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IDOLA -puella-  作者: 白野十裏(元トリ)
第2章 タロカ強襲
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第6話 足止めされた商隊

〇第6話 足止めされた商隊


「おじさーん、それ1つください」

「毎度!3レギンだよ」

 銅貨を3枚取り出して露天商に渡すと熱々な揚げたてのラッサロを受け取る。

 ラッサロはひき肉や野菜、チーズなどを穀物の粉を練って薄く伸ばした生地で包んでカラリと揚げたファルマ名物だ。

 1口頬張ると溶けたチーズが糸を引く。

「ピっ!」

 ここぞとばかりに手元に飛び乗ったピーチクはサクサクの皮をつつき始める。

「そんなに欲張らなくてもあげるよ。ほら」

 ちぎって目の前に出してやるが大きな方から離れないピーチクにミラはその頭をつつく。

「こら、ピーチク。大きいほうは私の!あげたじゃない!」

「ピー」

 すると突然横から笑い声が聞こえ1人と1羽は跳びあがる。

「すまんすまん。あまりに仲がいいもんでな。ほら、そこの青い鳥。うまそうに食ってくれてる鳥のお客さんに特別な一品だ、ほれ」

 店主が差し出したのは親指ほどの大きさのラッサロだった。

「あ、ありがとうございま……」

「ピー!」

「あ、こらっ!」

 言い終わらないうちにラッサロに飛びついたピーチクを掴むともらった小さなラッサロと共に地面におろす。

「……もう」

「いいってことよ。それだけうまかったんだろ」

「そうですね。食いしん坊だっていうのもあると思いますけれど」

「ところで嬢ちゃん、連れはどこだい?」

「連れ?」

「おうよ。親御さんとか、兄さんや姉さんとかいるだろ?」

「いませんよ」

「冗談言っちゃいけねぇ。最近物騒だからな」

「……何がです?」

 店主は驚いたように目を見開き

「知らねぇのかい!?」

「……えっと、そういうものに疎いもので。何かあったんですか?」

「ウェリチエがこっから北に行ったとこにある街を襲ったんだとさ。おかげでほれ、ジェレイ行きの商隊が足止め喰らっちまってる」

 刺されたほうを見てみると大きな荷馬車が数台と用心棒だろうか、武器を持った男が街の兵士と反しているのが見えた。

「ここ数日、あんな感じさ。ジェレイに行って手持ちの商品を売って、雪が積もって動けなくなる前にさらに北のユケモっつー温泉街に行ってそこで冬を越して、雪が溶ける頃にその地方の名産品を買い込んでまた海辺やらレイラウアやらに売りに行く。ジェレイで売れねぇってなると、この近辺じゃあんだけの荷をさばけんのはこのタロカか西に行ったラント。あとは帝都ミシュルナくらいだが、大抵の商隊はジェレイの商品とは別にタロカで売るもんもある。だからここじゃあ無理だ」

「へぇ」

「んでもって、ラントとかミシュルナまで行っていたらあの規模じゃ小回りが利かねぇからな。ユケモに行くまでに1つ山を越えなきゃなんねぇんだが、そこが豪雪地帯で……まあ、言っちまえば越えられねぇ可能性の方が高いって訳よ。おまけに戦争は始まるっつーしな」

 店主は険しい顔をして遠くを見る。

「……こんないざこざにゃイレアだけかと思ってたのによ」

「……?」

「南にイレアっつー街があるって言ったろ?俺もそこの出身だが、あそこはこのファルマと今回の敵さんのウェリチエ公国、あとはレイラウアの国境が集まっててな。昔からいざこざが多いわけよ。十数年前だったかにはウェリチエと今はもうねぇがチェクト連合っつー国がそこで衝突してよ、最後にはレイラウアまで巻き込んだ大戦争になっちまった」

「レイラウアって、宗教自治区ですよね?レイラウア聖教の……《導師》って人が一番偉くて……えっと、れ……レイチェ?だったっけ。を祀ってて……?」

「おう。レイチェは俺たちに加護を与えてくれてる。ほれ、ファルマ人は魔法がうまいって言われてんのはミシュルナにあるレイチェの加護のおかげだからな」

「大戦争っていうからには被害もすごかったのですか?」

「んー……」

 店主は考えるように顎に手を当てる。

「うんにゃ……、ファルマ帝国の被害はほとんどなかったようなもんだが。仮にもチェクト連合が滅んじまってるからな……それに大分ウェリチエも消耗したっつーし、何より一番はレイラウアだろうな」

「ピー?」

 食べ終わったのか満足げに目を細めたピーチクは屋台の端にとまる。

「よう、食い終わったか。うまかっただろう。……と、続きだが、レイラウアは常に中立を保ってきたんだ。まあ、例外としちゃあ自治区内に無断で武装して侵入してきたリ明らかに大きな不利益や敵対心があったりした場合は容赦しなかったらしいが。それも自治区内に侵入してきた場合だけで宣戦布告されても国境で徹底的に防衛するだけで相手の国を攻撃することなんざ無かった。……教団の法にも侵略行為の禁止が書かれてる。なのに侵攻したっつーのはよっぽどのことがあったんだろうと思うが、その辺は俺達みたいな人間には何の情報もまわってきちぇいねぇからな。その戦争で、赤き刃は半壊して特殊部隊っつう赤き刃内のエリートばかりの部隊も壊滅したって話だ」

「……特殊部隊」

「ああ。生き残ったやつもいるって話だ。一番有名なのは現《導師》のオリス様だな。当時は《守護者》じゃなかったが氷魔ひょうまって二つ名が付くくらい強かった。まだ若造だった俺もよく噂を耳にしたぜ。そんな化け物みてぇな強さの奴らが集まったのが特殊部隊。……ま、あそこの軍には国3つまとめてかかっても勝てねぇって言われてたのは特殊部隊と《守護者》の存在があったからって前に聞いたが……《守護者》はさすがに分かるだろ?」

「はい。レイチェの意思に従って動くすっごい強い人たちですよね?」

「ま、簡単にいえばそうだろうな。……俺も《守護者》に選ばれてレイチェに仕えたいぜ」

「ふうん……」

「おいおい、嬢ちゃん。《守護者》に選ばれるつうのはとーっても名誉な事なんだぞ?」

「あ、理解はしているんですけど……私はいいかな、って。だって自分の意思を奪われちゃうんですよね?それはちょっとなぁ、って」

「まあな。俺も嬢ちゃんくらいの年の時はそう思っていたさ。どう思おうが人の勝手さ。どこまで信じるかは自由だしな。っと、そろそろ店じまいの時間だな」

 空が茜色に染まり始めていた。

「詳しい話をありがとうございました。店主さん、あなたの商売がうまくいきますように。レイチェの加護を」

「おう。嬢ちゃんも元気でな。あんたにも加護がありますように!」

 教団式の挨拶を交わして露店を離れたミラは鍛冶屋へと急いだ。



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