競技と決闘
対策と言ってもルールの把握と説得以外に方法なんて無くて、罰則を強めるしか有効な手立てなんて思い付かなかった。
競技中の犯罪行為については、それが罪に問われると明確にしてやる以外に無い。どうして罪に問われないと思ったのか不思議でならないけど、それはどうやら決闘の一種だという考えに基づいているらしい。阿呆か。
魔族社会において、この決闘という行為そのものは排除出来ないとの事だ。力で立ち向かわなくてはならない脅威が近くにあるこの世界では、やはり力がものを言う事が多い。そしてその一つに決闘があった。
正しいと信じる事のために、武器と魔法を交えて決闘する。そんな文化がこの世界、レアリースにはあるんだ。僕はまだ見た事無いけど、このレヴァーレストでも月に一回あるか無いか程度の頻度で起きるそうだ。
当然敗者は、ほとんどの場合死ぬ。怪我が原因で亡くなったり、とどめを刺されて殺されるなど、違いはあるものの十中八九そうなるという。
で、競技をその延長だと思って魔法で殺そうとしたわけか。
正直に言えば、頭おかしい。ルールで縛ってるだろうに、説明受けただろうに何故そんな事をしたのか。競技の前に、ものを理解するだけの頭があるかどうかを試験しなきゃ駄目か? しかもまだ模擬だぞ? 本戦じゃないんだぞ?
ヘルミッドではないけど、本気で頭が痛くなる問題だ。
翌日は待ち合わせのために戦士組合一階へ。行ってみれば既にレベッカさんがお馴染みの女性らしい立ち姿で待っていた。
「おはよう、二人共。……へえ、なかなか良い服装ね」
いや、ちょっとした悪ふざけのつもりだったんだけど、今日は礼服姿にしてみたんだ。白いワイシャツに黒の上着とベストを着てスラックスを履き、足にはやはり黒の革靴。ネクタイは白地に灰色で模様を入れた物を巻いている。
マリエラにも好評で、正直失敗だった。良いのかよ、これで。
レベッカさんは相変わらず組合の制服で、マリエラは装飾が控えめの黒いドレスだ。寒そうなので、黒のストールを作って巻いてあげた。もちろん温かく作ってある。
「こうなると、制服を着るしかないあたしだけ逆に目立つわね」
「立場上仕方ないよねー」
組合の馬車に乗り込みながら、レベッカさんはそんな風にぼやく。着る物に悩まなくて済むという最大のメリットを忘れてないか? 楽で良いと思うけどな。
そんなこんなで馬車は出発し、僕らは謁見のために城へと向かった。
待合室で待つ事しばらく。召使いに先導されて、僕らは玉座の間に通された。そこには相変わらず、閣下とレナードさんしかいない。ここで他の貴族の姿を見た事が無いように思うんだけど、この世界はこういうもんなのかね?
「では皆様、お顔を上げてリラックスして下さいませ」
「妾の台詞であろう!」
レナードさん、やりたい放題だな! 相変わらずで安心するわ!
お言葉に甘えて、立たせてもらった。まずはレベッカさんから報告がされる。もちろんコカトリスに始まる一件だ。時折僕らの証言を得ながら、全てが正確に伝えられる。
「ふむ。アールガルドからの報告とも差異は無いようだ」
「左様でございますね。これが全容だと判断出来ましょう」
あちらからも既に報告が来てるのか。レストとそう変わらない速度で、か? 早いな。
「問題は無いな。レベッカ、毎度の報告感謝するぞ。そちらの二人もご苦労であった」
三人で頭を下げ、礼で返す。
「さてさて、ハルトにマリエラよ。話は聞いておるぞ。指輪を交わしたそうだな?」
「はい、閣下!」
「嬉しそうに返事しおって……。ともあれ、めでたい事だ。しっかり幸せを掴むのだぞ」
優しげな微笑みで、閣下は僕らを祝福してくれた。あの噂話は、所詮噂話に過ぎなかったという事か?
その時、レベッカさんが意を決して口を開いた。
「閣下。質問をよろしいでしょうか」
「うむ、許そう」
「閣下とハルトちゃんの間で囁かれた噂について、閣下は聞かれましたか?」
斬り込んで行ったか……。果たしてどうなる?
「ふむ? レナード、知っているか?」
「閣下の軽率な言葉が招いたあれでございますね。ハルト様を評価された閣下が、以前こう申されました。あのように目端の利く殿方ならば喜んで婿に迎えるのに、と。それを拡大解釈されたのでしょう」
「あれか! まあ確かにハルトであれば申し分なかったが、既にマリエラのものであるからな。レナード、潰しておけ」
「はっ」
潰すって、何やら不穏ですね……。聞かなかった事にしよう!
しかし、無事に済みそうで良かったな。さらっと大変な事を耳にした気もするけど、それも聞かなかった事にしよう!
報告も聞きたかった話も出来て、僕らは馬車で帰途に就いた。三人で息を吐いて、ほっと気を抜く。
「結局、いい加減な噂話ってだけだったわね」
「でも、閣下もハルト君なら良かったんだね。レヴァーレストのためにはその方が良かったのかな」
「マーリーエーラー。それ、僕の事は何処行っちゃったのかなー?」
「ごめんごめん! そうだよね、ハルト君は私を選んでくれたんだもんね!」
別に怒ってはいない。マリエラも気になった事をつい口にしてしまっただけだろう。
閣下がどうあれ、僕みたいのが閣下となんて無理だと思うけどなあ。貴族は血筋とか、重んずるでしょ。中には気にしないのもいるかもしれないけどね。
でも第一に、僕自身貴族なんて勘弁だよ。あんな世界、好き好んで飛び込もうと思わない。
指輪を知らずに中指に通した件は、タイミングとしては絶好だったかもね。あれからとんとん拍子に関係が定まって恋人になれたし。おかげで向こう側へ行かないで済んだ。
僕は左中指に通された指輪を見る。これが無かったら、この関係を築けていなかったら、何処かの貴族が余計な気を回したかもしれない。それを未然に防げたわけだ。本当に良かったと、心底から思うね。
「顔がにやけてるわよ、ハルトちゃん」
「そ、そんな事ないよ」
二人が笑っている。ああ、うん。良いな、この感じ。
組合前でレベッカさんとは別れ、僕らは白海豚亭へと引き上げる。そして部屋でさっさと着替えた。僕はローブ一枚で、当然のように水術製。マリエラも水術でワンピースを作ったようなんだけど、見るとすけすけだ。
「隠れてない! 何にも隠れてないよ!」
「見ていたい? 隠した方が良い?」
「……隠そうか!」
「間があったね。そっかそっかー」
言いながらチュニックに模様を入れて、しっかり隠している。ほんの一瞬遅れただけでもばれるね!
赤面して唸る僕の手を引いて、マリエラはベッドに横たわった。
昼寝か、それも良いな。誘われるままに横たわると抱き締められる。しばらくお喋りしたり触れ合ったり、口付けを交わしたりして、その視線が首筋に向いた事に気付く。
マリエラは、わりと欲望に忠実だよね。わかり易くて可愛い。他人の機微に疎い僕にはちょうど良いや。
思わずくすりと笑みがこぼれて、僕は伸びた銀髪を払う。そしてローブの首回りを肩まで開いて、白い肌を露わにさせた。今度はマリエラが赤面する番だった。
「ありがとうね、いつもこんな……」
「良いんだよ。こうして応じる理由なんて、一つしか無いでしょ?」
「気持ち良いから?」
「好いてるからに決まってるでしょ!」
「それが聞きたかったんだよ! 嬉しい!」
赤くなった顔に浮かぶ笑みは愛らしく、心臓を鷲掴みにするように掴んで捕らえる。
もう一度唇を触れ合わせると同時に催眠がかけられ、そしてマリエラはそっと牙を刺し入れる。強烈な感覚の波に浚われ、意識は急速に薄れ遠退いていった。
いつもの通りに目を覚ますと、マリエラがそばに横たわってこちらを見つめていた。微笑み、慈しむような瞳はいつに無く満ち足りた風で、僕は首を傾げて見上げた。
「何かね、すごく良かったの。多分気持ちの問題だと思うんだけど、恋人になったからかな」
首筋を癒術で治し……あれ、治ってら。そっか、ワンドか。
「治してくれたんだね。ありがと」
「吸わせてもらってるんだもん。これくらい当たり前だよ。それにこのワンドだって、ハルト君がくれたんだよ? これも、ありがとね」
二人で笑って、また口付け合って抱き合った。
今日は一日こんな感じかな。ゆっくりのんびり、二人で過ごそう。




