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3今日から新学期、新たな仲間が増えました②

 授業が始まり、一週間が過ぎた。前期の時間割を大学に登録して、いよいよ本格的に大学生活2年目がスタートした。


 ガイダンスの日以来、九尾も七尾の姿も大学で見かけない。授業料を払って大学に通っている私たちと違って、ただの退屈しのぎに通っている彼らとでは、大学に通う意味が違う。大方、大して大学の授業が面白くないとか、面白い大学生がいないなどの理由で来ないのだろう。大学に来てくれない方が、厄介ごとを持ち込まないので、私としてはありがたい。


 午後の授業を終え、家に帰ろうかと思っていたら、綾崎さんに引き留められた。


「あ、蒼紗さん、この後、用事がないというのなら、私のサークルに寄ってみませんか?新しい仲間がサークルに入ったんですけど、なかなか面白そうな子なんです!蒼紗々さんに紹介したいのですが」


「ふうん。要するに、綾崎さんのサークルの後輩ということね。面白いというのなら、会って見てもいいと思うけど、ちなみに、その子の性別は?まさか、男じゃないでしょうね?」


「私が蒼紗さんに男を紹介するわけないでしょう?女子ですよ。女子」


「あ、あの」


「それなら、会ってもいいわね。蒼紗の魅力には、男女関係なく引き込まれるから、あまり関係ないけど、一応、男より女の方がいいわ」


「佐藤さんに心配されなくても、私が蒼紗さんに男を紹介するはずありません!」


 その場にジャスミンもいたのだが、彼女も特に用事がなかったのか、興味津々に綾崎さんの話を聞いている。さらには、綾崎さんは私に会わせたい後輩がいると言っているのに、その後輩の品定めをし始めた。私が口を挟もうとするが、遮られてしまった。


 綾崎さんは、私と同じ学部の同級生で、一年生の後期ごろから一緒に行動するようになった。私の苦手な教授を彼女はたいそう尊敬していて、その教授が私に目をつけているのが羨ましいらしい。とある死神事件の際に、彼女のお兄さんといろいろあって、それからジャスミンと一緒に私に付きまとうようになった。ただし、彼女には私の秘密を話してはいない。あくまで、ただの大学生同士の仲である。



「あ、あの」


 再度私が二人に話しかけると、二人同時に私の方に顔を向ける。


「とりあえず、私も一緒に綾崎さんの後輩とやらに会ってあげることにしたわ」


「余計なお世話ですよね?佐藤さんが来る必要はありません!」


「ええと、なんだか私、用事を思い出したので、二人でサークルにいって」


『蒼紗 (さん)が来ない(来てくれない)と、意味ないわ(です)!』


 なんだか雲行が怪しくなってきたので、こっそりとその場を去ろうとしたが、二人が私の行き先を阻むかのように立ちふさがった。にっこりとほほ笑む二人の圧がすごくて、私は仕方なく、綾崎さんが所属するサークルに顔を出すことにした。


 そういえば、綾崎さんは私をどのように後輩に説明したのだろうか。私は、綾崎さんについていく途中で見つけた姿見で、全身を確認する。今日のコスプレ衣装「桜」に見立てたピンクのワンピースに、頭に桜の花びらの髪飾りをつけた大学生の女性がそこに立っていた。





「こちらが、私の親友の朔夜蒼紗さくやあおささんです。私の最も尊敬する人でもあります。それで、こっちのおまけみたいなのが、佐藤さん」


「よろしくお願いします。朔夜蒼紗です」


「説明が雑ね。まあ、あんたには期待していなかったから。初めまして、佐藤です。蒼紗の唯一無二の親友です。そこの女が言っていることは嘘で、蒼紗の親友は私だけです!」


「それこそが嘘よ。美瑠。私の言うことが本当だと、あなたならわかるでしょう?」


 綾崎さんが所属するサークル「妖怪調査サークル」の部室までやってきた私たちは、綾崎さんから一人の女性を紹介された。綾崎さんが私たちの紹介を終えると、ジャスミンと綾崎さんが口論を始めた。


 二人が口論している間に、綾崎さんの後輩だという女性を観察する。雰囲気がとても大人びている女性だった。黒髪ロングのストレートを背中までさらりと流し、服は黒いワンピースを着ていた。黒い服のせいか、肌が青白く見えるが、とてもきれいな肌をしていた。


 私たちの他にも部屋には数人の部員がいて、新入生勧誘の準備のためか、ビラをどこで配るかなどの話し合いをしていた。



「綾崎先輩、少し落ち着いてください。それから、私の紹介をさせてください」


 ジャスミンと綾崎さんが言い争いをしばらく眺めていたら、女性が凛とした声で話し出す。その場に響き渡る。澄み渡った声だったが、同時に冷たさも感じる鋭利な声で、私はその声に思わず身震いした。しかし、綾崎さんは慣れているのか、軽く返答する。


「そ、そうね。佐藤さんに構っている暇はなかったわ。彼女が鬼崎美瑠おにざきみる。私たちと同じ学部の一年生。この春、入学したばかりの新入生なの!」


「初めまして、鬼崎美瑠と申します。春から大学生になりました。綾崎さんが所属する『妖怪調査サークル」に興味をひかれたので、入部しました」


「美瑠はね、世の中の心霊現象に興味を持っていて、心霊スポットとか、心霊写真とかに詳しいんだよ!」


「妖怪と心霊現象は違うかもしれませんが、非科学的な、世の中で解明できていないことを調査するのは同じかと思いまして」


 綾崎さんが彼女の自己紹介を補足し、それに対して彼女自身も説明を加える。




 自己紹介した彼女がぺこりとお辞儀するので、私が慌てて頭を下げる。ちらとジャスミンを見ると、彼女に何か感じるところがあったのか、真剣な表情で彼女を見つめていた。よく見ると、肌のあちこちからかすかにウロコが見え隠れしている。


「じゃ、ジャスミン。落ち着いてください」


「蒼紗、帰りましょう。私、この子と相性が悪いみたい」


「どういう」


「ねえ、蒼紗さんも心霊現象とかに興味はあるでしょう?私が蒼紗さんについて話したら、美瑠がそれならぜひ、話しをしてみたいって言っていたの。これから三人で一緒にご飯でも食べに行くのはどうですか?」


 ジャスミンのただならぬ様子に、私も警戒を強める。しかし、私たちの様子に気付かない綾崎さんがのんきに、食事の誘いをかけてきた。


「あ、綾崎さん!」


「綾崎先輩、どうやら、朔夜先輩たちはこの後、用事があるみたいですよ。引き留めては申し訳ないです」


「そうなの?さっきは用事はないって……」


 私たちのただならぬ様子に気付いたのか、鬼崎さんの方から、私たちとの食事をやめようと提案された。それに便乗してジャスミンが早口に言い訳する。


「それは、優しい蒼紗が綾崎さんのことを思って用事がないと言っていただけよ。まったく、そんなことにも気付かないなんて、まだまだ蒼紗のことを理解していない証拠ね」


 話をしながらも、ジャスミンの身体のあちこちにうっすらとうろこが見え始めている。瞳もわずかに瞳孔が狭くなり、爬虫類の瞳のようになりかけている。


「ええと、佐藤さん、どこか調子でも悪いんですか?」


「そうみたいです。今日はこの辺で帰らせていただきますね。ジャスミンに言われて、大事な用事を思い出しました。まったく、私もうっかりしていますよね。ついでに調子の悪いジャスミンも連れて帰ります」


 無理やり私たちは綾崎さんが所属する「妖怪調査サークル」の部室を出た。廊下を歩いていると、ジャスミンはようやく落ち着いたのか、大きく深呼吸した。


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