39GW最終日の予定を改めて確認しましょう
「もしもし、鬼崎ですけど」
「あの、朔夜です。ええと、GW最終日のことで少しお話ししたいことがあるのですが」
私は九尾たちに言われるままに、スマホで鬼崎さんに電話した。コール音が鳴るとすぐに彼女は電話に出た。
「朔夜さん、どうしたんですか?朔夜先輩からこちらに連絡してくるのは初めてで、うれしいです。お話しとは何でしょうか?」
彼女はどうやら、電話できる状況のようだ。
「そのことなんですけど、鬼崎さんは紅犬史という子と知り合いですよね?」
特に世間話をするような親しい仲でもないので、すぐに用件を切り出すことにした。
「犬史ですか……。知り合いですけど、彼と朔夜先輩はどういった関係が?」
「私がアルバイトをしている塾の生徒なんですけど、彼と少し連絡を取る必要ができました。ただ、塾の名簿を使って連絡を取るのは少し気が引けまして。保護者を通さず、彼個人とお話をしたいのです。彼が塾で鬼崎さんの名前を出していたので、仲がいいのだと思って、電話してみたのですが」
「彼個人と連絡を取りたいのですね。朔夜先輩の頼みというならば、喜んで受けましょう。ですが、いったいどのような用事なのですか?もしよろしければ教えていただきたいのですが。彼とは先輩の言う通り、年下ですけど、悩みを聞いたり、いろいろ話したりして仲がいいと私は思っています。彼のことなら、私も聞いておきたいです」
私は、九尾たちにも内容が聞こえるように、通話をスピーカーにしていた。彼らにも彼女の話が聞こえているはずだ。どう答えたらいいか目配せすると、翼君がキッチンにおいてあるメモ用紙に何か書き込み始めた。
『犬史君のお兄さんのことで、相談されました』
「ええと、犬史君のお兄さんについて、鬼崎さんは何か聞いていませんか?お兄さんのことで、犬史君に相談されて」
『お兄さんは一年前くらいに行方不明になったが、犬史君は自分の近くにいると言っています』
さらに、翼君は文字を追加していく。これを私が読めということだろう。素直に読もうと口を開く。
「そのお兄さんですが、一年前」
「朔夜先輩はどこまで知っているのですか?その話は、彼と私の二人きりの秘密にしようと言っていたのですが」
『犬史君のお兄さんが行方不明で、亡くなっている可能性もあるのに、会いたいと言っていること、鬼崎さんが彼に合わせてくれると言ったことなどです』
「えっと、行方不明で、死人に会えると鬼崎さんが言っていること、ですかね」
鬼崎さんの言葉に抑揚がなくなり、低い声で尋ねられ、翼君にぐいとメモ用紙を押し付けられ、慌てた私はちぐはぐな返事をしてしまった。
「ずいぶんと犬史は先輩にいろいろ話しているようですね。わかりました」
「もしもし」
「翼君!」
私ではダメだと判断したのか、翼君がいきなり私のスマホを奪い、鬼崎さんに向かって声を発した。その直後、今度は狼貴君が翼君からスマホを奪って口を開く。
「オレが、犬史がお兄さんと言っている男だ。お前はオレに会いたがっているだろう?犬史とオレを引き合わせてくれたら、お前とも会ってやってもいい」
「ちょっと、狼貴君!」
私のスマホを奪ったのも驚きだが、狼貴君が、突然自己紹介したことの方が衝撃だった。そんなプライベートな情報を流して、何を考えているのか。
「うふふ。まさか、ご本人が電話に出てくれるとは驚きです。いいですよ。皆さんで、私の家に遊びに来てください。犬史も呼んでおきますので」
電話はそれで終わりとなった。私はこれ以上、翼君や狼貴君が余計なことを言わないように慌てて、ありがとうございますと言って、電話を切った。
「狼貴のやり方はかなり強引でしたけど、これで、犬史君と会うことができます。それで、僕たちは何をすればいいのでしょうか?」
電話が終わると、私たちは鬼崎さんと会ってどうするかということを話しあうことにした。翼君が話を切り出すと、九尾がそれに対して指示を出す。
「それだが、まずは蒼紗の後をついていけばいいだろう。蒼紗が犬史や鬼崎とやらに接触して、タイミングを見計らって合図を我らに送ればいい。その合図とともに、我々は目の前に姿を現せばよかろう?どうやら、彼女はそういう、非科学的な現象に目がないそうだからな」
「おおざっぱで適当な計画ですね」
「他にあれば、お主が言ってみろ」
九尾の提案に私は、どうしようかと頭を悩ませる。たしかに、私の後をついてきて、合図で目の前の姿を現すことは、鬼崎さんにとって、格好の観察対象となるはずだ。その隙に犬史君を外に連れ出し、別れの話をしてもらうのは、別に悪い話でもないだろう。
「しかし、そんなことをしなくても、鬼崎さんは、狼貴君たちを自分の家に招待しますと言っていましたけど」
電話の途中で狼貴君が自分の正体を明かしたおかげで、彼らも私と一緒に彼女に招待されている。わざわざ外で待機して、私の合図で姿を現す必要があるのだろうか。
「あやつを警戒するに越したことはない。別に招待されたからと言って、堂々と姿をさらしていくこともないだろう。そもそも、われらの目的は、狼貴とその犬史とかいうガキが別れ話をすることだ。それができればいいのだから、問題はない。お主が鬼崎という女と話したいなら、話しておけばいい。その隙に我らは我らの目的を果たす」
「九尾の言う通りだと思います。僕たちは蒼紗さんの後ろをこっそりとついていきます」
「犬史と会えればオレはどっちでもいい」
結局、それ以上に良いアイデアが出なかったので、九尾の作戦を実行することになった。
「お主は明日から大学はやすみか?」
夜になり、そろそろ寝ようかと思っていたら、九尾が質問してきた。特に疑問に思わず、素直に質問に答える。
「明日からまた、休みになりますけど」
「それなら、今日はもう休んだ方がいい。能力を使ったのなら、疲れもたまっているはずだ。休みは長いが、休める時に休むことは大切だ」
「僕も急に眠たくなってきました」
「オレも」
九尾の休んだ方がいいという言葉に、翼君と狼貴君が不自然に眠たいアピールを始めた。翼君は手に口を当てて、あくびのまねをしているし、狼貴君も同じように目をこすって眠いとアピールしている。
「ということで、我たちは先に休むことにする、今日はこれから大荒れになるかもしれんから、窓はしっかり閉じて寝た方がいい」
「おやすみなさい」
三人は声をそろえて私に挨拶すると、私が彼らに与えた部屋にこもってしまった。
明日は大学が休みと言ったのに、それなら休めというのは、矛盾している。いったい、今夜何があるのだろう。
「とはいえ、確かに今日は疲れました。おとなしく寝ていればいいということなら、言葉通り、休むことにしましょう」
私は眠気に耐え切れず、ベッドに入るとすぐに寝てしまった。




