第5話 宿屋ラロカ
……セントーシーンマダカナー
〇第5話 宿屋ラロカ
「女将さーん!」
「おや、来たね!」
呼びかけると宿屋の奥から恰幅のいい女性が出てくる。
ここタロカにある宿屋ラロカには毎年冬の間滞在させてもらっている。
「そろそろ来る頃だと思っていたんだよ!」
「そうですか。はい、これ山菜です」
「いっつもありがと。と、おやおや。おまけがついとるよ」
そういって女将が山菜の山から引きずりだしたのは青い鳥だった。
「……ビィ」
口いっぱいに山菜の葉を頬張っているピーチクは大きな手で掴まれ不機嫌そうに鳴く。
「わわ!?ごめんなさい!ダメでしょう、ピーチク!……ごめんなさい」
「いいんだよ。こんなにたくさんあることだしね。今夜は山菜鍋にでもしようかね。そういや、何か欲しいものはないのかい?」
「えっと、服をもうそろそろ新調しなくちゃなぁって」
私は外套を脱ぐと8分丈ほどになってしまっている上着を見せる。
「おやおや、ずいぶんと大きくなったじゃないか!わかったよ。他にはあるかい?」
「あとはいつも通り鍛冶屋さんになおしてもらうだけなので」
手に持った短槍を軽く持ち上げる。
私には誰かと一緒に暮らした、という記憶がない。もちろん相棒であるピーチクは別としてだ。
冬はこのタロカにの宿で世話になり、春から秋は人が入ってこないような山奥にある小屋で過ごしている。
自給自足の生活で人工物と言えばタロカまで来たときに手に入れる物だけのはずなのだが、何故かこの短槍だけは『記憶にある』最初から手元にあった。
きっと両親や自分に関する手掛かりなのだろうと大切に手入れをし、毎年冬になると鍛冶屋に穂先の手入れをしてもらう。
ただ、これまで使ったことはなく手入れ以外でその刃に触れることもない。鍛冶屋の店主もほとんどすることはないと言いながらも短槍を最高の状態にしてくれる。イベント化しているのだ。
「部屋はいつものとこが空いてるよ。私は買い出しに行ってくるからあとはレンキにまかせな」
「はーい、いってらっしゃーい」
大きく手を振り女将を見送る。
「さーて」
そして大きく息を吸い込むと、
「レンキさーん!!」
「そんな大声で呼ばなくたって聞こえてるっての!」
ガタン、と大きな音を立てて開いた扉の向こうからひょっこり顔を出した青年に向かって私は背負っていた荷物を差し出す。
にっこりと笑いながら。
「あー、もー、わーかった。わかったってば。荷物は部屋に置いとくよ。で、出かけてくるんだろ?」
明らかにめんどくさそうな顔をしたレンキだがそれは建前。
本当はめんどくさいなどとは少しも思っていないことを私は知っていた。
「はい。夕食前には戻りますので」
「おっと。夕食前に薪割りだ。今回もたんまりあるぜ」
「それはいいですね。いいストレス発散になりそうです。それでは行ってきますね」
「おうよ。迷子になんなよー」
「なりませんっ!」
振り向いて見えたレンキのしてやったり、という顔にしまったと思いつつ街の大通りへと向かった。
1日置きにしよう
(テストだし……)