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第十二話 キョートー

 ――おお、すげえ、すげえよ! マジか、これが“異世界”――


 眼前に広がるその景色は、いつか世界史の図表解説付き教科書で見た、イギリスかフランスかオランダか――いや、写真で見たどんなリアルな風景よりもリアルだった。解像度がやばい。


 街を歩く人、家の窓から顔を覗かせる人、遊ぶ子供、笑顔で微笑みかける老人。そのどれもが動いていた。生き生きと。生々しく。

 そして、中世として描かれていたよりも、道の端に生えていた草木は、現代とそんなに変わらないし、色合いもむしろ東京よりおしゃれだ。いや、東京は、グレーの街だったか。


 そういえば、エミリーの装いも随分と派手だ。身体のほとんどはごっつい鎧で見えないが、その鎧もゴージャスな装飾がたくさんついてるし、その隙間から覗く洋服も、なんか赤? 黄? 緑? なんかエロスじゃね?


「――なに見てんのよ」と、エミリーが目を細める。おっといけない。


「いやなに、エミリーもオシャレだなって思って」

「何を今更……」と、ツンとした顔をしてそっぽを向いた。

「それで、ここが――」

「そう、ここが私の国、ヘルメス国の城下町、キョートよ」


 キョート――……

 ぴーひょろろろろろろろ……と、高らかに鳥が啼いた。



 ***



「ぷは――疲れた」


 俺は、エミリーの案内で一通り街を回った後で、中央に設置された、噴水の縁に腰を下ろした。

 それを、エミリーが見下ろす。


「なっさけないねー、あなたそれでも男?」

「いや、男も女も関係ねーよ! もうね、だって考えてみて、情報量が多すぎ」

「さっきから情報量、情報量って……この町がそんなに珍しいかしら」と、エミリーはうんざりした顔で言った。こいつ――


「珍しいよ! いや、だってね、まずほら、文字! 文字、あれかよ、ローマ字だったじゃんローマ字」

「だからローマ字じゃなくて、ヘルメス語だって――」

「ヘルメス語の表記をローマ字っていうんだよ! ほんと、読むの大変なんだから。それに、なにあれ、お店もよく分かんないし、全然キョートじゃないし、武器屋とか防具屋とかかっけーなーって見てたんだけど、従業員らしきやつに首根っこ掴まれて投げ飛ばされるわ、てかお金がないからなんも買えないし、ご飯なんかおいしそうだし、てかなんでエミリーお金持ってないの? 王族じゃないの?」

「だーかーらー、私、家を飛び出してきたんだから、なんも持ってこなかったんだってば」


 エミリーは、俺が何か言うたびに、「持ってこなかった」の一点張りを貫き通した。悲しい、酷すぎる。案内するって言ったのに、全然助けてくれないし。


「……でも、エミリーも、そんな目立つ格好なのに全然声かけられないな。王族ってあんまり顔を覚えられたりしないの?」

「……まあね。私、勉強尽くめだったし……」と、エミリーは言葉を濁した。と、急に不機嫌な顔を露わにする。――どうしたのだろうか。俺は、すぐさま話題を変えた。


「しかし、どうしようかな。俺、お金ないし、今夜泊まる宿ないし。ぶっちゃけ、おなか空いちゃったんだよね――久しぶりに豪勢な食事を見ちゃったせいか」

「二週間も食べなかった人が良く言うよね。――てか、本当に何も持ってないの?」

「ああ、持っているのは、今着ているこのボロ服だけだ。めっちゃ臭う」

「……」


 エミリーは顔に手を当てて、考え始めた。

 というか、彼女の方こそ、こんな臭い俺と、良く行動を共にしてくれたものだ。さっき役に立たないとか思ってごめん。


 これは一緒に街を回って分かったことだが、エミリーはとても頭が良く回るということだ。街のマップは全部頭に入っているし、さっきは文句を言ったけど、案内の経路は満遍なく回れるよう計算されていたし。

 まあでもそれは当然だろう。俺の魔法の拙いあの講義を、即座に理解して、そっくり発想を転換してしまったのだ。さっきも勉強してばかりだったということを聞いたけど、きっと相当努力したに違いない。


 でも、それが裏目に出てて、会話がとても苦手なんだと思う。もしかしたら、あんまり人と話していないのかもしれない。というか、人見知りだ。俺も人見知り。――人見知り同士、波長が合うところがとてもある。


「――売るわ、この鎧」エミリーはとんでもないことを言いだした。

「は?」

「売る、売ってしばらく宿代にしましょう。美味しいご飯も食べる。うん、そうしよ?」

「え? エミリーの家に行けば――」


 俺がそう言おうとすると、エミリーは「いや」と言って手で制した。


「もうしばらく私は帰りたくないの。やだ。あんな窮屈なところ、もうほんとにいや」

「そうか――まァ、それは良いとして、よりによって鎧を売らなくたって……」

「え、それ以外の方法ある? 私、もうこんなごっつい鎧いらないし。強い魔法使えるもん」


 寝るときも鎧を外さなかったくせに――とツッコミかけて、やめた。彼女の目が怖い。マジな顔だ、これは。


「え、でも売ってからどうするの。お金だってすぐ尽きるんじゃ?」

「ふっふ――ン」


 と、エミリーは俺の隣にすとんと座った。ガチャリ、と鎧の音が鳴る。臭いから近寄ってこないでくれ――俺は、ちょっとだけ座る位置を外へずらした。


「なんで遠ざかるのよ。失礼よ」

「いやだって――」

「まあいいわ。一緒に、ギルドに加入してくれたら許してあげる。そこで金稼ぎましょ」

「へ?」


 ――ギルド。

 ギルドとは、あれか。あの、冒険者的なやつ。

 アバター作って、みんなで怪獣やっつける、あれ。素材とか集めて武器強くして、ランクどんどん挙げてく、あのロマン。あれか!


「ギルドあんのか!? え、行きたい! 行きたい行きたい行きたい行きたい」

「――え、レイってほんと変わり者ね……冒険者なんて拒否されるかと思ってた」

「なんで!? ギルドだよ!? あれよ、ファンタジー! 荒くれ者たちと一緒に、汗かいて、命のやり取りをするんだぞ!? 行きた過ぎるでしょ」

「そ、そう――ならよかった。じゃあ、決定ね」


 エミリーはホッと一息撫でおろす。え、冒険者って、そんなに嫌な仕事なのか? 危険の伴う仕事だから当たり前か。

 でも、今の俺には、魔法がある。昨日のコカトリスとの戦闘で、エミリーが風の魔法をぶっ放しているのを見て、俺もやってみたいって思ったんだよね。かっこつけて譲んなきゃ良かった。


「じゃ、色々準備するからちょっと待ってて。とりあえず、その格好じゃいくら強くても受け付けを通してもらえないわ」と言って、エミリーは立ち上がり、どこかへかけていった。


 うっしゃ――俺の第二の冒険がここからスタートする。うおっ、ワクワク、ワクワクすっぞ俺――!

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