プロローグ
池の畔の草原に小鳥達の小さな集落がありました。
その小鳥達は空は飛べませんが素早く動ける小さな身体と丈夫な足を持っています。
そんな小鳥達の中に飛びたい鳥がおりました。
けれど彼の翼は小さくて、とても空を飛べません。
いくら翼を羽ばたかせても体はちっとも浮き上がらない。
だから彼はいつも空飛ぶ鳥を見上げ思っていました。
いいなあ。
僕もあんな風に空を自由に飛べたらなあ。
そんな鳥のことを集落の仲間達は馬鹿にします。
「空を飛びたいなんて変な奴。」
「頭がちょっとおかしいんじゃないの。」
彼はすっかり集落の笑い者です。
そして、その彼の家族も肩身の狭い想いをしていました。
家族は何度も何度も彼を諫めようと語りかけましたが、彼は全く聞き入れません。
「いい加減空ばかり眺めてないで、現実を見なよ。」
「そんな暇があったら妹達の世話でもしてちょうだい。」
「夢を語る暇があったら、今日の晩御飯でも取ってきなさい。私達は飛べないんだ。」
「そんなことない。きっと飛べる。僕は絶対に諦めない。」
もう何度目かも分からない問答に家族は溜め息をつき、呆れ返って去っていきます。
けれど、彼の父親には不安に思うことがありました。
集落の中では飛びたいなどと考える彼は異質の存在であり、小さな社会では異分子は排除されてしまいます。
今はまだそれが笑い者にされるという軽い形で済んでいるから良い。
しかし、これから先何か起こったら・・・。
そう思うと不安で堪らないのです。
そして、その不安はとうとう現実となってしまうのです。
ポカポカ陽気のある日のこと。
その日も飛びたい鳥は空を見上げていました。
誰も僕の気持ちは分かってくれない。
皆はどうしてあの空を飛びたいとは思わないんだろう。僕は地面を駆けるだけの一生なんてイヤだ。
そんなとき、彼は青空に今まで見たこともない白い美しい鳥が飛んでいるのを見つけました。
飛びたい鳥はその美しさに眼を奪われて白い鳥を追いかけ駆け出します。
「待って!待ってよ!君は何処へ飛んでいくの?」
「君が見れない世界の果てを越え、どこまでも。」
白い鳥は飛べない鳥の声に唄うように応え飛んでいきました。
それからというもの、飛べない鳥はそれまでは形だけでもこなしていた仕事を放り出し益々空ばかり見上げるようになりました。
集落の仲間はそんな彼を見ていよいよおかしくなったのだと噂します。
中には集落から彼を追い出そうと言う声もありました。
また、頭のおかしいやつの家族も同じく頭がおかしいのではないかという噂がたつしまつ。
妹達は学校で周りから苛められます。
兄や父は餌の収穫に参加させてもらえず、自分たちで餌を取らなければいけないため、家族の食糧はどんどん減っていきました。
このままでは家族が生きていけない。
そう思った父は飛びたい鳥を呼び出しました。
「お前のためで家族皆が迷惑をしている。
それはお前だって気付いているだろう。
このままでは皆ここを追い出されてしまう。
いい加減くだらない夢は諦めて現実を見ろ。」
「くだらないなんて言わないでよ。
僕はこんな小さな場所で一生を終えるなんて嫌だ。
世界はとても広いのに・・・僕達はその殆どを知らないじゃないか!」
「私達はここから離れては生きてはいけない。
ここから離れたってのたれ死ぬのがおちだ。
何故お前は現実に満足できないんだ?
皆そうして生きているのだろう!」
「何がいけないの!?
こんなちっぽけな世界で満足できるわけないじゃないか!
大きな空に憧れて何が悪いんだよ!
父さんには何を言ったって無駄だ!」
「・・・・・・・・・。」
「───・・・・・・・・・。」
「なら、ここを出ていけ。
お前の言う大きい世界を見てくればいい。
ただし、もう二度と戻ってくるな。
お前は今日から家族でも何でもない。」
「───ッ!
分かったよ・・・。出ていけばいいんだろ!
出ていけば!
今すぐにでも出ていくさ!」
そう言って飛びたい鳥は家を飛び出しました。
母はそれを止めようとしますが、父はそんな彼女を止めます。
彼は飛びたい鳥はどうせすぐに帰ってくると思っていたのです。
外に出れば嫌でも現実が見えて夢なんてものは捨てると。