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11深夜に徘徊する死体

「次のニュースです。意識のない人間が夜中に徘徊しているという話題についてです」


 いったい、私が住んでいるこの地域は、呪われでもしているのだろうか。朝、今日は一限目から大学の授業が入っていた私は、朝食を食べながら、テレビを見ていた。


 私の起床時間に合わせてくれるのか、大抵の場合、翼君と狼貴君の二人と一緒に朝食を食べることが多かった。しかし、昨日、外出宣言をした狼貴君は、その場にいない。


「これ、知っていますよ。最近、深夜に一人で道を歩いていると、突然、意識を失ったような人間がふらふらと目の前に現れるというものです。怖くなった人間は一目散に逃げるので、詳しいことはわかっていないみたいですが、どうも、そのふらふらとした人間は、『死体』らしいですよ」


 ニュースが説明してくれる前に、翼君が簡潔に説明してくれた。死体が動くというのは、おかしな話で、普通ならありえない。


 いったい誰が何のために、こんなことをしているのだろうか。そして、新学期早々、私はまた変な事件に巻き込まれる運命なのか。



「はあ、蒼紗さん。ご自分の顔を鏡で見ない方がいいですよ。ひどい顔になっています。蒼紗さん、実は……」


 ニュースと翼君の話を合わせて、今後のことを考えていただけなのに、そこまでひどい表情になるわけがない。いたって普通に考え事をしていたはずだ。ただ、今回も面倒くさい事件に巻き込まれそうだと思っただけだ。


「ほら、また、その顔ですよ。蒼紗さんは、平穏な日常を望んでいるのではなかったんですか。そんなに、ニュースと僕の話に興味が惹かれて、巻き込まれたいですか?」


「何を言っているのか、わか」


「蒼紗をそんなに追い詰めるなよ。お前もこやつの性格をだいぶ理解してきたのなら、わざわざ口に出して言うことでもあるまい」


「ですが、あまりにも表情が楽しそうで」


「心配するでない。蒼紗はそこまでやわにはできておらん。能力も持っているし、それに」


 九尾が二階から降りてきて、私と翼君の会話に割り込んできた。


「それに、お主が死ぬことはないはずだろう?」


 私の特異体質のことを言っているのだろうか。今まで風邪は引いたことはあるが、大きな病気にも怪我にも見舞われていない。大怪我をするようなことがなかったが、もしかしたら、この体質は大怪我もすぐに治るのかもしれない。


「それで、お主、大学は間に合うのか?一時間目からあると言っていたが」


「そうでした!こうしてはいられません。翼君、申し訳ないけど、片付けを」


「もちろん、僕がやっておきます。洗濯とか掃除も僕がやっておきますよ。居候の身ですから、当然のことです」


 私は急いで大学に行く支度を整え、行ってきますと大きな声で挨拶して、大学に向かうのだった。





「珍しく遅刻ギリギリね。寝坊でもしたの?髪もぼさぼさだわ。それに、私服そのままで授業を受けるのなんて、久しぶりに見たわ」


「蒼紗さんの私服をまじまじと見たことがなかったのですが、いつものコスプレを見慣れていると、かなり地味ですね。いえ、決してバカにしているのではなく、ええとそう、シンプルな服だからこそ、蒼紗さんの美しさがよりはっきりと伝わってきます!」


 今日は、あまりついていない日のようだ。家を出るのが遅くなったのは仕方ないが、その後も、電車が風の影響で遅れていて、なぜか今日に限って、信号に引っかかった。そのため、更衣室での着替えをする時間がなかったのだ。地味と言われるが、灰色のパーカーにジーンズで普通の格好だと思う。


「寝坊はしていませんが、ニュースをちょっと真剣に見てしまったので」


 私が言い訳のように朝のことを話すと、ジャスミンと綾崎さんは、その事件について知っていたのか、翼君と同じことを教えてくれた。私以外の周りの人間は、どうやって情報を集めているのだろうか。


「その話なら、私も知っているわよ。死体が動くって言うのは、本当かどうか怪しいわね。そもそも、死体って、病院とかで保管されたり、祭儀場とかで一晩寝かせたりするけど、基本的にすぐ燃やすでしょう?その辺に転がっていないのに、どうして人々の前に急に現れることができたのかしら?そもそも、見た人はどうして、動いているのが死体だと断定できたのか不明ね」


「佐藤さんにしては、考えが鋭いですね。それは私も疑問でした。私のサークルもその事件で持ち切りですよ。今度、深夜に本当に動く死体に出会えるのか、検証しようという話まで出ています」



「ごほん」


 大講義室の前方で咳払いの音が聞こえ、私たちは慌てて口をつぐむ。今は、大学の授業中だということをすっかり忘れていた。そこまで声を大きくして話していたつもりはなかったが、案外声の大きさは出ていたようだ。先生には申し訳ないことをした。


 それからは、静かに授業を聞いていた。話は昼休みに持ち越しされることになった。





「先ほどの話ですけど、検証はやめておいた方がいいと思います、もし、本当にそれが動く死体で、追いかけてきたら対処できますか?」


 食堂で私は、授業中の綾崎さんの言葉に忠告することにした。もし、死体が本当に動くとしたら、それはきっと、能力者や死神、神様の行った仕業である。能力のない、一般人の綾崎さんが首を突っ込んでいい事件ではない。


「対処って、まさか、本当に死体が動くはずないですよ。追いかけてきても大丈夫です。私、こう見えて、足には自信があるんです!」


 私だって、自分のこの特異体質や能力、大学一年で経験したことがなければ、鼻で笑っていた事件である。すでにありえないことがあり得るということを知っている私には、綾崎さんの行動は危険であると思えてしまう。


「私も蒼紗に賛成かな。だって、綾崎さんって、弱いでしょ。弱い人間に不思議を追求する権利はないと思うわ。それに、こういう事件は、私と蒼紗のコンビが華麗に解決するのが王道っていうものよ。だから、邪魔しないでくれる?」


 私と同じで、綾崎さんのことを心配しているかと思ったが、そんな優しい性格をジャスミンがしているはずがなかった。


「ジャスミン、その言い方だと、私とジャスミンが探偵みたいに聞こえるのですが」


「私はそのつもりだけど。蒼紗、顔と言葉が一致していないわよ。こんなに一致していない人、初めて見るレベル」


「うわあ、私も初めて見ました。蒼紗さん、実はこういう、オカルト系の話が好きなんですか?楽しくて楽しくて仕方ないっていう顔になってます」


 どこかで聞いたことのある言葉だ。私は綾崎さんが首を突っ込まないか心配しているだけだ。決して、動く死体を見に行きたいとは思っていない。


「今度は急に、深刻そうな顔になったわよ。それにしても、出会ってからずいぶん、蒼紗は表情が豊かになったわね」


「そんなことはないと思いますけど」


 そんな感じでのんびりと会話をしていれば、あっという間に時間が過ぎてしまい、昼明けの授業が始まる時間となってしまった。



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