表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/60

森の中、聳え立つ遺跡

 戦士村から徒歩で五時間のところに、遺跡はあった。


 テトの北には森がある。鬱蒼として深く、木々の背が高い。覗き込むと暗くて、奥は見通せなかった。


 この森は、レヴァーレストからの街道の東にあった森と繋がっている。繋がっているけれど性質が違うそうで、別物として扱われていた。木々や草花の種類が違う事もあるらしいのだけど、決定的に異なっている事が一点だけあった。


「この森は最近まで、帰らずの森だったのよ」


 つまり入ったが最後、誰一人帰らなかった。それは魔物ですら例外ではなく、この森から魔物が現れた事は一度として無かった。それが二ヶ月程前に、突然現れるようになったという。東の森への備えとして滞在していた戦士達が辛くも退けたけど、以来この森も魔物の巣食う森として警戒と探索の対象となった。


 それから一ヶ月程戦士組合が中心となって、侯爵からの依頼もあって狩りと探索が行われ、そして遺跡が発見された。




 遺跡までの道は既に切り開かれていた。幅としては馬車がすれ違える程度もある。とは言え実際に通ったりはしていない。


 道はあるけど、ここは魔物が頻繁に出るらしい。そんなところで馬車を走らせようものなら、まず馬がやられて立ち往生する事になる。だから誰も馬車で向かおうとはしないし、そもそも禁じられている。


 この道幅の理由は、少しでも奇襲を避けるためだ。飛び道具に対してはあまり意味が無いけど、それが無ければ飛び出して来るしか無い。相手が賊であれば魔法や弓矢を警戒しなければならないだろう。ただ、獣の類いであるなら充分だ。


 今まさに、目の前で奇襲をあっさり見破って全滅させている。相手はゴブリンとオークの混成部隊だ。魔物と言うか、賊だね。


「ソニアよ。お前、すげえ狙われてなかったか?」


 ヘラルドさんが戦闘中に感じたのだろう疑問を口にした。僕は見ているだけだったけど、同じようには思っていた。何故かソニアさんばかりが集中的に狙われていたんだ。攻撃が集中していたと言うよりは、捕まえようと組み付いて来ていた。それをレイピアとバックラーで、簡単にあしらってたけど。


 戦闘にはミツキさんも参加していた。でも彼女は、ソニアさんのようには狙われていなかった。なので、女性だから狙われたという理由ではないと考えられる。


 その理由は、聞いてしまえば簡単な事だった。


「少し力を使ったのだ。これでも私はサ……サキュバスだからな」


「ああ、そういう事かよ。おかげで戦い易かったぜ」


 ソニアさん、サキュバスなんだ。見えないな……。でも少し頬染めて恥じらってるところは、滅茶苦茶可愛い。


 凛々しい女性が時折見せる表情って、良いよね。


「ソニア、坊主にも効いてるぞ」


「まさか、そんなはずは……」


「何言ってんの、ヘラルドさん!?」


 慌ててそう返すと、大笑いされた。おのれ……。


 あれか、この身体が勝手にそんな表情でもしてたか。厄介な。




 そんな道中で、一応お互いの自己紹介などが行われた。ソニアさんとヘラルドさんは、二人共銀級の戦士であるそうだ。面識はあったものの一緒に仕事するのは初めてだとか。


 銀と言うと、マリエラと同じだな。強いわけだ。


 レベッカさんは、ジンと言う魔族だそうだ。確か中近東あたりの魔神だったか精霊だったと思う。アラジンのお話で有名だな。


 ただ、そんな話も吹っ飛ぶような事実も聞く事が出来た。


「だがよ、何で支部長がわざわざ出張って来てんだ?」


 そう、レベッカさんは戦士組合レヴァーレスト支部長だった。だから色々指示を出していたんだね。


「諸々やる事片付けて、発見から一ヶ月でやっと視察に来れたのよ。そしたらこの事態でしょ? まあ、間は良かったかしらね」


「支部長のお仕事ではないのですが……」


 ミツキさんの胃に穴が開かなきゃ良いんだけど。


 そういう彼女は、オーガの亜種に当たる種族らしい。種としてはあまり残っておらず、ミツキさんも自分と家族以外では見た事が無いと話している。


 名称はイーストオーガ。……やっぱり鬼じゃないですか。


 腰の曲剣と剣術は代々受け継いでいるもので、剣の銘はダトー。


 いや、打刀だよね? うちがたな、だよね? ちなみに、鍔と柄は普通に流通している西洋剣型の物を流用している。




 僕の番では、組合に登録した情報をそのままに話した。ハーフリングで二十歳、魔法が得意などだ。自己申告としては水術と癒術を上げておく。


 ただ、ミツキさんは色々見てるんだよなあ。気付いてない、なんて事は無いだろうし。でもこう言っておけば、秘密にしておきたいと考えている事は伝わるでしょ。







 左右に深い森が鬱蒼と続く中を雑談混じりに歩く。時折来る襲撃をソニアさん、ヘラルドさん、ミツキさんの前衛三人が退け、レベッカさんは常に辺りを警戒し、僕は全体の体力管理に努める。


 そうして危険いっぱいの緑の中を歩いていると、前方に大きな建造物が見えてきた。


「あれがそうね。随分大きいけど、入れるのは地下だったわよね?」


「そうですね。地上部分に入れたという話は、今のところありません。地下から上るのだろうと推測されています」


「俺は途中まで潜ったからよ、ある程度の案内なら出来るぜ」


「探索も良いが、まずは入口を解放せねばな」


 などと四人が話している。僕は一人、建造物から目を離せずにいた。特別すごい形をしているわけじゃない。東京タワーだとかスカイツリーだとかだったら、大笑いしただろう。


 建造物は、砂時計の形だった。縦に長い円柱の中心を細くくびれさせた形状で、よく折れないものだと感心していただけだ。


 砂時計って、あるんだろうか。聞いてみようか。……いや、やめておこう。存在していない場合のリスクが高過ぎる。面倒な事になると容易に想像出来るからな。


 何だそれはと問い詰められるのも嫌だし、そこから派生してさらなるアイデアを求められたりしたら目も当てられない。余計な事はしない、言わないに限る。


「どうしたの、ハルトちゃん?」


「よく折れないなと思って」


「素朴な疑問ね、可愛いらしいわ」


 何処に可愛い要素があった!? 背筋が寒くなるじゃないか!


「遺跡はね、壊れないのよ。すごく、硬ぁいの」


「……殺意が湧いた」


「剣が入り用でございますね?」


「ちょっとあなた達酷くない!?」


 阿呆な事抜かすからだ!


 しかし、遺跡は壊れないのか。だからあんな細さでも大丈夫なわけね。風が吹いただけでぽきっと折れそうなんだけどな。


「あの遺跡は、まだ人間のものか魔族のものかわかっていなかったわよね?」


「はい。判断出来るだけのものが、まだ発見されてません」


「一ヶ月だものね。まだまだこれからよ」


 そうか、遺跡と言っても人間のものとは限らないんだ。考えてみれば当たり前だよな。魔物も魔族もいる世界なんだから。


 でもそれを知るには、占拠している魔物達を退治しなきゃいけないわけだ。中に取り残されている戦士達を助けるにも、避けては通れない障害だな。




 僕ら五人の後ろには、幾つか戦士の一団が付いて来ていた。レベッカさんによれば、彼らは僕らが突破した後を守ったり捜索に向かったりする人員らしい。


 何もかも五人だけで、なんてのは無理のある話だしね。


「外も守らないと駄目だし、どれだけいても足りないのよね」


 参加者は様々だけど、皆僕よりキャリア長いはずだし頼りになりそうだ。







 遺跡前では、ちょうど戦闘が行われていた。遺跡入口を保持するために置いている戦士達が、襲撃を受けているらしい。


 その中に、見知った顔が一つあった。片腕のダークエルフ、エニスさんだ。仲間の四人と連携して、雷術で戦っていた。


 緩い癖のある灰色のセミロングを額や頬に貼り付けて、桃色の瞳を目まぐるしく動かして状況の把握に努める。そして振りかざした右手から紫に光る梟が現れて、雷光へと姿を変えて魔物を撃った。


 紫電が走り、五メートルはありそうなムカデを捉える。感電し、焼け焦げ、ムカデは動きを止めた。


 さらに、近付いた大型の犬のような魔物には腰の剣を抜き、一太刀見舞う。同時に雷術も使ったらしく、紫の輝きが炸裂する。魔物は倒れ伏し、エニスさんはとどめに首を斬り落とした。


 それを見た仲間の一人が親指を立て、彼女は艶やかな笑顔を返す。そして次の標的へと目を向ける。


 元気そうだし、彼女強いね。他の四人も動きは良く見える。でも、この五人でもエニスさんがああなってしまうような魔物がいるんだよな。気をつけないと。




 前衛三人は早速加勢に向かった。後続の戦士達も当たり前に続き、そうなれば多勢だった魔物も無勢に変わる。瞬く間の殲滅となり、遺跡前の安全が確保された。


「ま、こんなもんだな」


「私達の仕事はここからだ。油断は禁物だぞ」


「言われるまでもないわな」


 とは言えそのまま突入はしないようだ。一旦休憩して、それから仕掛けるらしい。


 歩き詰めだったし、正直助かるな。一息入れさせてもらおう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ