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46GWが終わりました

 それからは、大変だった。突然いなくなった狼貴君に翼君がパニックになり、そのせいで精神が不安定になり、それが姿にも影響して、小学生くらいの少年になってしまった。九尾は狼貴君の突然消えたにも関わらず、全く探すそぶりを見せないので、私はその様子に怒りをぶつける。その間にも時間は無情にも過ぎていく。


 狼貴君の消息を掴めないことだけに気を取られていたら、二階の私の部屋に犬史君が上がってきて、彼の対処にも追われた。


「ええと、どうして僕、朔夜先生の家に居るの?」


「そ、それは、そうだ!私が実は狼貴お兄さんと仲がいいって話をしたら、話を聞きたいと犬史君が言ったんですよ。それなのに、自分のことで忙しくて犬史君のことをおろそかにしていました。ごめんなさい」


犬史君は狼貴君のことは覚えていて、彼が死んだということに記憶が書き換えられている。とっさに狼貴君のことを話題に出して、犬史君に言い訳する。


「狼貴兄さんのことをどうして先生が知っているの?」


「ええと、それは……」


 どこから九尾に記憶を書き換えられているのかわからず、九尾に助けを仰ごうとするが、その九尾の姿が見当たらない。いつの間にか、翼君の姿も見えなくなっていた。





「ピンポーン」


 このタイミングで誰だろうか。居留守を使おうかと思ったが、私の家に来る来客は大抵、居留守を見破り、家に入ってくる。勝手に入られては困るので、犬史君に来客対応をすることを断り、インターホンを確認する。


「はい、朔夜ですけど」


「あの、すいません。うちの息子がここに居ると言われたのですが」


「ハイ、今すぐ玄関に向かいますので、少々お待ちください」


 これは偶然だろうか。いや、誰かが私の家に犬史君がいることを通報した者がいる。今のところはその謎の人物に感謝だが、このタイミングでの保護者の来訪はできすぎている。後で、しっかり九尾たちと協議する必要がある。


「お母さん!」


「犬史!行き先も告げずに遊びにいかないで。心配したのよ」


 犬史君が玄関に姿を見せると、がしっと犬史君の肩を掴み、母親は犬史君と顔を合わせる。そして、彼が本物だと確認すると、涙を流し、ひしと抱きしめた。犬史君も最初は戸惑ったような表情を見せていたが、母親に会えてうれしいのか、母親の背中に手を回し、しっかりとしがみついていた。




「ご迷惑をおかけしました。犬史、帰るわよ」


「お邪魔しました」


 犬史君と彼の母親は、私に挨拶をすると、あわただしく私の家から出ていった。


「結局、犬史君の記憶はどこまでどのように書き換えたのですか?私の家に居ること理由がわからず戸惑っていましたが」


 二人を送り出し、私はリビングに入ると、そこには姿を消していた九尾と翼君の姿があった。


「記憶を上書きした時に、その辺の記憶は余計だと思って消しておいた。だが大した影響はないだろう?それにしても、あのガキの迎えは誰が呼んだのだ?ずいぶんタイミングが良かったようだが」


「僕は呼んでいません。そんな余裕ありません。狼貴がいなくなったことで頭がいっぱいで」


 翼君の姿はいまだに少年姿のままだった。不安でいっぱいの顔をして、頭のウサギの耳はしょんぼりと垂れている。


「ということは、われでもないし、お主でもない。誰かわれたち以外の第三者が親に連絡を入れたということか」


 私たちの間に沈黙が流れる。第三者の存在として考えられるのは。


「この件に駒沢が関係しているということでしょうか?」


 頭に浮かんだ人物の名前が口からポロリと零れ落ちる。言葉にすることでさらに強い確信に変わる。あの二人がつながっているのなら、鬼崎さんに何かあったら連絡がいくようになっていて、そこから犬史君の親を呼びだすことはできないことはない。


「その件については、別にどうでもいい。しかし、そいつには鬼崎とかいう奴が持っていたお香やら、その前の薬の入手ルートは調べて吐かせる必要がある」


「で、ですが、僕たちの記憶を消してしまった彼女から情報を吐かせるのは難しいかと」


「いや、すでに目星はついている。蒼紗の言っている駒沢という男が怪しい。鬼崎という女から、そいつとのやり取りが記憶から読み取れた」


 人外にしか効果のない薬、人に幻覚を見せるお香。人間の常識が通用しない、人外の存在。そんな存在に彼らは協力を仰いだ可能性が高い。もしそうなら、かなりの警戒をして彼と対峙する必要がある。


「お主はどうしたいのだ?」


 話の途中で、九尾が私に急に意見を求めてきた。もちろん、この事件の解決を願うに決まっている。鬼崎さんがやっていることはおそらく犯罪だ。そして、それに加担している駒沢も同罪だ。彼らを処罰することは必要だ。しかし、九尾が言いたいのはそこではないらしい。


「別に彼らをどうこうするのは、われらには容易いことだ。証拠も残さず消し去ることも可能だ。もし、お主がそれを望むなら、消してやってもいい。お主が望むのなら、だが」


「九尾は私にどうして欲しいのですか?」


 九尾の意味深な発言について考える。もし、私が彼らを罰して欲しい、滅して欲しいと願えば、簡単に承諾してくれる。私の言葉に従う九尾に違和感を覚えるが、どうしたらいいか自分で決めていいなら、私は。


「処罰するのは、一人になっているがな。二人のうち一人はすでに、記憶の消去が済んでいて、われらの脅威にはなりえない。蒼紗に聞いているのは、男の方だ」


 確かに鬼崎さんの記憶は消去済みと、九尾から聞いているし、彼が嘘をついているとも思えない。翼君もこの場にいるが、彼の言葉に反論することなく黙って聞いている。


「とりあえず、目先のことからやっていくことにします。まずは、明日大学で、駒沢に直接話をします。それから対処を考えたいと思います」


 犬史君や鬼崎さん、駒沢の件についての話はここで終わりとなった。私の腹が再度、空腹を知らせる大きな音を鳴らしたからだ。




「よほどお腹が減っているみたいですね」


「ええと、ハイ」


「話をしているだけでは何も解決しないからな。今日はもう、お主は休め」


「僕、ご飯の支度をしますね。それまでお菓子でも食べて休んでいてください」


 翼君が明るい声を出してキッチンに歩いていく。私は棚からポテトチップスを取り出して開け、バリバリと音を立てて食べ始める。ご飯を作ってくれる翼君の手前、あまりたくさん食べては失礼だが、空腹に耐えきれず、袋の半分くらい食べてしまった。


 私にとっては昼食兼、夕食のハンバーグを食べ、風呂に入り、ベッドで寝ようという頃になっても、狼貴君は私たちの前に姿を現すことはなかった。


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