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第三話 エミリー登場

 ちょうどその頃、エミリーは道に迷っていた。

 キャラメルモカのロングヘアーに、手入れの行き届いた白い肌。くっきりとした二重まぶたに、華奢な体。その身体に似合わない、重装備に見えるシルバーの鎧をガチャガチャと音を立てながら歩いていた。


「皇女であるこの私が、森で迷うなんて……」


 と、ぶつぶつ言いながら、薄暗い森と、一人でずんずんと進んでいく。しかし、分け入っても分け入っても森の中である。彼女は、フッ――とため息をついた。


「どうしよう、全然帰れる気がしないわ。ほんと、意地なんか張らなきゃよかった……」


 と、彼女は後悔を言葉にした。


***


 エミリーは、数時間前に、父親と喧嘩した。


 事の発端は、彼女が部屋で魔法の勉強をしていたときだった。

 彼女は、いくら頑張っても魔法が使えない自分に腹が立ち、物に当たっていた。


 そんな彼女のはしたない行動を、第一皇女である姉に見られてしまったのだ。


「仮にも皇女の一人であるあなたが、こんな品のないのでは、お父様の面目が丸つぶれですわ。お母様に、報告させていただきますね」

「は!? なんでそんなことすんのよ、ほっといてよ」

「姉に向かってその言葉遣いはいったいなにかしら? それも報告いたします。それにしても――」


 姉は、ちらとエミリーの勉強机を見て、


「ほんと、あなた魔法の才能がないんですね」


 と言ったのがまずかった。エミリーは、発狂した。


「なによ! あんたは確かに魔法がなんちゃらかんちゃらだけど、魔法ったってね、偉くないのよ!」

「は? 言ってる意味が――」

「うるさい! その喋り方やめて! 私だって、私だって――努力してるんだから!」


 エミリーは姉に向かって杖を振り回し、それが頭にクリーンヒットした。

 姉はあまりの出来事に、気を失い、その場に倒れ込んでしまった。

 それを、遠くから眺めていた家政婦が王妃に通報した。王宮の中は、しばらく喧騒に包まれた。


 そこでエミリーが、王である父親の前に呼び出されたというわけである。


「貴様はなにをやってんだ!」


 王はたくましい顎鬚を梳きながら、大声で怒鳴った。


「ご……ごめんなさい……」

「お前は何か? この家にうらみでもあるのか?」

「い、いえ……そんなことは……」


 エミリーは頭を床につける。精神が完全に参っていた。しかし――


「まったく、お前はまだ魔法も習得しとらんようだな。努力が足りないんじゃないか」


 と、王が言った途端、エミリーは急に立ち上がって逆上した。


「くそじじい、さっきから聞いてれば、ねえ、ほんと、魔法が偉いっていったって、それは全然おかしいじゃない!」

「いや、何言ってんのかさっぱりなんだが、とりあえず座れ――」

「うるせえ、黙れってんだよ、私はね、私は――努力してんだよ!」


 と、エミリーが叫んだところで、彼女は家政婦たちに取り押さえられてしまった。娘のあまりの口の悪さに、父親は激怒した。


「親になんて口の利き方をするのか。去れ! しばらく、俺の前に姿を見せるな!」

「ああ、いいわよ。こんなところ、出てってやる!」


 エミリーは家政婦の手を振り払い、鎧を乱暴に取り上げ出ていった。

 王は、その背中を見て、少し後悔していた。


「……ちょっと、言いすぎたかもしれん……」


 無論、父親の言葉はエミリーには届かなかった。

 彼女は、王宮を飛び出し、北の森へ向かった。


***


 北の森は、エミリーのいるヘルメス国では、立ち入り禁止区域に指定されていた。

 そうでなくても、暗く、果てしなく、空気に触れるだけで憂鬱な気分になってしまうこの森に、好き好んで入る人間もいない。人間はおろか、動物の姿だって見当たらない。いても、小さな虫けらのみである。


 無論、彼女も長く森に滞在するつもりはこれっぽっちもなかった。ちょっと入って、頭を冷やして、魔法の練習でもして父に謝ろうと思っていた。

 だが、それは甘い考えだった。彼女は、森から抜けられないでいた。


 そして、もうほとんど消耗しきっていたのである。


「疲れてきたわ……鎧ってこんなに重いのね……帰りたい……」


 歩けども歩けども、道は奥へ続いていた。

 もはや、東西南北も分からない。日はまだ暮れてはいなかったが、広葉樹林の広がるこの森で、太陽はどちらにしろほとんど見ることはできなかった。


「ハァ――私、このまま死ぬのかしら」


 エミリーは弱気になっていた。もう、森から出られるという楽観的思考が挟まる余地も残されていないように思われた。

 食を取ろうと思っても、出るときに携帯していた、パンの耳のみ。


「フフッ、笑っちゃうわね。王族が、パンの耳以外に食べるものがないなんて」



 ――と、その時、


 ドゴォ!!!!


 と、近くで爆発音が響いた。

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