第7話 出会い
……この辺は簡潔にー
ごたごたすると面倒だし
〇第7話 出会い
保護と安全のために短槍の穂先に被せられた穂袋の上にとまるピーチクはいつもより高い位置から景色を見るのがよほど楽しいのか、機嫌よく鳴いていた。
「ピーチク、きれいにしてもらったばかりなんだから傷つけないでよね」
「ピィー」
「もう……高いところから見る景色なら飛べばいいじゃない……」
「ピイヤー」
嫌だ、とでも言いたげに鳴いたピーチクにため息が出てくる。
この鳥、たまに人の言葉のような鳴き方をすることがある。特に「ピイヤー」は「イヤー」とも聞こえる。
実際その通りの意味で自分が嫌な時ははっきりと嫌だと言われてしまう。
日も落ち、あたりは暗くなっている。
例年通り短槍の整備は短時間で終わり1人と1羽は宿を目指して歩いているところだった。
「……むぅ」
タロカの治安は悪くない方だ。だが、とてもいい、というわけでもなく暗くなってから、特に子供だけで人気のない場所を歩くのはあまり推奨されない。
自然に周囲の気配をさぐる。
と、不意にピーチクが穂先から飛び立ち大通りの方へ飛んでいってしまった。
「え、あ、ちょっと、ピーチク!」
人の言葉を解しているのは分かるのだが時々突拍子もない行動をとることがある。
それも大抵の場合、誰かに迷惑をかけるというのがセットになって。
「わ、わ、それはダメだって!って、コラ!」
案の定追いつくと旅人らしい少年の荷袋にとまっていたピーチクの口には緑色の宝石のようなものがくわえられていた。
なんてことをしてくれる。
「ごめんなさい!それを返しなさい、ピーチク!」
「ピイヤー」
「嫌じゃない!これはお前のものじゃないの!」
「……ピイヤー」
「ダメって言ったらダメ!命令です。返しなさい」
「……」
明らかに落胆した様子のピーチクはしぶしぶ少年の手に宝石を置くとミラの肩に戻る。
命令、というと何故かこの鳥は従う。それで解決したことがいくつあることか。
「あの、本当にごめんなさい」
ミラは茫然とした様子の少年に頭を下げる。
叱責を受けると思っていたのだが、返ってきたのは意外な言葉だった。
「……見つけた」
「……見つけた」
そう呟いた少年はキルと名乗った。
「……で、その……人違いでは?」
「いや、絶対に君だよ」
人探しをしているという少年をお詫びをしようと宿まで連れてきたはいいものの、彼は部屋に着くやいなや「君こそ僕が探していた人だ」と言ってきたのだ。
「だって私はあなたのことを知りませんし……」
「君が知らないのは当たり前。僕たち会ったことないからね」
「では何故私があなたの探し人だということになるのですか。会ったことがないのでしたら顔も名前も知らないはずですよ。第一、私はこの街の人間ではありませんし……」
「いや、絶対君だって。《導師》様の予言もそうよまれてたんだから!タロカに行けばすぐに会えるだろうって。それに容姿もそっくりだし」
「《導師》の……予言?あなた、教団員なのですか?」
「いや、俺はファルマ女帝のシルヤザ様直属の臣下さ」
キルは何でもないように言ったが女帝直属の臣下……?
それは、つまり。
「……何でそんな偉い人がこんなところにいて、しかもよりによって私みたいなただの子供を探しているんですか?」
「いやいや、偉いとか地位が高いとかそんなのないから。家が代々女帝に仕えているだけで何かこれといった特技があるわけでもないし。だからさ、敬語なんか使わないで」
「……そうですか。ではなくて……えっと、そうなんだ。納得いかないけれども。予言に詠まれてると言われてもこっちは何も知らないし、分からないし。それに、信頼できないし」
「うわぁ、酷い言われよう……。だったらさ、ほら、これ」
そう言って少年は手を差し出す。
開かれた手の上にのっていたのはあの緑色の宝石だった。
「これがその探し人がタロカにいるって詠まれた時にてきた想石。これを預けておくよ」
「大切な物でしょう?」
「だからこそ。赤の他人に渡すはずはない物を渡す。少なくともそれを持っていかれたら困るのは僕だけ。これで少しは信用してくれる?」
「……一応は。でも、少しでも怪しい動きをしたら粉々に砕きます」
「怪しい事なんてしないから、それでいいよ。僕と一緒に帝都ミシュルナまで来てほしい。そこで女帝と《導師》に君であっているのか、それをきけばもう君も怪しむことなんてないだろうからね」
「……その自信はどこからくるのですか。私なんかじゃないですよ、絶対」
「大丈夫大丈夫。絶対、君だから」
陽気に笑う少年に深いため息が出てしまった。