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17.可愛い人

2017.12.07 利用規約第14条6項に抵触する部分を書いてしまったので改稿しました。すまねえ

「レイオレピス、大丈夫?」


「はい、ありがとうございます。

もう良くなりました。」


タンジェリンさんは心配そうに私を覗き込んでいた。

けどもう大丈夫だ。


あの青の勇者。

彼を見たら恐ろしさで目眩が止まらなかったがすっかり良くなった。


「具合悪くなったらすぐに言ってね。」


タンジェリンさんは優しい。

彼女の元にいれてよかった。


スキンク様が私を他の人の元へ預けると言ったときは嫌でたまらなかったけど、タンジェリンさんは優しく、エンバー様は少し気難しいけど気を配ってくれるので居心地が良かった。


「ちょっとお水貰ってくるね。」


「あ、私もついていきます。

風に当たりたいので。」


「うーん、私一人でいいよ。

風に当たってて。」


でも、片手なのに大丈夫だろうか。

私が不安そうにしているのが伝わったのか彼女は鍛えてるから平気と行ってしまった。


廊下の窓辺に立ち風に当たる。

この魔法団の基地からは神殿は見えない。

スキンク様は今頃何をしているんだろうか……。


そう思っていたら、窓の外の白っぽい人影に気付いた。


「レイオレピス。」


名前を呼ばれ見おろすと、その人は窓の外から私に手を振っていた。


「スキンク様!」


まさか会えるなんて!

私は嬉しくて窓から身を乗り出す。


「あまり身を乗り出しては落ちてしまいますよ。」


「す、すみません。

……スキンク様はどちらに?」


「あなたの顔を見に来ました。

元気そうですね。」


彼の優しい言葉にホッとする。

青の勇者を見たことは言わないでおこう。


「スキンク様はお忙しいですか?」


「残念ながら。

でも今夜は時間が空きそうです。」


彼は私を見つめて笑う。

いつもの優しい笑みではない。

もっと、淫靡な、私を誘惑する笑み。


「会えそうですか?」


「……は、い……」


「良かった。

では私の部屋で待ってますね。」


彼は蕩けるように笑い、自分の指を舐めた。

その仕草に尾骶骨から電撃のようなものが走る。

体が熱い。


スキンク様が見えなくなっても私は体を震わせていた。


……もうダメだ。立っていられない。


私は廊下にしゃがみ込んだ。全身が火照る。

スキンク様……ひどいことするな……。


「レイオレピス!」


「あ、タンジェリンさん……」


「どうしたの!?大丈夫!?」


彼女は水差しを床に置くと、私の背中をさすってくれる。

具合が悪くなったと勘違いしたようだ。


「気持ち悪い?」


「いえ、あの……大丈夫ですから。」


「顔が真っ赤!熱あるかも……!」


慌てた様子で彼女は私の脇の下に手を入れる。

運ぼうとしているらしい。


「だ、大丈夫です!大丈夫です!」


「遠慮しなくていいから……」


遠慮しているのではない。

今触られたらマズイ。


「あの、歩けます。大丈夫です!」


「本当に?」


「はい……」


自分の下腹部を隠すようにしゃがむ。

うう……スキンク様のせいで……。


「あ、そうだ。ラプター様呼んでこようか。

気分が良くなる魔法を……」


「だ、ダメです!」


エンバー様には絶対絶対見られたくない!

彼は鋭いから、いやタンジェリンさんの恋心に気付かない鈍さはあるが、でも私の体の異常に気付いてしまうだろう。


「あの、その、大丈夫ですから。

もう少ししたら歩けます……から……。」


タンジェリンさんは心配そうにしていたが、私がテコでも動かないとわかってくれたのか水差しを持って部屋に入る。


……少し落ち着いて来た。

私はタンジェリンさんの動きを見計らい素早く部屋に駆け込むと布団に潜り込んだ。


「レイオレピス!?びっくりした!

走れたの!?」


「ええっと、そう!走れるくらい元気ですから!」


私がガッツポーズをすると、タンジェリンさんはホッとしたようだ。


「なんだ、良かった。

お水飲む?」


「あ、頂きます。」


タンジェリンさんは水を私に差し出すと、寝台に腰掛けた。


「あんまり無理しないでね。気使わなくていいから。」


「はい、ありがとうございます……。」


水が冷たくて美味しい。

火照った体が冷えていく。


「……レイオレピス。」


「はい。」


「レイオレピスって、男の子?」


「は!?」


私がタンジェリンさんの顔を見上げると、彼女は一点を見つめていた。

私の股間を。


「ぅあ!」


慌てて体を横にして隠す。

布団が薄くて誤魔化しきれなかった。

だからスカートは嫌なのだ!ズボンなら抑え込めるが、スカートはヒラヒラしてなにも守れない。


「ごめん、気が付かなくて。胸があるからてっきり……。

あと……指摘してごめんね。」


「や、ち、違うんです!」


「大丈夫。騎士団にいたし、兄とか殿下とかテイラートとかで慣れてるから。」


「そ、そうじゃなくて……あの……」


体が震える。

バレてしまった。

バレてしまった。


タンジェリンさんが背後でモゾモゾしている。

どうしよう、私のこと、エンバー様に言っちゃうかも。


「……私、女です……。」


「えっ?で、も、」


「あの、私、そういう、体質で、だから、女なのに、あるんです」


私は泣いていた。

こんな、こんなことでバレてしまうなんて余りにも恥ずかしい。


「……ある。」


「……そうです。」


「それは……ええっと……?」


タンジェリンさんが口ごもる。

ああ気持ち悪いと思われた。


「ごめんなさい……」


私は布団から抜け出し、部屋から飛び出た。

後ろで私を呼ぶ声がしたが、無視をした。


✳︎


駆け込んだのは神殿長に与えられた生活スペースである。

ここなら誰にも会う心配はない。


私は勝手にスキンク様の寝台に入り込んでうずくまる。

タンジェリンさんにバレちゃうなんて。

もう嫌だ。なんで私がこんな目に。


「レイオレピス。」


「へっ!?スキンク様!?」


振り返るとスキンク様が立っていた。

何故!?彼は夜しか空いてないんじゃ……


「もしかしたら来るかなと思って待っていたんです。会えて良かった。

……何があったんですか?」


彼は寝台に座ると私の頬を撫でた。


「……バレちゃったんです……。私の、体のこと……。」


「誰に?」


「タンジェリンさん……。」


スキンク様は少し首を傾けた。長い髪がサラサラと流れる。


「彼女なら大丈夫でしょう。」


「そんなことないです!絶対気持ち悪いって思われた!」


「そう言われたんですか?」


「言われてはないですけど……」


「なら大丈夫ですよ。

彼女は……淡々としているというか、瑣末なことをどうこう思う方じゃないですから。」


どうだろう。

タンジェリンさんは優しいけど、でも私がタンジェリンさんの立場なら気持ち悪いと思う。


「魔法団長殿だとちょっと厄介ですけどタンジェリンさんは特になんとも思わないですよ。」


「嘘だ……こんなの、気持ち悪いですもん。」


隠すようにスカートの裾を握る。

スキンク様はその手を掴むと私を抱きしめた。


「私は好きですよ。あなたのそれも含めて。」


スキンク様は優しく笑う。

だから私はこの人のことが……。


「好きです……。」


「私もですよ。可愛いレイオレピス。」


スキンク様が微笑み、私も微笑む。

2人で見つめあっているとドンドン!と激しいノックの音がした。


「スキンク様!レイオレピスが!」


タンジェリンさんの声だ。

……しまった。すっかり忘れていた。


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