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47突然の退学の理由は

「今日から大学ですか」


 大学に着いた私は、今日もコスプレ衣装に着替えるために、更衣室に向かった。今日の衣装は。


「おはようございます!」

「おはよう、蒼紗」


 更衣室から出て、授業がある講義室まで歩いていると、二人が声をかけてきた。私も挨拶を返そうとしたが、綾崎さんの大声に遮られてしまった。


「おはようござ」


「蒼紗さん、聞いてください!大ニュースですよ。美瑠が昨日、私に連絡をくれたんですけど、彼女、親の都合で大学を辞めるそうなんです!」


「いきなりな話ね?蒼紗は確か、昨日、その女に会ったはずでしょう?何か言っていたの?」


 綾崎さんの話にぎくりとするが、同じサークルで親しかった綾崎さんに大学を辞めることを伝えるのは自然だろう。二人には昨日のことをどのように伝えたらいいだろうか。


「いえ、昨日は何も、ですがいろいろありまして……」


「いろいろって、あいまいな表現ね。私たちに話せないようなことなのかしら?」


「蒼紗さんは、美瑠と何を話したんですか?」


 二人に問い詰められても、あいまいに答えるしかない。鬼崎さんの部屋の様子や、彼女がやろうとしていたことを話してもよいことか、私には判断できかねる。


「昼に話せるところは話しますが、彼女の個人情報もありますので、そこはご了承ください」


 私は、何とか話を午後にまで先延ばしすることで、授業中にどうやって昨日のことを話すのか考える時間を得た。




「ねえ、蒼紗は今日の恰好は誰かのまねなのかしら?いつのようなインパクトある服装とは違うみたいだけど」


 廊下を歩いていると、ジャスミンが今日の服装の違和感について質問してきた。綾崎さんは私をじっと見つめ、考え込んでいる。


「蒼紗さんの恰好、どこかで見たことがあるような気がします。どこだったか……」


 悩んでいるのなら、答えを見つけるまで黙って置こう。きっと、綾崎さんなら私の今日の格好が誰のまねなのか気付いてくれるはずだ。




 午前中の授業の内容が左から右に流れていく。どこから話したらいいだろうか。鬼崎さんの趣味、家のこと、塾に通っている犬史君のこと、怪しい薬、駒沢とのつながり、彼女について話すとなると、これらのどれから話すか、どれを話すべきではないか。


「ううん、他人に話すのは難しいです」


「蒼紗、そんなに思いつめなくても、別に綾崎さんには軽く彼女の表面のことだけ話してあげればいいんじゃないの?どうせ、能力者がらみの面倒な案件なんでしょ。ああ、でも私には洗いざらい話してもらうわよ」


「ジャスミンって、九尾と同じで人の心を読むことができるんですか?」


 授業も聞かずに鬼崎さんのことを二人にどう話すかを考えていた私は、きっとぼおっとしていたのだろう。それにしても、ジャスミンが私の考えていることを当ててしまうとは驚きだ。授業中にも関わらず、ジャスミンがこっそりと話しかけてきた。隣の綾崎さんは真剣に授業を聞いていて、私たちの会話に気付く様子はない。


「綾崎さんから、彼女の退学の話を聞いた時から、暗い顔をしていたから、聞いてみただけよ。蒼紗って無表情に見えるけど、一年も一緒に過ごしていたら、顔の表情くらい読み取れるようになるわよ」


 それに、最近は表情が豊かになってきたから、結構読みやすいし。


 くすりと笑いながらの最後の言葉に、なんとなくイラっと来て、机の下の足をガシッと蹴ってやった。ジャスミンはイタッと小さく悲鳴を上げていたが、私の心は少し楽になり、鬼崎さんの話は自分の話せる範囲で話すことに決めた。せっかく高い授業料を払っているのだ。ノートを広げて、スクリーンにうつされた内容と先生の話を聞いて、大事なところはメモすることにした。




「それで、昨日美瑠は蒼紗さんに何を話したのですか?GWの最中、授業が会った時は何も言っていなかったのに、突然の退学。彼女の話は不自然な点が多くて、どうにも納得できかねました」


 昼休み、学食で昼食を取ろうと席を決めて、席に荷物を置いた。学食を食べようと席を立ってすぐに綾崎に午前中の話を持ち出された。綾崎さんはお弁当を持参で、お弁当を包んでいたバンダナを広げていた。


「あの、私、学食を買いに行きたいのですが、話は食べながらでもいいですか?」


「あ、すいません。美瑠のことがずっと気にかかっていてつい」


「そんなに気にかけなくても、あの子、図太そうだから、実家に帰ってもすぐに戻ってくるんじゃないかしら?」


 私が学食で頼むことも忘れるほど気にかかっていたのか、綾崎さんは私の指摘に慌てて頭を下げる。その様子にジャスミンが口をはさむ。私は急いで学食の食券を買って食堂に並ぶことにした。今日は唐揚げ定食を頼むことにした。


「蒼紗さん、佐藤さんに何とか言ってやってください!美瑠はそんなひどい人じゃないです!なのに、私たちに別れも告げずに去っていった薄情者といってくるのです!」


 ガタンとテーブルにお盆を乗せると、席に着いて、ゆっくりと綾崎さんの表情をうかがう。綾崎さんは鬼崎さんの退学がよほど堪えているのか、悲しみと寂しさなどが入り混じった複雑な表情をしていた。


「だって、本当のことでしょう?それなのに怒る理由がわからないわ」


 私が学食を買っている間に二人で話していたらしい。ジャスミンは学食に来ているのに、学食を頼まずにコンビニ買ってきたおにぎりを食べていた。




「あの、綾崎さんは、鬼崎さんの部屋に行ったことがありますか?」


 二人の緊迫した雰囲気に耐え切れず、ジャスミンの発言に怒っている綾崎さんに質問することにした。


もし、綾崎さんが彼女の家に行ったことがあるとすれば、彼女の行き過ぎた非日常を求める異常性に気付いていたのかもしれない。そうだとしたら、今回の彼女の暴走をもっと早くに止めることができただろうか。


「家には行ったことはないです。美瑠は一人暮らしで、部屋が散らかっているから、他人を呼べるような場所ではないと言っていました。あれ、そうなると、蒼紗さんはどうして招待されたのでしょう?」


「蒼紗はもてるから仕方ないのよ。自分のすべてを見て欲しくてたまらなくなるの」


「ジャスミンが何を言っているのか理解できません」


綾崎さんが彼女の部屋に行ったことがないのはある程度予想していたことだ。他人にあの部屋を見られたらやばいという概念が彼女にも会ったということだ。それには少し安心した。


「私はむかつくけど、佐藤さんの言う意味が少しだけ理解できます。はあ、やっぱり蒼紗さんは特別な存在ですね」


 二人はたまに、よくわからないところでお互いの意見が通じるところがある。突っ込むと面倒なことはわかっているので、彼女たちを無視して、昨日の鬼崎さんの家でのことを話していく。


「ええと、昨日は、鬼崎さんとは趣味のことでいろいろ相談されまして。退学のことは最後の方でちらっと」


「本当ですか?」


 私の話に食いついた綾崎さんに、私は彼女の非日常を追い求める趣味と、親の都合で大学を退学することになっている話を綾崎さんに伝えた。親の都合で退学することは、実家に帰るかもしれないということしか聞いていないとごまかすことにした。趣味は気味悪がられない範囲で適当に話すが、部屋の写真については触れないことにした。





「なるほど、非日常を求めてこの大学に。だから、私たちに近づいてきたのですね!」


「私たちが非日常って、どう意味かしら?」


 それまで黙っていたジャスミンが口をはさむ。


「だって、私たちの周りって、不思議なことが多くおこるでしょう。たぶん、それを狙って私たちに近づいたんですおよ!はあ、結局、真の目的は私ではなく、蒼紗さんでしたか」


「まったく、蒼紗の近くにいると、退屈しないけど、敵も多くて厄介ね」


「私も今回の件で改めて実感しました」


 いつの間にか二人は私を生暖かい視線で見つめ、互いに顔を見合わせて頷き合っていた。何か二人にしかわからない友情でもできたのか。ガシッと手まで握り合っている。


『一緒に蒼紗 (さん)と守っていきましょう!』


 よくわからないが、喧嘩しているよりも見ていて気分がいいので放っておくことにした。私は黙々と、唐揚げを食べることに専念した。



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