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初めての戦闘

 僕らを含めた戦士一行は、基本的には歩いて護衛に当たる。休憩が必要になったら、馬車の後部に乗って休んで良いそうだ。荷物はいっぱいだけど、二人三人程度座れるだけのスペースは残されてた。


 馬車の左をドールブさんとリリーさんが、右をレイドさんとその背に乗ったヘムリさんが守る。僕とマリエラは後ろだ。


 右側の二人はヘムリさんがそうさせているのだろうけど、わりと賑やか。ただ護衛を忘れてはいなくて、草原の中に何かが見えれば直ちに急行して確認していた。


 それが魔物である事もあり、しっかり追い返してから帰って来る。完全に二人で一つの組み合わせだ。


 そんな時の二人の目は熟練のそれで、射抜くような眼光で飛び出して行くものだからとっても格好良い。


 反対の二人は始終静か。ただ、こちらはこれで平常通りのようで、時折思い出したように言葉を交わすくらいで問題無いみたい。


 そちら側は魔物が潜む場所に乏しく、概ね平和だった。


 そして僕らはと言えば、マリエラから魔法について教えてもらっている。


 癒術は、体力の回復も出来るらしい。だから疲労が溜まったら使うと良いよ、と教えてくれた。


 マリエラは戦士の階級としては銀にあるらしく、この程度の旅では全然疲れないとも聞けた。銀ともなるとそんななのね、すごい。


 僕は癒術使いまくりですとも。




 そうして、初めてこの世界に来た時にいた辺りまで馬車は到達した。この辺りで一休みにするそうだ。道の端に馬車を寄せて停車させている。


 皆さすがに旅慣れた戦士達だ。疲れた様子なんて少しも……リリーさんは僕と同じだね、お互い頑張ろう。


「保存食で悪いのですが、皆さん食べて下され」


 ロルドさんとクランネルさんが配ってくれたのは、焼いた何かの肉と細く刻んだ野菜の塩漬けをパンに挟んだ物だ。


 水もくれるそうだけど、僕らは水術で出せるから大丈夫だ。マリエラが銀か何かのゴブレットを貸してくれて、そこに水を入れて飲んだ。


「お二人共水術の使い手でしたか。羨ましい限りですな」


 便利だよね。




 もらったお昼が存外美味しくてにこにこしながら食べていると、皆の視線が砂浜に向かっている事に気付いた。


 そこは抉れていたり山になっていたりと、酷いあり様になっている。


「何があったのでしょうね」


「戦いの跡、か?」


「……多分、魔法」


「こんな事になるなんて、結構やばい戦闘じゃない?」


「レヴァーレストとテトの間はこれまで幾度と無く通っておりますが、このような事は初めてですな……」


 僕はそっと視線を逸らした。




 以降、一行の警戒レベルがぐっと上昇した。居たたまれない。







 日が暮れる頃合いに、少し広くなっている場所に到着した。土をしっかり固めてあって、戦士の一団が野営の支度を整えている。


 どうやらちょうどレヴァーレストとテトの中間地点になるそうで、ここで僕らも野営するみたいだ。


 馬車を左側に寄せて停車し、馬二頭も馬具から解放する。首を振ったり足踏みしたりして、身体を解すような仕草を見せた。


 ロルドさん達が馬を見ている間に僕らは薪を下ろして焚き火を用意したり、あちらの一団と情報交換を行ったりした。


 僕とドールブさん、リリーさんの三人は焚き火を担当し、マリエラとレイドさん、ヘムリさんの三人は情報交換に向かう。


 焚き火担当は簡単だ。ドールブさんが束を一つ下ろしてくれるからそれを燃え易いように組んで、僕が火を点けるだけ。


「炎術も使えるんだな。助かるよ」


「……ありがとう」


「どう致しまして」


 本当は色々大変なんだよね、火を起こすのって。それが全部省略出来るんだから、便利なもんだ。


 マリエラ達も戻って来た。大した情報は無く、異常無しとの事だ。こちらからは砂浜の事を話したらしく、やはり驚いていたという。


 ごめん、もうしないよ。




 夕食は昼に食べた物とそう変わらない物だったけど、ゆっくり雑談しながらの食事になった。


 レイドさん達四人は銅級の戦士で、テトへは新しく発見された件の遺跡探索のために行くのだという。発見されたばかりなので、当然まだまだ手が入っていない場所が多い。珍しい物が見つかればそれだけで一財産になるし、それが強力な武器や道具であれば今後の旅の助けになる。


 そう上手く事が運ぶなんてさすがに四人共思ってはいなかったけど、何か面白いものが見つかれば御の字だと笑って話した。


「かつて人間達が開発したという技術の片鱗でも手に入れられたら、素敵だと思いませんか?」


「それを売っ払えば、あたしらは大金持ちになれるってわけよ!」


「見つかれば、だけどな」


 リリーさんはあまり興味が無いらしい。彼女は四人でいるのが好きだからここにいると、言葉少なにか細く話す。それから、頬を染めて俯く。


 全員で和んだ。




 夕食の後は見張りの順番を決める。これは僕ら戦士一行のお仕事だ。二人一組の三組で交代して行う。


 組み合わせは既に出来ているようなものだ。話し合いの結果僕とマリエラ、レイドさんとヘムリさん、ドールブさんとリリーさんの順番となる。


「では皆さん、よろしくお願いします」


 商人二人は馬車の中で眠るらしく、乗り込んで行った。風が無いだけで随分違うからね。


 レイドさん達もそれぞれに毛布を用意し、くるまるようにしてやがて寝息を立て始める。


 僕はマリエラが出した毛布に包まれている。後ろから抱き締められるように。嬉しいけどさ、恥ずかしいじゃないのさ。


 でもこれ完全に子供扱いだよね、お前さん。こんななりだし、仕方ないか……。




 夜空は相変わらずの星空で、見上げれば無数に煌めく宝石で視界はいっぱいだ。僕が空を見渡して楽しく過ごしていれば、マリエラも顔を上げて同じ空を眺めた。それからこちらを見て、不思議そうな顔をする。


「星が好きなの?」


「そういうわけじゃないんだけどね。星空が綺麗だから」


「毎日同じだけど……。でも言われてみれば、確かに綺麗かな。変わらずにあるものだから、あまり意識した事無かったかも」


 見慣れてしまえば、そんなものだろうね。でも僕はまだまだ見慣れないし、見飽き足らない。星の見えない空の下で育ったからな。


 こっちに来て二日が過ぎたけど、もう帰れないんだろうね。親父とお袋……はいいや。妹が心配してなければ良いな。でも心配してるだろうな。いきなり連絡取れなくなって、沈んでなけれは良いんだけど。


 もう会えないのか。仕事の相談も愚痴も聞いてやれないのか。ストレス溜め込んで、病んだりしないよな? 兄貴は心配だよ……。







 皆が寝静まり、焚き火のぱちぱちという音を聞きながらマリエラに身を寄せて一時間が経った頃、感覚にちりとする刺激があった。


 何だろう? 不思議に思い、目だけで辺りを見回す。ただ、マリエラにはそれだけで伝わってしまったらしい。僕の耳へと微かに囁く。


「どうしたの?」


「わからない。でも何か……」


 不意に近付いて来た顔と耳に当たる吐息に赤面しながら、そんな風に曖昧な答えを返す。気のせいかもしれない。でも今も、感覚に訴える何かがある。それはちりちりと、変わらず不快感を煽っている。


 顔を歪めてしまったんだろう。マリエラが気遣わしげに頭を撫でた。落ち着く……いや、落ち着いてる場合じゃなかった。この感覚が何なのか確かめておかないと。


 その時だ。目が遠くに光るものを捉えた。その方向には、先に野営していた一団がいるはず。でもその辺りに橙色の光が、焚き火とは別に見えている。


 確か、八人くらいの団体だった。全員男性で、少々気性が荒そうな。静かだし、襲われているわけではないようだ。でもそれなら、あの橙色の光は何だろう?


 そう訝しんでいるとさらに一つ、今度は緑の光が見えた。


 ……あれ、もしかして魔力の光じゃないか? 僕の魔力が青に、マリエラの魔力が紅色に光るのと同じに、あそこで誰かが魔力を集中させてる?


 そう考えた時に、感覚が訴える不快感が強まった。直感的に、来ると思った。


 思った時には、既に動き出していた。なりふりなんて構ってられなかった。立ち上がり、大きく手を振って、集束させた魔力をただ放った。初めて使った時のように。


 飛来した炎の球と緑の煙を蹴散らすように、風のような青い輝きが風圧を伴って溢れ、迸った。光は武器を抜きはなっている魔族達八人の姿を照らし出しながら薙ぎ払い、吹き飛ばして転倒させる。


 その音に、眠っていた四人は目を覚まして直ぐ様戦闘態勢を取った。一方でマリエラは目を剥くように驚いたまま、固まっている。


「あいつらが、この街道を通る魔族達を襲っていたんだ!」


 そう気付いてしまえば、実に単純な話だった。戦士の一団を装って近付き、奇襲する。そして皆殺しにして略奪した。敵わなそうな相手であれば、そのまま素通りすれば良い。そうして、被害を出していたんだ。


「なるほど、戦士ではなく賊の一団だったのですね」


「今回の標的は、あたしらだったわけ?」


「これはまた、随分な手段を使ってくれたな。戦士を装うとは……」


「……許せない」


 四人はやる気だ。彼らが闘志を滾らせ始める頃には、マリエラも立ち上がっていた。


「ありがと、ハルト君。荒事が嫌いなのに、こんな事させちゃってごめんね」


「薙ぎ倒しただけだし良いよ。後は任すけど」


 そう返せば、マリエラもくすりと笑った。


 そして真紅の瞳に戦意が宿る。右手を瞳と同じ色に煌めく魔力の靄で包み、その指先に集束させた。


 煌々と輝く紅色の光は直後、その閃光をより大きくさせて夜の闇を払い退ける。


「私達を襲おうとした事、後悔させてやらなきゃね」




 賊の内の四人は走り込んで来ていた。剣や斧、槍などで武装し、前衛としての役割を果たすようだ。


 後衛となる四人の内二人は弓を構えた。矢が引き絞られ、マリエラ目掛けて放たれる。


 残りの二人は橙色と緑の魔力で魔法を使う。その狙いも、やはりマリエラだ。その指先に宿る鮮烈な光が見えているのだろう。巨大な炎の塊へと姿を変えた魔力が。


「守りは僕が」


 言葉と同時に、飛来する矢に魔力を放出する。強く吹き付ける青い風の波に弾かれ、矢は容易く地に落ちた。続いて迫る炎も同じように青の輝きで薙ぎ、接近を許さない。


 緑の煙は、その後に放たれた。ただそれは希薄と言うか何と言うか、違和感があった。でもその答えはすぐに思い至れる。魔法が発動する前段階の魔力なんだ。何かを引き起こすために、こちらに向かって来ている。だから既に現象を引き起こしている炎の球と違って見える。


 どちらにしても、わざわざ待ってやる必要は無い。発動前の魔力なら、同じく発動前の魔力で消せるはず。そう考えて、青い魔力の風をぶつける。案の定消えた。消えたと言うか、そこで発動した。土の槍が突き上がり、崩れ落ちる。


 そしてマリエラの魔法が撃ち出された。大きな炎の球が高速で飛び、後衛四人のちょうど中間辺りに着弾する。直後、大きな音と爆炎が巻き起こされた。


 炎に飲まれた四人は全身を高熱に焼かれて吹き飛び、そのまま起き上がる事は無かった。


 一撃ですか……。さすがだ、師匠。




 一方前衛と戦う四人も見事な動きだった。


 走り来る敵に対し、リリーさんが僕の魔力に近い水色の爽やかな魔力を纏って魔法を使った。杖に集まり風へと姿を変えた魔力は、衝撃波となって一人を吹き飛ばす。


 ヘムリさんは素早い連射で二本の矢を放ち、一人の胸と眉間を正確に貫いた。当然即死で、走る勢いそのままに倒れた。


 レイドさんは槍を回して走り込み、迎え撃つ一人の首をただ一振りで跳ね飛ばし、返り血も浴びないまま走り抜ける。


 そしてドールブさんは盾による殴打から剣の一突きで容易く胸を貫いて、蹴り倒して引き抜いた。


 皆さん、手慣れ過ぎてますね……。ベテランじゃないのさ。


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