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25嫌な予感がします

「おはようございます。今日も素敵ですよ、蒼紗さん!」


「おはよう蒼紗。今日はまた、面白い恰好をしているわね。そんな蒼紗もキュートで大好きよ!」


 月曜日。私の今日の服装は、鬼をイメージしたものにした。角を頭から生やし、服装も鬼っぽくしてみた。赤い着物に長いかぎ爪を爪に張り付け、足下は下駄である。


「おはようございます。お二人は双子みたいに服が似ていますけど、そろえたのですか?」


 ジャスミンと綾崎さんは、二人ともふわふわの黄色のケモミミに、ふさふさの黄色い尻尾をつけていた。ケモミミ女子大生が二人いた。


「私は蒼紗が先週の写真の影響を受けて狐で来ると思ったから、狐にしてみたのよ」


「私だって、蒼紗さんが新歓コンパの件で狐にするだろうと予想しての恰好です!」


 自分たちが一緒にされているのが気に入らない二人が、一斉に私に話しかけてくる。そんな様子が微笑ましく、つい顔がにやけてしまう。


「ふふふ、まあ、そう言うことにしておきましょう。早く行かないと授業が始まりますよ」


『蒼紗(蒼紗さん)が笑っている』


「これはレアですよ。佐藤さん、私、この笑顔が見られるのなら、あなたと多少の協力はしてもいいです」


「同感ね」


「何をしているのですか。急がないと」


『ハーイ』


 急に仲良く返事をした二人が走り出し、私の前を行く展開となり、私が後を追いかける羽目になった。





「では、授業を始めます」


 授業に間に合ったはいいが、月曜日の最初の授業は駒沢の授業だった。私はできれば取りたくないのだが、駒沢の授業を取らないと卒業ができない。いわゆる必修科目というものだ。駒沢以外の必修科目を取ってもいいのだが、たまたま、私のバイトや他の取りたい授業がかぶって、駒沢の授業を取らざるを得ないのだった。


 それ以外で私はもう一つ、駒沢の授業を取っている理由がある。駒沢はどうやら、私に甘いようで、結構良い成績で単位をくれるのだ。単位をもらうにしても、良い成績でもらえるのはうれしい。


 とはいえ、駒沢が苦手なことに変わりはなかった。二年生に進級しても、相変わらず、ねっとりとした視線は変わらず私に向けてくるし、研究室への誘いも減っていない。


「魂というのは、科学的観点からはおよそ認められるものではなく……」


 今期の授業は、幽霊と魂についてだった。その関係で死神や死者の概念なども合わせて学んでいく。なんとなく、今身近に起きている事件と関係しているような内容だったので驚いたが、まさか授業の内容を事件に関連付けているわけではないはずだ。授業内容は結構前に決められると思う。嫌な結び付けを思いついて頭が痛くなるが、気にしないことにした。






 お昼休憩になり、学食に移動した私たちは、先日投稿されていた九尾たちの写真の件で盛り上がった。


「私もびっくりしたんですよ。どうして、美瑠があの時撮った写真をSNSに挙げたのかって。美瑠に直接聞いたら、逆に『どうしてあんな面白い写真を挙げないという言う選択肢があるのか』と不思議がられてしまいました」


「地味な顔して意外に大胆ねえ。しかもアカウント名がうけるんだけど」


「それは佐藤さんにも言えるとは思いますよ」


 鬼崎さんのSNSのアカウント名を笑っているジャスミンに、綾崎さんがツッコミを入れる。言われてみれば、ジャスミンという愛称は日本人にあまりないかもしれない。


「私はいいのよ。蒼紗がつけてくれた愛称だもの。本当は羨ましいんでしょ!私が蒼紗にしか呼ばれない愛称で呼ばれているのが」


「う、羨ましくなんか!いや、私だって、蒼紗さんだけに呼ばれるのなら、蒼紗さんがつけてくれる愛称なら喜んで呼ばれます……。でも、蒼紗さんは、私のことをいまだに苗字呼び……」


 このまま彼女たちを放置していると、私に被害が及ぶだろう。綾崎さんの名前は確か、麗菜れいなだった。今更名前呼びは恥ずかしいので、無視することにした。ジャスミンの場合、佐藤という全国で一番多い名字だったので、名前呼びの方がいいかなと思ったが、彼女の場合、綾崎という苗字なので、このままでも不便しないだろう。


 名前の話題を変えるため、私は綾崎さんに別の質問をした。




「あの、そういえば、鬼崎さんは今日、大学に来ていますか?SNSの写真の件を詳しく聞きたいのですが」


「美瑠は、今日は授業がないから、大学には来ないみたいですよ。当人に話を聞きたいって言っても、どうせ、彼女は興味本位でSNSにあの写真を載せたに決まっています。あの子、意外にこういうオカルト系大好きだから」


 大学に来ていないのなら仕方ない。今日はあきらめるとしよう。私は残り少なくなったランチを口に押し込んだ。窓の外を見ると、桜はすっかり散って、今は緑の新緑が青々と茂っていた。






「すいません、前にもお話ししましたが、5月から当分、塾を休むことになりそうです」


 塾に着くと、すでに車坂が仕事を始めていた。そして、私がタイムカードを切って、仕事をしようと思った矢先に話し始めた。今日も翼君が一緒である。


「例の魂狩りの件ですか?」


「ご名答。なかなか犯人が捕まらなくて。目星もつかない状況で。調査に本腰を入れることになりました」


「もしかしたら、彼女が今回の事件のカギを握るかもしれないです」


 車坂の言葉に、私はなんとなく思ったことを口にしてしまった。確固たる証拠があるわけではないが、今回の一連の流れは、彼女たちが起こしているのではないかと漠然と思った。


「彼女?」


「そうです。私の大学の一年生ですけど、彼女が私たちにご執心みたいで、ああ、でも、私の思い違いかもしれないので、気にしないでください」


 私の言葉をどう受け止めたのか、車坂はしばらく考え込むような表情で黙り込む。


「今は少しの情報でも欲しいくらいです。彼女の名前などを教えてもらえませんか?」


 車坂は鬼崎さんの情報が欲しいようだった。私は彼女の名前とサークルに入っていること、怪異などのオカルト系に興味があることを伝えた。しかし、私が見た夢については話さなかった。


「ありがとうございます。朔夜さんの言っている人物も調べてみることにします。情報は多い方がいいですから」


「朔夜先生、今日は早めに帰った方がいいかもしれませんよ。なんだか嫌な予感がします」





「ガラガラガラ」


 翼君が唐突につぶやいた言葉を私は真剣に聞くことなく、適当に流してしまった。ちょうど塾の扉が開かれて、生徒がやってきた。彼の言葉をもう少し真剣に聞いていたらよかったと思うが、今の私にわかるわけもなかった。


 今日最初に来た生徒は犬貴君だった。彼はすっかり塾のメンバーになじんでいた。週に一度しか来ないため、あまり他の生徒との交流はないが、私としては、しっかりと勉強に取り組む姿は好感が持てる。他の生徒たちも勉強熱心だが、それよりさらに彼は勉強に熱心な気がした。


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