第十四話 魔法検定試験
「――着替えてきたが……」
俺は、エミリーに言われるがまま、銭湯へ行って身体を洗って着替えてきた。
異世界初の銭湯、やばいよ。ゴリマッチョとか、半分狼とか、ハリウッドの映画みたいなのがいっぱいいたんだけど。やべえ、じろじろ見てたの気づかれたかな。
そんで、服――
「似合うじゃない」と、エミリーが笑顔で言った。
「そ、そうか――」
ごめんな、語彙が足りなくて形容できないんだが、あれだ、どうやって着たらいいか分からない薄緑色の魔法のローブっぽいやつと、某竜系のクエストゲームの主人公が来ていた、旅人の服的なやつ? 真っ白なんだが――を着てる(ごめん)。
大きな皮のベルトも、こっちの世界のと全然違って苦労したわ。ちらちらとこちらを見ていたゴリマッチョがしびれを切らしたのか、つけてくれた。教えるの凄く上手かった。
ただ、この皮のブーツ、めっちゃ動きやすい。なにこれ、何の皮だか知らんが、こんなん履いたことないぞ……。
「全体的に防御力を上げてくれる服にしたわ。レイ、ひ弱そうだし。後、魔法陣が編み込まれてて、汚れないようになってる」
「えっ、そんな便利なことあんの!? 凄いな、魔法……」
「こんなので驚いてたら、キリないよ。さ、行こう!」
と、俺らは、新制度なる資格試験の会場へと向かった。
***
「――はぁい、こちらは魔法検定試験会場ですっ! 参加希望の方はこちらにお並びください!」
会場スタッフの女性が、入口で大声を出していた。なんだここは、人だかりがすごい。
建物は、中世風の教会のような作りになっていて、中はとても広々としていた。ステンドグラスが辺りにちりばめられ、独特な円形の模様は多分魔法陣だ。ハァ――驚くなって言われても無理だよ……。
盗み聞きしてみれば、魔法検定試験は、「魔検」と呼ばれていて、こっちの世界でいう、英検みたいなもんらしい。級もちゃんとあるそうだ。
俺らは一体何級取ればいいのだろう。
「――っと、申し込んできたわ。はい、受験票」と、エミリーは小さな紙を渡してきた。そこに書かれていたのは……
「一級!?」
と、俺がつい大声を出すと、会場がどよめく。何人かの人が、ひそひそしながらこちらをちらちらと見ている。
「ちょっと、あんまり騒ぎを起こさないで」
「――ごめんごめん、でも、一級って大丈夫なのか?」
「大丈夫も何も、ギルドを作るんなら、これくらいの資格がないとダメだわ」
英検一級と言えば、世界共通語で、話者人口も多い英語で、ご飯を食べていけるほどやばいやつだったのを思い出した。
それを、魔法で一級――やばくないか。魔法で食べていくってこと? ――……食べていくんだわ、俺、冒険者志望じゃん。
「うし、やるぞ、やるぞぉ!」
「――一級受験の方は、間もなく試験を開始しますので、こちらにお集まりください」と、会場スタッフの声が響く。人々の視線が、一級受験会場に集中した。
「レイ、行くよ」
「ああ」
俺らは勇み足で、受験会場に向かった。
――が、集まったのは二人だけだった。
「え、俺たちだけ?」
「まあね、さっきも言ったけど、難関だからね」
と、エミリーはこともなげに言う。凄いぞ、森にいたときの魔法コンプレックスはなんのそのだ。
さっき入り口で叫んでいた会場スタッフが近づいてきた。本当にこれで全員なのだろう。
「ええと、あなたたちが、受験希望者ですね。失礼ですが、卒業した学校などは――」
「どっちもないわ」と、エミリーが即答する。
「ええっ! で、では、何か他に実力を示す資格などは――」
「ないっていってるじゃない」と、イライラした様子でエミリーが答える。
「ふ、二人は、一級をお受けになるんですよね……?」
「だから、そうだって。この受験票が分からないの?」と、エミリーが俺の手を掴んで受験票を見せた。じ、自分の見せてください……。
「は、はぁ――じゃあ、筆記試験は受けますよね?」
「受けないわ」
えっ、受けないの? っていうか、筆記試験って何?
「受けないわよ。実技試験で一発、ドーンっと合格するわ」と、エミリーが胸の前で拳を握る。
「え、ええっと――実技試験だけですと、かなり合格ラインが厳しくなるのですが……」
「いいわよ、楽勝だわ。ね、レイ」
お、俺に話を振るな。と、様子を伺っていると、エミリーは凄い剣幕で俺を見た。怖い。
「あ、ああ、よ、余裕だな」
「そうですか……わかりました。では、間もなく開始するので、この先を進んでください」
俺らは、暗い洞窟のような道を歩いていた。本当に広い建造物なんだな。入り口付近のどよめきが、既に小さくなっていた。
「本当に、大丈夫なのか? エミリー」
「大丈夫よ。私たち、コカトリスを一撃で倒してるんだから。それに、あなたの魔法はもっとやばいわ」と、エミリーは笑顔で言った。
「まあでも確かに、筆記試験が必須だったらまずかったな。俺何にも知らないし」
「まぁ、私は、筆記試験は余裕なんだけどね――あ、そろそろ着くわ」
出口を抜けると、そこはただっぴろいスタジアムのようなものが広がっていた。
地面には芝生が生えそろっていて、二階には客席のようなものも設置されていた。もちろん、今は誰も座っていない。
随分ときれいな設備だ。普段はいったい何に使っているんだろう? サッカー?
とにかく、こんな設備を二人で独占できてしまうんだから、一級の受験は特別なのかもしれない。
スタジアムの中央まで進むと、目の前に、試験官らしきおじいさんが、怖い顔をして立っていた。ふさふさな白髪を七三にまとめ上げ、皺の多い目を厳しくこちらに向けている。
背が高いのに、すらっとした姿勢が、少し気品のある雰囲気を感じた。――が、どうやら何か、怒っているらしい。
近くまで寄ると、俺らをじろりと舐めるように見まわして、喋りかけてきた。
「久々の受験者かと思えば、小僧二人か。ふん、なめくさっておるな。――で? 名前は、エミリー・ヴァルキューレと、キング・レイ。ふざけた名前だな」
キング・レイ(笑)誰だよ(笑)




