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27.誰も不幸にならない

ジャガーノートとサングローの話。

この話ずっと投稿した気でいました…。

ラプターと恋人になって少し経った。

正直幸せだ。誰かにお裾分けしたい。


「ということで、ジャガーノートにお裾分けするね。」


「汚い顔してこっちに寄るな、ゴミ屑。」


相変わらずだ。

私は彼女の泊まっている城の部屋の一室でため息をつく。


ジャガーノートは私とラプターが付き合っていると知ると私の知らないような言葉まで使って罵ってきた。

なんでそんなに怒るのか、もしやジャガーノートもラプターのことが?

そう聞くと、彼女は顔を真っ青にして吐いた。

想像を絶する気色悪い質問だったと後で怒られた。


「お姉さんにもっと優しくしたらどうです?」


「うるさい、黙れ、このアホ犬、豚。」


こんな調子である。

つまり、いつも通り。


「ジャガーノート、サングローさんに失礼でしょ。

ちゃんと名前で呼んであげなよ。サングローさんに愛想尽かされるよ。」


「尽かす愛想が無いだろ。」


「こんなに健気なのに……酷いですよ。」


サングローさんはよよよ、と泣き真似をする。

もっと言ってやれ!


「ジャガーノートから離れてっちゃうかもね。」


「フン、離れたければ離れればいいさ。

そもそもそいつが勝手に私にまとわりついてるんだからな。」


これだ。

どうして素直に感謝を示さないのだろう。

……素直に感謝を示すジャガーノートは相当気持ち悪いけれど……。


「離れませんよ。」


サングローさんがぼそりと呟いた。


「俺は、この人から魔法の技術を盗むんですから。」


貪欲だ。

ジャガーノートと気があうだけある。


「本当、妹がご迷惑おかけして……。」


「劣等人種。用件を済ませたなら帰れよ。」


「ああ、違くて。

ジャガーノートにお見合いだって……あ!この似顔絵を燃やしちゃダメだよ!私がお父さんに怒られるからね!」


私は似顔絵を体で隠す。

父は結婚すれば妹の性格が多少良くなると思っているようで手紙の中で何度もこの似顔絵を見せあわよくばこの人と合わせるように頼んできた。多分この似顔絵の人はジャガーノートの悪評を知らないだろう。

騙すようで申し訳なく思いながらも「綺麗に返してね」と言って似顔絵を差し出した。

ジャガーノートは私を睨み付けると、似顔絵を見た。


「醜男だな。」


「いやいや、素敵な人でしょ。

聞いた話だとまともで誠実そうな人だよ。」


ジャガーノートにはもったいないような人だ。

というか妹といたらこの人はストレスで死ぬんじゃないかというくらい人柄も良さそう。

やはり申し訳ない。


「さすがあの男と乳繰り合えるだけあるな。目玉が腐ってるんじゃないか?」


「ラプターはかっこいいからね?」


「その理論でいくと、あの変態もかっこいいということか?やはり目玉が腐ってるな。通りで腐臭がすると思ったよ。」


テイラートは……かっこいいのだろうか……。見るたび寒気が止まらないのでよくわからない。


「ジャガーノートはどういう人がかっこいいと思うの?」


「私だ。」


そうか。さすがだ。

全くわからない。


「サングローさん苦労するでしょ。すみません。」


「慣れつつあるので……」


慣れ切ってはいないそうだ。


「ジャガーノートは私に似ちゃったからかっこよくも可愛くもないよ。」


「お前に似たんじゃない、母親に似たんだろ。」


「そうだけどね……。

鏡見たことある?なぜそんな自信に満ち溢れてるの?」


彼女に現実を知ってもらうべきだろう。


「サングローさんも言ってやってくださいよ。」


「えっ……と……。」


さすがに、この話題には触れたくなかったか。

少しふざけすぎたなと言葉を撤回しようとしたが、それより前にサングローさんから予想外の言葉が飛び出した。


「ジャガーノートは美人だと思います。」


……目玉が腐っていたのは彼だったか。


「あー……そういう人もいますよね。」


私がジャガーノートを見ると、珍しくキョトンとした顔をしていた。

これは、彼女も予想してなかったらしい。


「犬の癖に美醜がわかるとは……。」


褒められたんだから少しは素直に受け取れば良いのに……と思ったが、その耳が赤くなっているのを見てちょっと笑う。

なんだ、照れ隠しか。


「ジャガーノートのことお願いしますね。」


「ええ。」


私は似顔絵を持って部屋を出た。

やっぱり相手の人が可哀想だし、結婚なんてジャガーノートには向いていない。

この話はなかったことにするべきだな。


✳︎


ジャガーノートの姉、エメリンさんは出て行った。

俺はジャガーノートの手に触れる。

怒らない。

最近はエメリンさんと魔法団団長が付き合い始めたことでピリピリしていた。

なぜかと聞くと「お前はナメクジとゴキブリが絡み合ってるのを見たいか?」と言われた。


「……お見合い、受けるんですか。」


「どっちでもいい。受けたところで私はしたいことをするだけだ。」


彼女の頭に自分の頭をくっ付けた。


「……受けないでください。」


「なんでだ。会って話すだけ。大したことじゃないだろ。」


「それでも嫌です……。」


俺がジャガーノートを見ると、面倒そうにため息をついた。


「犬の癖にうるさいやつだな。

私が何しようと関係ないだろ。」


捨てられる?

思わず彼女のお腹に頭を押し付け縋り付いていた。


「お願い、捨てないでください。」


「誰もそんなこと言ってないだろ!

どうしたんだ、今日は様子がおかしいぞ?」


彼女は人の気持ちの機微に疎い。

俺の気持ちがわからないのだろう。


「不安なんです。

あなたは強いから、俺が勝手に付いてきてるだけだから、いつ捨てられるかわからなくて……」


ジャガーノートがこわごわ俺の頭を撫でた。

彼女は触れ合いが下手だ。いつもこわごわ人に触れる。


「なんでそう思考が飛躍するんだ。

ほら……コシボルカ。」


名前を呼んでもらえた!

嬉しくて顔を勢いよく上げる。

彼女は俺の頭を撫で、そのまま頭を抱えてくれる。


「私は捨てない。お前が離れたければ、離れればいい。それだけだ。」


「離れたくないです。」


「なら離れなければいい。」


ジャガーノートの優しい声音にホッと息を吐く。

離れたくない。絶対。


「……今夜は一緒に寝てもいいですか?」


俺の言葉にジャガーノートが身を離した。


「ハア?いいわけないだろ。」


「離れたくないなら離れなければいいって言ったじゃないですか。

嘘ついたんですか。」


「そういうことじゃ……

ああ、もういい。好きにしろ。」


「お風呂は?」


「お前……16歳だろ?1人で入れ!」


ヒールで腹を小突かれる。

お風呂はダメらしい。

寂しいけれど、不安だけれど仕方がない。

あんまりしつこくして嫌われたらいやだ。


ジャガーノートが風呂から上がる。

大浴場ではなく、1人用の風呂に入ったらしい。


俺は彼女の手を掴んで寝台に誘導する。


「……本当に一緒に寝るつもりか。

ハア全く。こうやって甘やかすのは成人するまでだからな!」


あと2年。

短い気がする。が、仕方がない。

俺は寝転がって彼女に抱きついた。

今のうちに彼女に甘えておこう。


「……こうしていると昔を思い出す……。」


「昔?」


「よくあのゴキブリ女とナメクジ男と一緒に寝ていたな。」


……あの、魔法団団長と?一緒の寝台にいたというのか?


「ど、どういう、どうやって」


「どうって……クソ女、私、クソ男の順に並んで寝たんだよ。」


男と……男と一緒に……!?

彼女にぎゅうぎゅう抱きつく。


「もうしないでください。俺以外寝台にいれないで。」


「するわけないだろ!気色悪い!

こんなの許すのお前だけだからな!」


その言葉に少しだけ機嫌が良くなる。

俺だけ……。


その後、幼い頃のエメリンさんとジャガーノートは部屋中をメチャクチャにするほどの喧嘩をしょっちゅうしていて、それの仲裁に入っていた魔法団団長が疲れて彼女たちと一緒に寝ていた……という真相がわかるまで俺はずっと嫉妬していた。


ジャガーノート曰く、エメリンさんは怒ると本の角で人の目玉を潰そうとしてきていたらしい。

ジャガーノートの目玉が潰れないで済んでいて良かった。

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