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13.弟子の仕事

そんなこんなで私は騎士団を辞め、ラプターの弟子になった。


とは言え、魔物の群れの襲来の被害を修復するのに忙しく余り魔法は教われていない。


「タンジェリン、 神殿に行くぞ。」


「何の用ですか?」


「いつもの定例会だ。

城が今バタついているから、神殿でやるらしい。」


城内は、魔物に侵入され荒れ放題だった。

これでも2週間前よりはマシになったが……。まだまだゴタついている。


神殿は魔物に侵入されずに済んだので綺麗なままだ。

魔物は神聖なものを嫌うというのはやはり本当らしい。


神殿に行くと、神殿長スキンク様が人に指示を出していた。

横には以前見かけた髪の長い少女が立っている。


「神殿長様。」


「魔法団長殿……とタンジェリンさん。

こんにちは。

ああ、もう定例会の時間ですか。すみません。」


「まだ皆揃っていませんから。」


「レイオレピス、あなたは炊き出しの準備を手伝ってきてください。」


少女は「わかりました」と言うとこちらに一礼して去って行く。


「お忙しいですね。」


「それはどこもでしょう。

そういえば、お二人はやっと仲直りされたそうで。」


神殿長の言葉に僅かにラプターは顔を顰める。


「喧嘩していたわけではありませんが。」


「また師弟関係に戻れて良かったですね。」


彼は私の方を見て言った。

……なんだか恥ずかしい。

私は小さく「はい」と答える。


「腕は慣れましたか?」


「ええ。もう大分。」


まだ着替えに時間がかかったり、朝起きて寝惚けていると手がないことにギョッとなるがこれも時間が解決するだろう。


「再生の魔法が見つかると良いですね。」


「再生の魔法?」


「トカゲの尻尾のように、切れてもまた再生する魔法がこの世にはあるそうですよ。」


そんなものがあるとは知らなかった。

ラプターを見上げる。

彼は「あればの話だ」と呟いた。



しばらくすると、殿下やタワ様やカロテス様、そして騎士団長が神殿にやって来る。

珍しい。騎士団長はいつも定例会には参加しないのに。


「タンジェリン、久しぶりだな。」


「ブランフォード様。」


彼女は私の背中をバンと叩くと豪快に笑った。


「全く、腕の一本くれて魔物を追い払うなんてカッコいいことしたのに魔法使いになるとは。

お前は殿下に生涯を捧げると思ったんだがな。」


「私もです。」


人生なにがあるかわからない。


「ま、しっかりやれよ。

エンバー殿は怖いと聞くけど、お前ならもう一本の腕で済むさ。」


ラプターが不愉快そうにブランフォード様を睨むが、彼女はどこ吹く風だ。


「そろそろ定例会を始めよう。

皆忙しいだろ。」


「ああ、そうだったそうだった。」


彼女は私から身を離すと殿下の横に立つ。


「じゃあまず魔物がどうなったか聞こうか。」


「はい。まだ調査中ですが……魔王軍の残党がここを襲ったようです。

情報は絞り出して全て殺しましたので、もうこのようなことはないと思います。


ただ気になるのは2点、奴らがこの城内の間取りを知っていたこととタワ様を狙ったことです。

騎士団の基地を最初に狙いこちらの戦力を弱めてきました。」


基地であったことを思い出したのか、タワ様が口を押さえる。


「……あの時、偶々演習を行なっていたからそのまま出撃できたが……。残ってた奴らは……。」


ブランフォード様は遠くを見つめていた。


「タワを狙ったのが気になるのは何故だ。

我々からしたら救世主だが、魔王側からしたら邪魔者だから狙うのは当然だと思うが。」


「何故タワ様の顔がわかったのかなと。

奴らは名前も姿も知らないはずです。」


「……つまり」


「俺は城の内部に魔物が紛れていると思います。」


カロテス様の発言に皆一様に押し黙る。


考えたくは無いことだ。

城の内部に魔物が……恐ろしい。


「擬態しきれるものか?」


「変身が得意な魔族もいますし、それらが人間に紛れたら俺たちに判別は出来ません。

せいぜい、詠唱無しに魔法を使ったらクロ、というくらいでしょう。

……とはいえ、今のは可能性の一つです。

もしかしたらタワ様の情報が魔王軍側に漏れてしまった可能性もなきにしもあらずです。

とにかくタワ様の身をお守りしましょう。」


自分のそばに魔物がいるなんて恐ろしい話は無かったことにしたいくらいだが、そうもいくまい。

私は気を引き締めた。


「城内にも気を配らないとな……。

……魔力はどうでしょう。」


「安定していたのですが、此度の襲撃でまた少し揺らいでいます。

魔法の暴走の可能性もありますので、慎重にお願いします。」


「そうですか……。」


殿下がほうっと息を吐く。

問題は重なっていく。


更にこの後も報告は続き、殿下の心労は増したように思えた。



「エメリン。」


定例会も終わり解散となった時タワ様に声を掛けられる。


「はい、どうしました?」


「弟子生活はどう?楽しい?

ToLOVEるはあったりする?」


「ToLOVEる?」


「ラッキースケベのことよ。」


なんだそれ、と思いつつも答える。


「ラッキーなスケベですか。

特に無いですね。」


「なんだつまらない。

何かあったら言ってね。」


じゃあね、とタワ様は護衛の騎士を促し行ってしまった。

彼女は猫を被らなくなった。

無意味と思ったのか、殿下のことに真剣になってくれたのかわからないが周りはその豹変ぶりに少なからず驚いていた。


「聖女様はなんだって?」


「ラッキーなスケベがどうとか。」


「はあ?

……まあいい。俺たちも戻るぞ。」


ラプターは私の左側に立ち歩き出した。

私の左腕がなくなってから、彼は私と並んで歩くとき必ず左側に立つようになった。

……そういうことするからいつまでも未練がましく想ってしまうのだ。


「あっ、魔法団長殿、タンジェリンさん。」


珍しくスキンク様が慌てたように呼び止める。


「どうかされましたか?」


「いえ、お願いがありまして。

レイオレピス、こちらに。」


いつの間にか戻っていた茶色の髪の少女がちょこんとスキンク様の横にいる。


「彼女の面倒を見て頂けませんか?」


「え?」


「すみません、藪から棒に。

彼女は私の助手なのですが……今回の襲撃のゴタゴタで面倒を見なければならない助手が増えまして。

その子たちはすぐに他の方の助手になるのが決まっていますが、すぐに行けそうもないんです。」


彼女まで手が回らなくなったのか。

私はなんでもいいが、彼女とラプターはそれで良いのだろうか。


「彼女ならタンジェリンさんのお手伝いも出来ます。

お願い出来ませんか?」


「私は構いませんけど……。

君はそれでいいのか?」


「はい。もし構わないのでしたら是非。」


少女がスッとお辞儀をする。

礼儀正しい子だ。


「なら預かります。

タンジェリン、虐めるなよ。」


「虐めませんよ!」


「……くれぐれもお願いしますね。」


スキンク様は不安そうだ。

私が人を虐めるように見えるのだろうか。


「あの、虐めないから。」


「わかっています。

タンジェリンさんが可愛いから揶揄われているんですよ。」


「なんていい子。お菓子あげるね。」


「落ち着いてください。でもお菓子は貰います。」


「……行くぞ。」



そんなこんなで仲間が増えた。


「レイオレピスはどうして神殿長の助手に?」


「孤児だったところを拾っていただいたんです。

読み書きが出来たのでそれもあったと思います。」


読み書きが。それはすごい。

孤児で読み書きが出来る子なんてほとんどいない。

重宝されることだろう。


「……お前たち、仲が良いのは結構だが作業しろよ。」


指摘され慌てて通りを見渡す。

今私たちはどこに修復が必要かを調べ、修復を行なっている。

ラプターは勿論だが、レイオレピスも魔法が使えるのでとても作業が早い。


「エンバー様はお父さんみたいですね。」


「34歳だからね。

でも、スキンク様の方がお父さんっぽくない?」


ちょっと中性的で浮世離れしているが。

38歳だし。


「うーーーーん……?」


違ったようだ。


「レイオレピスはいくつなの?」


「正確な年齢がわからなくて。

でも成人したんじゃないかな、と思います。」


確かに見た目もそんな感じだ。

彼女の髪についた埃を払う。

私の妹も同じ年頃だが、こんなに可愛らしくはないのでついちょっかい出してしまう。


「レイオレピス、その通りの壁を直したらエメリンと一緒に戻っていい。」


「ラプター様は?」


「やることがある。先に戻ってろ。」


ラプター様は街のどこかに去って行く。


彼は魔法団団長だ。やることが桁違いに多い。

我々にかまけている場合ではないのだろう。


「壁直しました。戻りましょう。」


「あ、うん。」


こういう時、魔法が使えたら役に立てるんだろうかと思う。

早く役に立てるようになりたい。

認められたい。

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