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30GWに予定が入りました

 私の今日の恰好は、新選組の浅葱色の羽織をまとった袴姿である。GWの端午の節句で兜、そこから連想して武士、新選組という流れで今日の服装が決まった。ジャスミンは、町娘をイメージしたのか、黄色に赤の格子柄が入った着物を着ていた。綾崎さんは特に変わった服装ではなく、ピンクのカーディガンに白いスカートを履いていた。


 ジャスミンは私の衣装と関連付けられることを喜んでいた。「蒼紗に助けられる町娘」と嬉しそうだった。逆に綾崎さんは、なぜか悔しそうな顔をしていた。




「もうすぐ、GWですね。ジャスミンたちは、GWに何か予定はあるのですか?」


 世間話のノリで、二人にGWの予定を聞いてみた。あわよくば、二人の予定が空いていれば、一緒に遊べたらいいなと思っての質問だった。すると、思わぬ回答が二人から返ってきた。


「ごめんね、蒼紗。どうしても外せない用事が重なっちゃって。GWは蒼紗と遊べないの。ほんとに意味わからないわ。蒼紗より優先すべきことはないのに!」


 悔しそうにうなるジャスミン。


「ごめんなさい。私もどうしても外せない用事がありまして」


 綾崎さんもジャスミンと同様に予定が詰まっているらしく、私とは遊べないらしい。


「い、いやいや、そこまで申し訳なさそうにしなくてもいいですよ。ただ、予定があったら一緒に遊べたらいいなと思っていただけですから。普通は予定があるものですよね。わかっていましたよ。気にしなくて大丈夫です。GWは九尾たちと家でのんびり過ごします」


 二人の申し訳なさそうな顔にいたたまれなくなり、慌てて私のことは気にせず、用事とやらを済ませてくださいと伝えると、二人はさらに申し訳なさそうに謝罪してきた。


 私が気にしないでと言い、彼女たちが謝罪する。そんなことを繰り返しながら、大学の廊下を歩いていると、前方から鬼崎さんがやってきた。今は、二時間目の授業が終わり、私たちは食堂に向かっていた。




「おはようございます。蒼紗先輩。何を話していたのですか?」


「おはようございます。大したことではありませんよ。GWの予定を」


「あなたには関係ないでしょ。部外者は引っ込みなさい!」


「佐藤さん、そこまで言う必要は……。はっ!いいことを思いつきました!」


 鬼崎さんが私たちに気付き、何を話してきたのか聞いてきた。特に隠すようなことでもないので、正直に答えようとしたら、途中で二人に邪魔された。綾崎さんに至っては、私の話を遮って飛んでもないことを言い始めた。


「美瑠はGWに予定はある?私たち、どうしても外せない用事があってね。もし、予定が空いているなら、蒼紗さんと一緒に過ごしてもらえないかな?」


『はあ?』


 私とジャスミンの口から同時に声が出た。いったい綾崎さんは何を言い出すのだろうか。私と鬼崎さんがGW一緒に過ごす。どう考えても、楽しい想像ができない。むしろ、やばいことしか起こりそうにない。


「わ、私が蒼紗先輩とGWを一緒に過ごす、ですか?」


「そうだよ。ちょうどいいじゃない!美瑠は蒼紗さんのことが気になるって言っていたみたいだし。美瑠は女子だから、彼氏になるわけでもないし。蒼紗さんの魅力を知るいい機会だよ!」


 綾崎さんの力説に鬼崎さんは戸惑っているように見えた。私も戸惑いの方が大きく、悪い方向にしか考えられない。しかし、考えようによっては、これは良い機会かもしれない。二人きりなら、新歓コンパの写真拡散の件や、犬史君の件などを一気に聞くことができる。


「綾崎さん、もし、鬼崎さんの予定があえば、ですよ。ほら、私って、人見知りがひどくて、なかなか親しい友達が見つからなくて、ジャスミンや綾崎さんにそれではダメと言われてしまいまして、一人で寂しいGWを過ごすことになるのかなと思っていたので」



 私も、綾崎さんの意見に便乗することにした。いかにも友達が少ないアピールをして、鬼崎さんの関心を引くことにする。そもそも、鬼崎さんは初めて私と会った時から、妙に私に関心を持っているのだ、こんなことをしなくても、おそらく、喰いついてくるだろう。


「そこまで言うのなら、私、実は前から、蒼紗先輩と二人きりで話してみたいと思っていたんです。なので、GWに私の家に一度遊びにきませんか?」


「なっ!蒼紗、そんな危険な女の、しかも家になんて!」


「ありがとうございます。日程は鬼崎さんが決めてください。私はいつでも構いませんよ」


 ジャスミンが私の後ろで叫んでいたが、無視して、鬼崎さんにお礼を言う。


「ところで、今日の服装も朔夜先輩によくお似合いです」


「ええと、ありがとうございます」


「それでは、私はこれで失礼します」


 GWに綾崎さんの家にお邪魔する話が決まり、彼女とはその場で別れた。別れの間際、私の服装について触れ、似合っていると言われた。お世辞なのかわからないが、好意的に受け止めることにした。


 昼食はどうしたのかと尋ねると、すでに食べてしまったようで、食堂から教授たちがいる研究室に向かっていたそうだ。





 鬼崎さんと別れて食堂に着くと、今度は駒沢と出くわした。今日は駒沢の授業は入っていなかったので、会わないと思っていた。そのため、会った瞬間、顔をしかめてしまった。


「こんにちは、朔夜さん」


「こんにちは、駒沢先生」


「人の顔を見て、顔をしかめるのは失礼ですよ。私でなかったら、単位が落ちるかもしれないくらいのひどい顔をしていますよ」


「そんな顔はしていません。先生は珍しいですね。学生の食堂にいるなんて」


「たまには、授業や研究室以外で、学生との交流を図るのもいいかと思いまして」


「蒼紗、さっさと行きましょう。早くしないと学食の席がなくなるわよ」


「えええ、せっかく駒沢先生に会ったのですから、もう少しお話を」


 相変わらず、二人の意見は正反対である。私はどちらかと言うと、ジャスミンの意見に賛成なので、会釈してその場を通り過ぎることにした。


「先生、佐藤さんもこう言っていますし、私はこれで」


「そうだね、引き留めて悪かった。私もこの後、学生と会う予定があったのだった。それにしても、朔夜さんは会うたびに面白い服装をしているね。それは、君の趣味なのかい?」


「秘密です」




 私は綾崎さんの腕を強引につかんで、小走りでその場を離れた。ジャスミンが私と同じ速度で小走りでついてくる。


「別に秘密にする必要はなかったんじゃない?」


「いえ、駒沢先生は、極力、私の情報を与えたくないので」


「いいじゃないですか?どうしてそんなに先生のことを警戒するんですか?」


 駒沢から強引に離れ、私たちは空いていたテーブル席に座る。駒沢の質問に秘密と答えた私の返答が気に入らないのか、二人が文句を言っていた。


「秘密です」


『ええええ!』


 私は、席を立ち、学食の食券を買うために席を立った。






「駒沢先生、遅かったですね」


「ええ、彼女と偶然食堂で会いまして。少し話をしていました」


「先生のおかげで、私、毎日が楽しくて仕方ありません」


「僕もですよ。これからもよろしくお願いしますね、鬼崎さん」


「こちらこそ、駒沢先生」


 鬼崎さんと駒沢は、研究室で二人、互いを見やって楽しそうに笑っていた。


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