第2話 静かなる開戦
ちょこっとだけ戦闘
……ボクは認めない、これだけじゃ戦闘なんて認めないっ
〇第2話 静かなる開戦
「シルフ、伏せろ!」
名を呼ばれ反射的に地に伏せる。
直後、頭上を炎の玉が通過し背後にあった建物に当たり爆発する。
「『水よ、槍となり敵を貫け』!」
ほぼ同時に詠唱の声が響き、水の槍が瓦礫の向うへ飛ぶ。
「シルフ、無事か?」
「見てのとおり、無事だ」
差し出された手を掴み立ち上がりながらシルフは言った。
「それはよかった。まあ、君のことだからそうだろうとは思っていたが。やはり実際に姿を確認すると安心する」
「やけに饒舌じゃないか、今日は」
「お前さんも、やけに不用心じゃないのか?」
ニヤリと笑ったエルフが放った矢が顔面すれすれを通り過ぎ、背後から聞こえた断末魔に振り返ったシルフは目を見開く。
「……確かに、不用心だった。感謝する」
「いいってことよ。……私もお前も、みんなも、突然の事で調子がくるっているんだろう」
「ああ……」
「だが、そうであっては本来の役割を果たしてるとは言い難いな」
「そうだな」
エルフの言葉に同意を示すと燃える建物に視線を移す。
国境の街ジェレイ。
ウェリチエ公国の国境からほど近い小さな交易街だ。
小さいながらも賑わいもあり、同時に自然も多い。いたって普通の平和な村だった。
そんな街が戦火に包まれた。
明け方、いきなり隣国のウェリチエ公国軍の強襲を受けたのだ。
しかしジェレイをウェリチエが攻めるとすれば山越えをしなければならず、効率はとても悪い。むしろ攻めるのならばかなり南下するが、平原に面している分こちらより兵の負荷が少ないイレアを狙うほうがいい。
あそこはファルマ帝国、ウェリチエ公国、宗教自治区レイラウアの国境が集まった地域だ。これまで何度も戦場となっている。
決着がついた事はないが、逆にそれだからこちらから攻めてきたというのもあるのだろう。
ジェレイには国境の街ということで常にファルマ帝国軍は常駐している。ただ、その数はイレアに比べものすごく少ない。
この大陸でもっとも大きな領土を持つ国の1つであるファルマ帝国軍の軍事力はとても大きい。十分な数の兵士がそろっていればここまで攻め込まれるまもなく撃退できたはずだ。
もっとも、制圧されるということはなかった。
ウェリチエ公国はかつてウェリチエ帝国と呼ばれていいた。
十数年前に起きた他国との戦争で負けたウェリチエは軍のほとんどを失い、昔から衝突の絶えなかったファルマ国境も最近ではとても平和だった。
今回攻めてきた兵も正規兵と言えど精鋭は含まれておらずウェリチエ軍の主戦力と言える機械兵器の数も少なかったからだ。
現在、ファルマ軍のジェレイ駐屯隊は残兵の殲滅戦に入っていた。
「シルフ、行くぞ」
「ああ」
シルフは頷くと剣をかまえ直し瓦礫が散乱する街の大通りを歩き始めた。
注意:次回設定盛り込みます