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別れて後、もう一仕事

 ロルドさんとクランネルさんが馬車から降りて来て、テンション高く皆を誉め千切った。顔を出して見てたみたい。


 ただ四人にしてもマリエラにしても、この結果が当たり前であるようで殊更誇ったりはしなかった。あ、ヘムリさんは別。


「大した事なかったね!」


 なんて言って、意外とある胸を張っていた。




 マリエラが賊を調べるようなので、僕も同行してみた。


 生き残りは無く、まさに全滅だった。種族としてはコボルドにオーク、それにオーガが一人。レイドさんにクリティカルヒットを食らった人物だ。


 戦闘の後の死体なのだから、当然の如くグロい。顔を青ざめさせながら眺めた。


 僕の目には特にこれと言った事は無く見えるんだけど、マリエラさんはオーガの遺体から指輪を一つ見つけ出していた。それは金の輪に紋章が取り付けられた物だ。紋章は八つの点を一筆書きに繋いだ八芒星の一種を黒い石に刻んで、線を銀で塗ってある。


 ふと見たマリエラの表情は厳しい。忌々しげ、憎々しげとでも言うような、らしくない様子だった。


「マリエラ?」


 声をかけるとそんな表情はすぐに消えた。いつもの明るい笑顔を見せて、何でもないとだけ口にする。指輪は、ハンドバッグに放り込んだ。







 翌日は何事も無く過ぎ、僕らは無事テトへと到着出来た。約束通りの報酬を僕らに渡すと、商人二人は早速商売へと向かった。


「ありがとうございました。また依頼を受けていただけると助かります」


「皆さんの事は、組合にも伝えておきますよ」


 こうして階級が上がって行くわけね。やはり品行方正が一番のようだ。


 商人二人を見送ると、レイドさん達ともここでお別れとなった。


「では、私達もこれで」


「姐さん達、またな!」


「二人も元気でな」


「……その、ありがと」


 それぞれに挨拶して、四人の戦士達も去った。彼らはこれから、目的の遺跡探索に向かうのだろう。準備を整え、お宝を探すわけだ。冒険の無事と成功を祈ろうか。




 そしてマリエラとも、お別れだった。


「ハルト君、私もここで」


「用事があるんだったね」


「うん。寂しくなるけど、また会えたら嬉しいな」


「そうだね。しばらくはここにいると思うし、見かけたら声かけてよ」


「そうするね。それじゃ、また」


 最後に握手を交わす。マリエラは名残惜しそうに、その手をなかなか離そうとしなかった。けれど、いつまでもそうしてはいられない。遂には手を離して歩き出す。


 本当に寂しそうな様子で、マリエラも去って行った。結局世話になりっ放しになってしまった。次に会えた時にでも、何かお礼しよう。でないと僕の気も済まないからね。




 さて、このテトには最近遺跡が見つかった。その関係で、戦士組合の支部の支部みたいなものが出来ているそうだ。通常の戦士組合同様依頼など受け付けているけれど、他にも様々な物の買い取りをしているらしい。遺跡で手に入った品々はもちろん、遺跡のある北の森で採集した諸々なども売れる。


 そんな話があるので、まずはその辺りの情報を集めてみようかと考えていた。




 テトは農村だ。村を中心として、周りには畑や果樹園が広がっている。当然戦士達を受け入れるための設備など、そもそも備えていなかった。そこで遺跡のある森の手前に、戦士組合が中心となって仮設の宿泊施設や酒場、商店などを整えたらしい。


 というわけで、僕はそこに足を向けていた。


 村の外側を通って行けるように道が作ってあるので、住民とは直接的に接触したりしないようになっている。それでも遠目に会釈などすれば、手を振って友好的に応じてくれた。


 そこはやはり戦士という事なんだろう。民を守るために生まれた組織、その役割から基本的には歓迎されるというわけだ。


 まだ大した事出来てない新人が恐縮だけど、何となく嬉しいね。




 脳内呼称戦士村は、案外しっかりした作りになっていた。


 手前に商店が並ぶけど、ここはさすがに露店に近い。テントなどで店舗を作っている商人もいるけど、ほとんどは地べたに布を敷いて商売している。


 その向こうは宿や酒場が並んでいた。宿は大きなテントを使っている。安いところだと中はベッドが並んでるだけ。高いところならカーテンで仕切りを作って、部屋のようにしていたりする。幾つか経営されていて、数は充分に見えた。


 酒場もテントで経営していたりするけど、完全に外だったりする店もある。そちらはあまり賑やかだと注意されるらしい。今まさに、目の前でそんなやり取りがあった。


 組合はさらに奥、一番森側にある大型テントがそうだった。覗いてみると、レヴァーレストの組合とは違って酒場のスペースは作られていない。受付業務のテーブルで半面程を使い、残り半面は様々な物資が埋めていた。


 依頼については掲示板が立てられていて、それは入口右手側に二つあった。やはり戦士数名が仕事を探して睨み合いを続けている。


 何となく覗いてみると、やはり探索絡みの依頼が多い。特定の素材を求めるものや狩り、討伐の依頼などだ。


 ただ、面白いところで水術師や癒術師の募集などというものがある。これは戦士組合自体から出ているものだ。


 水術師は、樽一杯の水を提供する事で銅貨二十枚、癒術師は怪我人の治療で具合により銅貨十枚から五十枚程度という報酬が支払われる。


 これ受けてれば、僕は食いっぱぐれないんじゃないか?




 早速受付に向かうと、オーガと言うよりは鬼の女性と言った方が相応しい容姿の女性が担当してくれた。長く艶のある黒髪や黒い瞳はマリエラを彷彿とさせる。若干赤みを帯びたほぼ肌色の肌に赤い角、細身の身体に淑やかな物腰。


 戦士組合の制服は変わらないけど、和服の似合いそうな女性だった。


「依頼の受注ですね?」


「うん。水術師と癒術師を探してるみたいだったから」


「ちょうど両方を備えていらっしゃるのですね。ありがとうございます。ではこちらに署名をお願い致します」


 二枚の依頼書がテーブルに出された。そこにハルト・ハナヤマとサインして返す。


 受け取った彼女は依頼主の箇所に、組合員ミツキ・ハイガサとサインした。それが彼女の名前なのかな?


「では確かに、ハルト様に引き受けていただきました。本日のところは、組合としましては負傷者を診ていただけると助かりますが」


「構わないよ」


「ありがとうございます」


 ミツキさんはそんな調子で、始終丁寧だ。彼女の案内で、一軒の宿へと足を運ぶ。歩く姿も楚々としていて、是非和服を着てみて欲しいと思ってしまう。絶対似合うよなあ。


 案内された宿は、負傷した魔族を何人も収容している専用の宿であるらしい。病院みたいだね。実際中に入ってみると、仲間だとは思うけども看護に当たる魔族達が何人もいる。


 その中で優先順位が決定しているのか、ミツキさんは迷わず一枚のカーテン前へと僕を案内した。


「まずはこちらの方からお願いします。ですが何分重傷の方ですので、手に余るようでしたら他の方を紹介します。その際には、遠慮無く仰って下さい」


 中に入ると、簡易なベッドに女性が一人寝かされていた。ミツキさんは彼女の纏うローブを脱がせ、その状態を僕に見せた。


 一言で言えば、酷いあり様だった。


 銀髪の女性ダークエルフなのだけど、まず左腕を失っている。身体に巻かれた包帯は右肩から左脇に真っ直ぐ赤い線が走っていて、ばっさり斬られている事が想像に容易い。


 脚は両方残っている。けれど違う方向を向いていたり腫れ上がっていたりして、見るに耐えない。


 治せる……よね?


「如何でしょう?」


「……やるだけやってみるよ。一刻も早い治療が必要でしょ?」


 あまりにも酷い重傷で、長くは持たないように見えた。もちろん素人判断だ。でもこうしてまざまざと見せ付けられて、見放す事なんて出来るはず無かった。


 ともかく、やってみるだけだ。完治出来ないまでも、多少良い状態にまで回復させる事くらい出来るはずだ。


 頷いたミツキさんは手早く包帯を外し、彼女を裸にしてしまう。これは治療の邪魔になるって事だよね。という事は、だ。傷口に異物があったら駄目なんだな。調べないといけないのか。


 こうまで酷いと、女性の裸でもそんな気にはなれないね。あまりにも惨くて涙が出てきたよ……。


 全身を見て、擦り傷が至る所にある事がわかる。顔や腕など、露出していただろう場所に例外無く見られた。まるで、引きずり回されたかのようだ。


 傷口には砂利が付着しているところもあるので洗わなければならず、これは精神をすり減らす作業だった。左肩の切断面が特に酷く、見るに耐えない状態だ。切断と言うか、この世界だから思い付いたんだけど食い千切られたように見える。


 炎術で水を温めておいて痛くないよう慎重に洗うけれど、痛くないわけがないんだ。歯を食いしばって叫びを堪え、呻き声で何とか我慢してくれてる。


 癒術で和らげてあげて、何とか綺麗になったところで次の作業だ。


 砂利だけでなく、小石の類いもたくさん残っていた。これは……ピンセットは無いし、地術で箸でも……いや、これ地術で取れないかな?


 慎重に一つずつ、魔法で働きかけてみる。するとすんなり取り除けた、良かった。雑菌を洗い流す意味では湯で洗った方が良いと思うからやるけど、取るだけなら地術で済むんだね。


 斜めに斬れた傷の辺りは異物が少ない。それでも無くはないので慎重に取り払って洗い流し、傷を塞ぐ。傷痕なんて絶対に残さない。女性の身体なんだ、魔力を多く使ってでも綺麗に完治させた。


 擦り傷なんかも当然一切合切消し去って、脚にも取りかかった。骨が折られ、砕かれ、無惨な状態だ。魔力を浸透させるイメージをもって集中し、癒術を使う。念ずるのは、元に戻す事。


 僕は彼女の身体の事を知らないけれど、彼女の身体自身は覚えているはず。そのようになれと念じ、命じながら魔法を使い続けた。並行して地術による異物除去と水術による洗浄も行う。


 そうして前面が終われば、次は当然背面だ。うつ伏せに返して、また治療に当たる。


 神経を使う作業の上、彼女の出血や痛みによる体力の消耗も癒術で補いながらだから相当な疲労が蓄積した。


 ……一人目っすよこれ。




 全身を綺麗にして全ての傷を塞ぎ、折れた骨も砕けた骨も全て治した、治せた。失った左腕はさすがに戻せなかったけど、それでもそれだけのところまで治療出来た。


 その達成感は凄まじかった。ダークエルフさんには涙ながらに抱き付かれ、こちらからも思わず抱き締めて。それからミツキさんにローブを着せてもらった彼女は、やはり疲労があったのだろう。そのまま眠ってしまった。


「お疲れ様でした」


「医療行為って、大変なんだね……」


 医者をすっごい尊敬した瞬間だった。魔法を使ってこれなのに、魔法無しでやるんだもんなあ……。尋常じゃないわ。


「ではハルト様、次の方をお願いします」


 ……あんた、見た目通りの鬼だ。







 疲れた、疲れたよ……。


 宿のカーテンで作った部屋のベッドに飛び込み、しばし動かず。肉体的な疲労は何とかなるんだ。癒術あるからさ。でも魔力を使った疲労と治療に集中した疲労は精神的なものだ、そっちはどうにもならない。


 結局あの後三人、計四人の治療に当たった。後の三人は全員男性だったので、多少気楽に仕事させてもらった。


 一番酷いのは、やっぱり最初の彼女だった。何があったのか想像も出来ないけど、斬り傷は鋭い刃物によるものに見えた。傷口がすっぱり斬れていて、綺麗過ぎたんだ。


 爪ならあんな風になるのかな? でも一本線だったしな。……いやいや、やめよう。これ以上は頭の使い過ぎだ。とっとと寝よう。


 ……その前に、ここなら人目も無いし湯浴みして良いよね?


 魔法は本当に便利でね。例えば水を作ったとして、残すも消すも自在だった。さっきの治療中に思い付いたんだけど、試したら出来た。つまり、湯浴みの後の湯は消してしまえば良い。


 というわけで、さっと脱いで湯の球を作った。


 中に入ったら、まず顔と頭だ。よく洗い流して次は身体。布で擦って、汚れや汗を落とした。足の指まで綺麗にして、全部終わったら消す。そしたら拭く必要も無い。さっと着て、ごろりと寝転んだ。


 ……マリエラは、もしかしたら知らないかも。裸にひん剥かれて全身に色々されてしまったあの時は、普通に布で拭かれたっけな。思い出すと恥ずかしくて悶える……。


 ともかく、今度会ったら聞いてみよう。


7/28 余計だった一文を削除いたしました。ちょっとした記憶違いで書き込んでしまったもので、話には全く関わりません。

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