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20.悩殺

性的な表現があります

「もう、ひどいですよ。誰も助けてくれないなんて……」


テイラートはブツブツ文句を言っていたが、全ては己の日頃の行いのせいだろう。


「離したからいいだろ。」


「腕痺れたんだけど。

はー、こんな奴らに案内しなきゃいけないとか。」


「私と側にいれることを咽び泣いて喜ぶことだな。

さっさと案内しろ。」


ジャガーノートが偉そうにふんぞり返りながらテイラートの足を蹴った。

ふむ。我が妹ながらどうしてこんな性格になってしまったのか。何度考えても答えは出ない。


「蹴るなよ!

こんなの奥歯2本貰わないとやってらんないよ……。」


「犬、その男を近付けるなよ。」


「なら喧嘩を売らなければ良いのでは?」


「お前の血液を全て泥水に置き換えるぞ。」


「はいはい、わかりましたよ。」


サングローがジャガーノートとテイラートの間に入り、テイラートに案内を促す。


……あの3人だけにして大丈夫だろうか。

城を壊したりしないだろうな。


3人が部屋から出ると、ラプターは大きくため息をつきながら椅子に座り込んだ。


「疲れた……。

人のこと言えないが、お前の妹どうかしてるんじゃないか?」


「本当に人のこと言えないですね。」


私が言い返すと、ラプターは力なく笑った。


「エメリン、手を。」


ラプターに言われ左手を差し出す。

彼は私の手にまた触れた。今度は繊細な手つきで。


「……あいつは、救いようのない性格だが天才だ。」


彼の指が優しい手つきで私の爪や指の股を撫でる。

無性に恥ずかしい。クラクラしてきた。


「再生の魔法が本当にあるなんて、そしてそれを使えるなんてな……」


ラプターは人差し指で私の手首、肘、二の腕につうっと触れる。


「感覚は?元のようにあるのか?痺れたりはしていないのか?どこかおかしく感じるところは?」


「ふ、つうに、元の腕のように感じます……。」


ラプターの指先が熱い。

息が上がる。目眩が止まらない。


「あの、ラプターさま……」


「っ、悪い。

気になってつい……」


「そうじゃなくて、ジャガーノートは今まで私に得する魔法を使ったこと無いんです。」


「ああ、だろうな。

……ん?」


「嫌な予感がします。

あ……すみません。倒れます。」


私はそのままバタン!と大きな音を立てて床に倒れた。

目が回る。お腹も回る。気持ち悪い。


「エメリン!?

倒れる宣言をして倒れた奴初めて見たぞ!?」


「騎士の嗜みです……」


「そんなの嗜むな!」


ラプターは私を抱き上げると、そのまま彼の寝台に放られる。


フカフカで気持ちいい。魔法団団長だとこんな立派な布団で寝れるのか、とグルグル回る視界で思った。


「大丈夫か?一旦魔法を解こう。」


ラプターは心配そうに私を見下ろし、髪を撫でてくれる。


それから、私のおでこに手を当てた。

おでこが熱くなる。

フッと、左手の感覚が無くなった。魔法が解かれたらしい。


「どうだ?」


「気持ち悪いです……」


「顔色も良くないな……。魔法の副作用か?

……あっ、」


彼は何かに気付いたのか、ハッとしたように目を見開くと私の右手を握った。


「魔力不足じゃないか?」


「まりょく……?」


「魔力が足りなくなると、貧血みたいになるんだ。

お前は今までなったことないだろうが、なるやつは多い。

なるほど、あの左手はお前の魔力をそのまま使って作ってたのか!そりゃ、魔力不足にもなるな……。」


なにがなるほどなのか知らないが、ジャガーノートには後でなんか言ってやらないと。

今ラプターがいたから良かったが、いなかったら今頃1人で気絶していた。


「どうしたら……いいんですか?」


「魔力を流せばいい。

……前、魔力を奪ったその逆をやる。今度は痛くない。」


彼は私の右手を強く握る。

また彼に触られている部分が熱くなる。


何かが流れてくる感覚がした。


気持ち悪さや痛みはない。

ただ温かいものが私に流れてくる。

少し気持ちがいい。まるで温かいお湯に浸かっているみたいだ。


暫くそうやって彼から魔力を貰っていた。

だが、目眩は良くならない。


「気分は良くなったか?」


「少し……。」


「嘘つけ。顔色が悪い。

……放出口が狭いから上手く流せない。もう少し時間がかかる。」


「ラプターさまの、魔力は……」


「こんなんじゃ減らない。」


回る視界でラプターを見つめた。

整った顔が不安そうに歪んでいた。

そんな、死ぬわけじゃあるまいし。ただちょっと目眩が止まらないだけで、そんな心配することじゃない。


「……苦しいか?」


「いえ。」


「苦しいならそう言え。

……全然流れない……。」


放出口が狭いとロクなことがない。


今の状態は、桶に水を溜めたいのに、針先ほどの小さな穴からのみ水が出ている状態だろう。

これじゃいつまでたっても水は溜まらない。

私は構わないが、ラプターはそんな暇はないだろう。


「あの、もう大丈夫で」


「エメリン。」


ラプターが私の言葉を無視して、私を見つめた。


「口を開けろ。」


「……くち?」


「そこにも放出口はあるんだろ?

流し込む。」


彼の言いたいことはわかった。

舌にある放出口からも魔力を注ぐのだろう。

つまり、彼の指を私が舐める……なんだかいやらしいような……。


いやいや、これは仕方がないことなのだ。


私は意を決し、目を瞑って口を開けた。


「……いい子だ。」


また子供扱いしてと憤慨しかけたが、次の瞬間全て吹っ飛んだ。


寝台が軋む。


私の唇に、柔らかいものが当たる。


舌が巻き取られる。

ぬるぬるとした質感。


これ、指じゃない。


目を開けると目の前にラプターのあの美しい顔があった。

彼に、覆い被さられている。

彼の鳶色の目が私を熱っぽく……見えるが実際そんなことはなく見つめる。

なんだか舌の動きがやらしい気もするが、そんなわけがない。


これは、魔力を注ぐための行為。

全然キスでもなんでもない。


実際、舌先からも熱い魔力が流れてきているではないか。

それに指よりもたくさん流れ込んでくる。

舌先の方が放出口が大きいらしい。


顎に唾液が垂れる。

どちらともわからない唾液が先ほどから溢れていた。


……あれ、これいつまでするんだ?

魔力が足りるまで?

目眩はさっきからずっと止まらない。

むしろそれに追加してこんなことが起こっているのだ、もう何もわからない。


そんなことを考えていたら、舌を吸われ甘噛みされた。

や、やらしい!これはいやらしい!

世の中の人は魔力不足になるとこんなやらしいことをしているというのか!?


息が苦しい。

口を塞がれ、舌を虐められ、魔力を注がれ、2人分の唾液を飲み、ディープキ……いや魔力注入とはこんなに大変なのか。



もうどれ位そうしていただろうか。

私の目眩はだいぶ良くなっていた。指の先までラプターの魔力にみちている。

それ以上によからぬ気分に脳が支配されつつあった。


もう大丈夫だと伝えたいが、伝えるすべがない。

口も手も塞がれている。

なんとかうーうー唸るが離してくれない。

通じてないようだ。


仕方がない。

私は彼の舌を甘噛みした。

これで気付いてくれるだろう。


そう思ったのは間違いだった。


彼の目が弧を描く。

そして、更に口の中を蹂躙された。

舌がまるで生き物のように口腔内を暴れる。

水音が脳に響く。


背筋の痺れが止まらない。

もう、彼は魔力を注いでいなかった。

ただ口内を弄られ、全身の力が抜けていく。


もうダメだ。

これ以上されたらおかしくなってしまう。


そう思った瞬間、唇が離れた。

思わずあ、と声が漏れた。あれだけ離して欲しかったのに離されたらさみしくなる。


お互いを銀糸が繋ぐ。

プチっとそれは切れ私の方に垂れた。

ラプターは私の顔を掴むと、その垂れたものを舐める。

ついでに先ほどから顎に流れていたものも。


彼は私の唇や顎に触れるだけのキスをして熱い体を離した。


……いや、さすがにこれは……違くないか?


「ら、らふ……」


なんと、舌が回らない。

とんでもない。とんでもなくいやらしい。


ラプターは私を熱っぽく……ない、いやこれは熱っぽいのではないのだ。

とにかく私を見つめる。

そしてため息をついて私の横にゴロンと転がった。


「…………目眩は。」


「も、もう大丈夫です。」


少しでも身を動かすと、彼の魔力が漏れ出そうな程だ。全身に及んだ、彼の気配にドキドキする。

それほど注がれたならラプターの魔力量は大丈夫なんだろうか。


「そうか。

……悪かった。

……歯止めが……きかなくて。」


「…………い、え。」


沈黙が流れる。

……いまの件について深く追求するべきだろうか。

歯止めがって何?途中完全に魔力注いでなかったよね?離した後何度もキスした意味は?そもそも舌先から流し込む必要もないじゃん?


もしかして、キスをしたかったのだろうか……?

そう考えていやいやと首を振る。

あの彼がそんな、私とキスしたがるわけがない。


きっとラプターは欲求不満なんだ。

手頃な私で晴らそうと……いやどうだろうか。彼なら私なんかでなくても他の人を捕まえられるだろう。

あまり考えたくないが。


じゃあ今のは?

彼のことだから考えられることは一つ。

私で何らかの実験をしたのだ。

これが一番しっくりくる。

何の実験か知らないが、私はそれに付き合わされたのだ。


私は体を回転させて彼と向き直った。

彼は自分の目の上に腕を乗せ、ハアとため息をついていた。ため息だろう……多分。


「あの、魔力、ありがとうございました。」


「…………ああ。」


「それで、結果は得られました?」


「…………どういう意味だ。」


ラプターが目をすがめる。


「……実験の?」


私がそう言うとラプターは逡巡してから「馬鹿だな」と呟いた。


「実験だと思ったのか。」


「……違わないでしょう?」


「違うよ。」


彼は起き上がると私に再び覆いかぶさってきた。

私を熱い目で見つめてる……気がする……。そんなわけ……。


「なんの実験なんだかな。」


ラプターの唇が再び私の唇に触れる。

な、なんで?


彼は何度も角度を変えてキスをしてくる。

脳が溶ける……と思ったら体が離れた。


「これでお前も少しは意識するだろ。」


「……え?」


「こっちはもうずっと……」


「ただいま戻りましたー!」


レイオレピスの明るい声が部屋に響いた。


ハッとする。

今私はラプターに覆い被さられている。

これではまた勘違いを……


私が彼の下から出ようと体を起こす。

が、レイオレピスは私たちの想像以上のスピードで動いていた。


彼女は「あれ?エンバー様?タンジェリン様?」と名前を呼びながらこちらに来る。

そして寝台にいる我々の姿を見ると硬直した。


「レイオレピ」


「……すみませんでした。私また……」


「ま、待って待って!」


出て行こうとする彼女を止めようと立ち上がろうとして、そのまままた寝台に倒れた。

……腰が抜けて動けない。


「何やってんだ。」


「こ、腰が……抜けて……」


「腰が抜けるほど……本当にすみません。」


レイオレピスの勘違いが深まった。


ラプターは案外落ち着いていて、彼女の腕を掴むと「こいつを部屋に連れて行くから手伝え」と言った。


「あ、でも、私出て行きます。

2時間くらいで平気ですか?」


「…………いや、いい。」


「2時間じゃ足りませんか……。

3時間?」


「そういうことじゃない。」


ラプターは私を横抱きにすると、ずんずんと部屋に進んで行く。


レイオレピスはサッと部屋のドアを開け私の寝台を整えた。


「……ジャガーノートには感謝しないとな」


彼は私にだけ聞こえる声で囁くと、寝台に下ろした。



レイオレピスは私に水差しを渡したり毛布をかけたりしてくれる。

ありがたい。


「腰抜けた時は安静にするのが一番ですよ。

そのあと、少し体を動かせば大丈夫です。」


「ありがとう……。

……よく知ってるね……?」


「…………び、びっくりしやすい人が身近にいるので。」


「スキンク様……お労しや……」


彼もいい歳なんだから、手加減してあげて。


「それで、何があったんですか?」


私は動揺を誤魔化すように咳払いをしたレイオレピスを見る。

……彼女に、なんでラプターがあんなことしてきたのか相談するのも良いかもしれない。

身近にこんなこと相談できる人はいない。


私が掻い摘んで何があったのかを説明した。

ラプターに聞こえてないといいが。


「……そうですか……魔力注入……という名のディープキス……」


彼女のストレートな言葉に恥ずかしくなる。

年下にこんなこと相談するべきではなかったかもしれない。


「それで、エンバー様のこと意識しました?」


「元々……」


いやいや、何を未練がましいこと言っているのだ。

諦めろ。そう決めたじゃないか。


「いや、そんなことはないですね。」


「そうやって意地を張るからややこしくなるんじゃないですか……。

余計なお世話だとは思いますけどもっと素直になった方がいいですよ。

それかもう告白しちゃいませんか?」


「嫌だ。

ラプターの気持ちはわかってるもん。」


「わかってないでしょ、全然。

……お二人ともに言えますけど……相手の前だとツンツンしてるから相手に気持ちが伝わらないんだと思いますよ。

ちょっとデレっしたらどうでしょうか?」


別にツンツンしてないし。

ジャガーノートよりマシだし。

ジャガーノートはツンツンという可愛いレベルではなく、虐殺レベルだが。

……もしかして、私もああなっているのだろうか。


「例えば……ちょっと甘えてみるとか。手を繋ぐとか。しなだれかかるとか。」


「……そうするとどうなるの?」


「押し倒されます。」


それは……なにか悪いクスリでも飲ませたらの話ではないだろうか。


「嘘だ」


「嘘じゃないですよ。敬虔な神殿長を手玉に取った私を信じてください。」


「説得力が段違い……。

……そっか、レイオレピスはあのスキンク様を悩殺してるんだもんね……。」


「どちらかというと、悩殺されてる方ですけど……。

いえ、私のことはどうでも良いんです。

ほら、腰が治ったらさっさと押し倒しに行きますよ。」


レイオレピスはよし、と気合い十分に水を飲んでいる。

……え?押し倒しに行くの?私が?

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