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51不法侵入者と遭遇しました

 玄関で靴を脱ごうか迷ったが、そこに男性の物の靴が置かれていなかったので、おそらく駒沢は土足で踏み入ったのだろう。それに倣うわけではないが、私も土足で上がることにした。私が土足でずかずか家の中を歩いていくと、後ろから覚悟を決めたジャスミンも土足で上がってきた。


「鬼崎さんって、壁に何か貼っていたの?引っ越しするときにはがさなくちゃいけなくて、無理にはがしたみたいで、壁がだいぶ汚れているけど」


 廊下を進み、鬼崎さんの私室まで歩いていると、壁の違和感に気付いたジャスミンが指摘する。先日見た壁一面の無数の写真がないことに違和感を覚えた。彼女の言葉通りなら、引っ越しをするためにはがしたと考えるのが妥当だが、それにしても、あの大量の写真をはがすのには、結構な時間がかかりそうだ。


「私がこの家を訪れたときには、壁一面に写真が貼られていました。写真はテープで張っていたみたいですから、テープ痕が残っていますね」


「写真ねえ。私の予想だけど、その写真って、もしかして心霊写真だったりとかしない?鬼崎さん自身はそういう系に興味はあっても、案外、霊の方に嫌われてたりして。だから、実は心霊写真に見せかけたインチキ写真を自慢げに飾っていた可能性はあるわ」




「がた」


 壁から写真が消えていることに驚きつつも、ジャスミンの自らの推測を聞いていた。ほとんど正解に近い推測に思わず彼女の顔をガン見してしまった。そうしているうちに、廊下を抜けた先の、彼女の私室で物音が聞こえた。


「私たちの存在に気付いたのかしら?それで、攻撃の準備を進めているとか」


「彼女の部屋で探し物をしていて、部屋のタンスに足をぶつけただけかもしれないです。それにしても、ジャスミンは最近、頭が冴え渡っていますが、何か変なものでも食べたのですか?」


 奥から物音が聞こえたということは、やはり駒沢は彼女の私室に用事があるということだ。これで彼以外の人がいるとは思えない。さっさと用事を済ませて、この家を出よう。ここは、写真がなくなっても、まだ気色悪い感じがするので、根本的にやばい物件なのかもしれない。


 ジャスミンの推測に感心しつつも、部屋の奥にいる男のことを考える。


「ねえ、蒼紗。私のことに感心しているのはうれしいけど、もうすでに私のことが眼中にないのね。ああそうですか。わかりました。私が先に様子をうかがうから、あんたはここで少し待っていなさい」


「確かにジャスミンの方が先頭を行くのに便利な能力ではありますが。ジャスミン!」


 彼女に対する態度がそっけなかったのか、彼女は拗ねてしまったようだ。そして、あろうことか、駒沢がいるだろう鬼崎さんの私室のドアを開けようとしていた。


「いたっ!」


 しかし、ドアをジャスミンが開けることはなかった。ドアは私たちとは反対側から押され、ジャスミンの頭がドアに当たり、悲鳴が上がることになった。




「おや、こんなところで会うとは奇遇ですね。鬼崎さんなら出かけていまして、留守ですよ」


 ドアを開けて、突然私たちがいたのに、目の前に現れた大学教授は少し目を見開くだけで、私たちの存在に驚くことはなかった。


「駒沢先生こそ、家主がいない部屋に勝手に入り込んで、不法侵入ですよね。何か探し物ですか?女子大生の部屋に不法侵入とか、犯罪ですよ。通報されて警察に捕まったら、仕事を失って、人生お先真っ暗ですよ」


 いたたたとドアでぶつけた額を押さえるジャスミンが正論を訴える。私もなにか言わなくてはいけない。どんな言葉をかけようか迷っていると、頭の中に声が聞こえた。


『やっと会えたのか。さっさと話を済ませろよ。ほら、外を見るがいい。雨水のガキが雨をいい具合に降らせているぞ』


「廊下で話すようなことでもないので、そちらの部屋に入ってもいいですか?いや、家主でもない人に許可を取る必要はないですね。勝手に入らせてもらいます」


 声の主は九尾だった。彼の言う通りならば、外は雲が立ち込め、雨が降っているはずだ。久しぶりの雨水君の能力を間近に感じることができる。彼には迷惑をかけている自覚はあるので、さっさと雨を見ながら、駒沢から話を聞きだすとしよう。私が彼に声をかけると、戸惑ったような回答が返ってきた。


「いや、この部屋には彼女の個人的なものが多いので、リビングで話しましょう。話ならそこで伺いますよ」


「なあに、女子大生の家に不法侵入しておいて、彼女の私室を私たちに見せたくないなんて、頭いかれているでしょ。蒼紗が入りたいのなら、私が入れてあげるわ」


「待ちなさい。本当にその部屋は」




『うるさいわね。ちょっと黙りなさい!』


 きっとジャスミンが彼を睨みつける。彼女の瞳は吊り上がり気味のため、その瞳に睨まれると、迫力がある。それに加えて、感情が高ぶると、瞳が爬虫類のように変化して、不気味さがアップする。その瞳に睨まれると、蛇に睨まれた蛙のごとく、しばらくの間、相手は動けなくなる。駒沢の制止を聞かずにジャスミンが能力を発動させる。


「な、身体が動かな」


 威嚇の能力とでもいうのだろうか。ジャスミンは駒沢の動きを封じた。身体が思うようyに動かせず、うめき声をあげるが、私たちはその様子を一瞥し、彼の脇を通り抜け、ジャスミンと二人で鬼崎さんの私室に足を踏み入れた。


「うん、確かにあんたの言う通りかもね。いったい鬼崎さんはこの部屋で何をしようとしていたのかしら?」


 彼女の後に続いて部屋に入った私は、先日部屋に入った時とはまったく違う部屋の様子に愕然とした。


 私が彼女の部屋に入った時は、廊下に貼られているような、心霊写真もどきが壁の無数に飾られている以外は、特に変わったことのない普通の部屋だったはずだ。


「これは他人に見せたくないわね。でも、駒沢はこの家の家主でもないのだから、部屋の様子を気にする必要はないけど。何か、私たちに見られては困るものでもあったのかしら?」


 ジャスミンが部屋の感想を伝えるが、私は部屋の変貌に驚いていた。引っ越しの準備のためなのか、壁に貼られていた写真ははがされ、それが片付けられずに床に散乱していた。そして、いまだに私や犬史君に使われたお香のにおいが部屋に立ち込めていた。窓を見ると、先日、私たちを助けるために九尾たちが割った窓がそのままになっていた。あれから時間が経っているが、治す暇はなかったのだろうか。いや、九尾にかけられた記憶改ざんで、窓のことまで手が回らなかったのだろう。


「それにしても、どうして窓が割れているの?もしかして、蒼紗、この窓はあんたが関係しているのかしら?」


「引っ越しの準備をしていて、出かけたという感じがしますが、それにしては部屋が不自然に散らかっていますね」


 彼女の言葉は間違っていないが、私がすべて悪いわけではない。あの時はやむを得ない状況だったのだ。図星を指され、ごまかすように部屋に散乱したものに目を向ける。


「別に私の家じゃないからいいけど、でも、この状況で窓が割れているのは最悪。ほら、雨が入り込んでくるじゃない!」




 雨水君の力のおかげか、割れた窓からは雨が吹き込んでいる。慌てて窓から離れて雨が当たらない部屋の奥に移動する。ザーザーと雨が地面にたたきつけられる音が外から聞こえてくる。


 駒沢は、この部屋で探し物をしていることがばれるのを防ごうとしたのかもしれない。床には写真の他に、引っ越しの準備のために取り寄せた段ボールの箱が転がっていた。すでに梱包されている箱もあったので、封がされていない箱の中を覗いてみることにした。


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