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36既視感を覚える会話

「コンコン」


 部室のドアをたたくと、中から『入ってもいいですよ』と鬼崎さんの軽い返事があった。そのため、遠慮なく入らせてもらうことにした。


「あら、朔夜先輩ではないですか。珍しいですね、一人でこの場に立ち寄るなんて」


「確かに、部室に一人で顔を出すのは初めてですね。私はこのサークルに入部していませんから」


 サークルに入部していないのに、一人で部室に足を運んでいる私は少し変わっていると思うが、それくらいでおかしいということもないだろう。外からは、運動部が練習している声が聞こえる。外の声に気を取られていると、突然、鬼崎さんが私に質問する。



「ねえ、蒼紗先輩は、妖怪とか神様みたいな、人外の存在っていると思いますか?」


 部屋にいるのは、私と鬼崎さんの二人だけで、他に誰もいないようだった。さて、どう答えるべきだろうか。


「鬼崎さんは居ると思いますか?」


 鬼崎さんの質問に私は答えず、逆に質問してみた。私の答えは簡単だ。『いる』という一言で事足りる。しかし、そんな簡単に答えていい雰囲気ではなかった。鬼崎さんの言葉にどう答えたら正解かわからなかった。


「私は蒼紗先輩に聞いているのになあ。まあいいです。だって、私、蒼紗先輩の秘密、知っちゃいましたから!」


 私が質問に答えなかったことにいら立つことなく、逆に嬉しそうに私の秘密を知っていると話す鬼崎さんだが、何を知っているというのだろうか。私には他人には言えない秘密だらけだが、もしかしたらカマをかけているだけの可能性もある。



「あれ、この会話……」


 綾崎さんの質問と、私が答えた内容に既視感を覚えた。二人きりで話したことはほとんどないのに、どこかで同じ会話をしたような気がした。さらには、私はこの後の会話をなんとなく想像することができた。鬼崎さんが今後とる行動もなんとなく予想できた。



「私の秘密を知ることと、妖怪や神様がいることの話のつながりが見えないのですが」


 とりあえず、当たり障りのない言葉で質問の意図を探ってみることにした。私が綾崎さんの行動を予知していることを相手に悟らせてはダメだと、本能が告げていた。


「わかっているくせに、往生際が悪いですね。それで、どうして神様なんかを連れているのですか。しかも、後を追ってみれば、死神ともつながりがあるみたいですね」


「鬼崎さんって、そういう系に憧れでもあるのですか?確かにそんな人外の存在がいたらいいなとか、面白い世の中だなと思うことはありますけど」


 綾崎さんは私の言葉に害することなく、さらに話を進めていく。ここから、綾崎さんの過去話が始まるだろうと感じた私は、慌てて口をはさんだ。


「死神なんて、この世にいるわけないですよ。あれは空想上のもの、さらに言うと、神様も幽霊も何もかもが所詮、フィクションです。それに興味を持つのは自由ですが、それを私に当てはめるのはどうかと」



「そうなんですよね。私、昔からそういうものに目がなくて。いつか本物に会ってやると意気込んでいました。そして、高校時代にこの大学を知った時は歓喜しました!ようやく私が追い求めていたものが見つかる、と」


「はあ」


 鬼崎さんが突然、自分の過去を語りだした。私の言葉は無視され、勝手に過去話が始まってしまった。


「この大学に入れて本当に良かった。最初は、半信半疑で入ったこのサークルも、大して面白くない授業もどうでもよくなった。蒼紗先輩に出会ったから!」


 今度は、私に指を突きつけていた。どう反応していいかわからず固まっているが、気にした様子はない。


「蒼紗先輩の独特な雰囲気に興味を持って調べてみれば、出てくるわ出てくるわ。蒼紗先輩自身が人外の体質、周りも神様に死神、果ては能力者に死者が生きている。蒼紗先輩の周りは私にとって理想の場所だった」


「それで、いったい、私に何をして欲しいんですか。私の立ち位置を譲ってほしいというのは、無理ですよ。彼女たちは私になぜかご執心で、きっと鬼崎さんには見向きもしないと思います」


「そうなの。だから、困っているのよねえ。それで、一生懸命考えたんだけど、蒼紗さんって、どうやったら死ぬのかしら?」


「死ぬ?」


 背中に冷や汗が流れる。これはやばい状況だ、どうにかしてこの状態を回避する手立てはないものか。


「蒼紗先輩がこの世からいなくなれば、彼らは次の退屈しのぎを探し出す、蒼紗先輩の後釜になることならできると思うの。だから」


「ところで!」


 私は何でもいいから、この後の展開を変えたくて、大声を出す。そして、手に持っているだろう派光るものを鬼崎さんの手から無理やり奪うことにした。


「な、何を!」


「ところで、鬼崎さん。私、鬼崎さんに聞きたいことがあって、わざわざ会いに来たんです。そうしたら、鬼崎さんも私に用があったみたいですね。私、鬼崎さんに恨まれるようなことをした覚えはないのですが」


 刃物を取られた鬼崎さんは動揺していた。その隙に目を合わせ、本題を聞けるよう、能力を使った。


「犬史君について、詳しく教えなさい!」


 私の身体と鬼崎さんの身体が金色に光り始める。私の瞳も金色に輝いていることだろう。能力をかけられた鬼崎さの瞳から色が消え、私の質問に答える状態となっている。




「それにしても、危うかった。予知夢を見ていることを忘れていたら、私、もしかしてこの刃物で刺されていたってことでしょうか」


 はあと大きなため息がこぼれる。刃物を奪う際、刃の部分に気を付けて彼女から奪ったため、怪我をせずに済んだ、私の能力の一つ、予知夢が役に立って良かったとひとまずほっとした。


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