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2.聖女様の男漁り

「エメリーン。イケメンを寄越しなさい。」


今日も今日とて、タワ様はイケメンをご所望だ。

椅子に踏ん反り返り、扇子で己を仰ぐ。


「タワ様はイケメンを集めてどうなさるおつもりなんです?」


「決まってるじゃない。チヤホヤされたいの。

ほら、連れてきなさい!」


タワ様がビシッと扉を扇子で指した。

チヤホヤされたい。

わかりやすい欲求だ。


「恋人にされたいわけでは……?」


「私のような完璧な美女に釣り合えばしてあげてもいいわね。」


赤い唇を釣り上げオホホホと高笑いをした。

何故自ら悪役のような振る舞いを行うのだろう。


その時ノックが鳴った。

瞬間タワ様は高笑いを収め、いつもの優しい微笑みを作る。

素晴らしい早業だ。


「エメリン、出てもらえる?」


「かしこまりました。」


私がドアを開けると、召使いの女だった。

彼女は我々に一礼すると淡々とした声で要件を告げる。


「カロテス様が報告があるそうです。」


かの勇者は魔物狩りから帰ってきたようだ。

私がタワ様に伝えようと振り返ると、彼女はすでに支度を終え優雅に立っていた。


「さ、早く参りましょう。」


いつもは私が急かしても支度してくれないのに……。

かっこいい男が絡むとなるとこれである。



私たちが行くと、勇者様や神殿長、魔法団長に何故か殿下がいた。

それもこれも、いきなりドレスを変えると言い出したタワ様のせい……いやタワ様の発案によるものだ。


「遅れて申し訳ありません!」


タワ様がナヨナヨとした動きで人のいる方に駆けて行った。


「私たちが早く集まっただけです。

お気になさらず。」


「定例化している魔物の報告ですから。」


神殿長以外のみんなニコニコとタワ様を見ている。

全く、美人は得である。

もし私が遅れようものなら腹筋300回やらないと許してもらえないだろう。


「それで、魔物の様子は?」


「かなり少なくなってきました。

厄介なのは先に潰していますし、今は雑魚ばかりです。

勿論気は抜けませんが……これもタワ様のお陰です。ありがとうございます。」


勇者、カテロス様はタワ様に向かって微笑んだ。

裏表のない男で、魔物さえ関わらなければ穏やかな性格をしている。

青の勇者なんて通り名で呼ばれたりもする彼の目の色は真っ青で、そこがまた好印象に繋がっていた。

魔物が関わると悪鬼のようになるが……。


「タワには本当にどうお礼を言っていいか……。」


殿下が珍しく神妙な面持ちでお辞儀をする。


「この場を借りてお礼申し上げます。」


神殿長がその透明感のある顔の表情を一切変えずに、殿下に続いてお辞儀をした。

お辞儀をすると長いプラチナブロンドの髪がサラサラと垂れる。


「そんな、やめてください。

私は当たり前のことをしているだけです。」


タワ様は二人のお辞儀をやめさせると、「一緒に頑張りましょう!」と微笑んだ。

私にもこの愛想を振りまいてくれればいいのだが。


「魔物はいいな。

魔力の方はどうなんですか?安定してきました?」


「先月に比べれば。

ですが、まだ時間はかかるかと。」


一度荒れた魔力は中々戻らないらしい。

殿下は顔を少し顰めた。

あとどれくらいかかることやら。


「魔王討伐後よりは確実に良くなっています。

以前のように天気が安定しないということも無くなり、人に宿る魔力の暴走も無くなりました。

とは言え魔王襲来前のように自由に魔力使うことも難しく、魔法を使うと暴走してしまうという事件が何件も報告されています。」


「うーん、これは仕方ないですよね。

タワが来てまだ3ヶ月。むしろここまで落ち着いた方が素晴らしい。」


「私がもっと頑張れば……。」


「何言ってるんだ。充分頑張ってるだろ?」


殿下はタワ様の肩をポンポンと叩いた。


私もこれに同意する。

普段はイケメンを漁ることしか考えていないタワ様だが、毎日熱心に祈っているし、時折城下に出て民衆との交流を行なって彼らを慰めている。

例えイケメンを漁ることしか考えていなくても、彼女の行いは立派だ。


「……はい。」


彼女はその奇跡のような愛らしい顔でふわりと微笑んだ。

10人いたら11人惚れる完璧な笑みだった。


「エメリン、タワをしっかり守るんだぞ。」


「勿論です。」


「男漁りなんかしているな。」


「……勿論です。」


なぜこの場でそんなことを?

神殿長が僅かに目を見開いたのがわかった。

何を驚いているのです?


「お、男漁り……。」


勇者カロテス様の柔和な顔が引きつった。

裏表がないというのは良いことでもあるし、悪いことでもある。


「ああ、お前も身近に独身の馬とか犬とかいたら紹介してやってくれ。」


「獣姦……?ハードル高いっすねえ。」


彼は黒い髪を掻く。

そんなわけないだろ。


「いえ、顔がとにかくかっこよくて、権力があって、紳士的で、優しく、まじめで、でもどこか影のある魅力的な、人間をお願いします。」


「まだ獣姦のが望みあるかも……。

あ、でも、探しときますね。」


カロテス様は拳を握ってみせた。

うんうん、頼んだよ。

こうしておけば私が動かずとも自然とタワ様好みのイケメンが集まる。

私の評判が地に落ちたとしても、もう既に地に落ちてる気がするので構わない。


「カロテス、そのようなことしなくて良い。

タンジェリンも誰彼構わず頼るな。」


ラプターが完璧に整った顔を顰め、イライラしたように言葉を投げつけてくる。

するとカロテス様は「モチモチヤキモチ」と不明な言語を言いながら何やら満足げに頷いていた。


「カロテス様?」


「いえなんでも。

それよりどうしていきなり男を漁り始めたんですか?

今までは仕事一筋だったじゃないすか。」


今も仕事一筋である。

仕事一筋であるが故にこのようなことになってしまったのだ。

私はタワ様をチラッと見ると、彼女は微笑みながら目だけで「余計なこと言うな」と言って来た。


「……そろそろ結婚をと思いまして。」


「ええっ!?いや、それはどうだろう……。」


「なんですか。」


「えーっと、そう、今あなたに抜けられると我々としても非常に困るというか……。

一緒に闘ってきた仲間じゃないすか。」


「そんなにすぐというわけではありません。

将来的な話です。」


「探さなくても結婚相手はいますよ。大丈夫。」


何を根拠に。


「ええっと、ゴブリンでいいんでしたっけ?捕まえてきます。」


「常々思っていましたけど、あなた失礼な人ですよね。」


私は笑いを必死に堪えて震えているタワ様にもう報告会は終わったと帰るよう促し、部屋を後にしようとする。


「エメリンさん、オーク捕まえたら連絡しますねー!」


タワ様はついに吹き出した。

なんとか咳払いをして誤魔化していたが、私は誤魔化せませんよ。



ノックの音がする。

また召使いだろうか。


「エメリン、出て。」


「はいただいま。」


ドアを開けると、立っていたのはカロテス様だった。

彼は軽く我々にお辞儀する。

筋肉ダルマなので、お辞儀をしたときにシャツの首が絞まって苦しそうだなと関係ないことを考えた。


「カロテス様!いかがなさいました?」


タワ様が私を押しのけてカロテス様の前に立った。

小柄な彼女はカロテス様の胸ほどしか無いので、自然上目遣いになる。


「オークを捕まえたのでエメリンにと思いまして。」


「本気だったんですか?」


「まあ……。」


タワ様がニヤニヤ笑いを必死に堪えいつもの儚げな笑みを浮かべている。


「カロテス様はお優しいんですね。

エメリンのために……お、オークを……。」


後半は震えていた。

誤魔化せてませんよ。


「いやあ、ハハ。

業務が終わったら是非来てくださいね。」


「いえ、人間がいいので。」


「まあまあそう言わずに!

それじゃ!」


爽やかに出て行こうとするカロテス様の裾をタワ様がそっと掴んだ。

服が突っ張らないが持たれたことは感じる絶妙な力加減だ。流石裾掴みのタワ様。


「あ、お待ちになって。

折角こちらまでいらしてくださったんですから、お茶でもいかがです?」


必殺!お茶誘い!

タワ様の趣味であり特技である。

流石お茶会誘いのタワ様。


「え、あー、」


カロテス様の青い目が泳ぐ。

どうしたのだろう。


「お忙しかったらいいんです……。

無理を言ってごめんなさい。」


「俺のような無作法者とお茶をしても楽しくないでしょう。

そうだ、スキンク様を見かけたので彼とお茶してください!言っておきますから!」


彼はニコッと笑うとさっさと出てってしまった。

スキンク様かー……。


「チッ、逃したわ。

まあいい。スキンク様とお茶だなんてレアだもの。

さ、着替えさせて。」


「はい。」


なぜ着替えるのがわからないが、聞いてはいけない。それが乙女なのだから。

たとえ本日4回目だとしても。



スキンク様とのお茶会は苦痛だった。

口数の少ない彼と、お喋りの止まらないタワ様、そして死にに行く表情の私。

側から見たらさぞ面白かっただろう。


「スキンク様は恋人はいまして?」


「…………おりません。」


「あら、そうなんですね。

神殿長はお忙しいですものね……。」


「はい。」


「そうだ、このケーキ美味しいんですよ。

スキンク様いかがですか?」


「夜食が控えてますから。」


……よくこの単語で話す人と会話を続ける気になるな。

私はハラハラしていたが、タワ様は終始楽しそうだった。

タワ様が楽しいなら構わない。

私に八つ当たりしてこないし。


お茶会はすぐお開きになり、ルンルンのタワ様は「私もう休むわ。あんたはオークにでも会ってきなさい。」と鼻先でドアを閉めた。


タワ様はルンルンだとルンルンで辛辣なのである。



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