだらりと身につけている。季節感があっていいと言って欲しいくらいだ。
「それにしても、今年も嫌な季節が始まりましたね。これからしばらくは、こんな天気ばかりだと思うと、気分まで憂鬱になってしまいますね」
「こればかりは仕方ないわよ。私もこんなじめじめとした天気はごめんこうむりたいけど、日本にいる限り逃れられないから」
「もう、そんな季節ですか」
私たちは教室の窓から空を見上げる。どんよりとしたくらい雲が空を覆い、雨がしとしとと絶えることなく降っていた。
夏休みまでもう少し。梅雨が始まり、夏が始まろうとしていた。
 




