諦めないこと
あまり綺麗な文章ではありません。
苦手な方はスルー推奨。
あだ名がボサエモンという男がいる。
彼にとって一番大事なものは、
自分の立派なすね毛だった。
それはまるで単子植物の不定根のように
わさわさと生えていた。
「なあなあ、同志よ」
皮膚の常在菌が話している。
彼らはこのひげ根に好んで住んでいる。
その一群が言った。
「最近ボサエモンにいい人ができたんだと」
「それは目出度いねえ」
ひとりの常在菌が顔を出す。
「それはいいんだけどな、
大変なことが起こるかもしれねえびょ」
「どんなどんな」
皆で顔を突き合わす。
「もしそのオナゴがきれい好きだったらな、
この集合住宅地を悪く思うかもしれねえ」
「そしたら、剃られちまうかなあ」
「わがんねえ。
あんまり立派なもんでよお」
「でもボサエモンがそげな事するとは思えんぜ」
「んだんだ」
その場はひとまず解散となった。
しばらく日が経ち、
ボサエモンの初デートの日。
「ちょっとショックー!
なにこの毛、すごいねー」
ガングロで長い金髪の女性が声を上げる。
「超うけるんだけどぉ~」
「いや、生まれつきなんだし。
気持ち悪かったら、剃ろうか?」
女性はけらけらと笑った。
「別にいいよー。
処理する方が変だってー」
女性はボサエモンのすねをわさわさと撫でる。
常在菌たちの家もかき回される。
「良かったじゃないか。
これでひとまず安心だ」
のんびりとそれぞれの家に帰っていった。
次の日。
ボサエモンは薬局で剃刀を見ていた。
「なんだなんだ、やはり剃る気か」
「終わったな。この世の終わりだ」
「かあちゃーん」
「なんまんだぶ、なんまんだぶ」
「新築なのに……」
大騒ぎになっている。
ボサエモンは思った。
やはり顔のヒゲくらいは、もっときれいに剃ろう!
すねは、これでいいとして。
一晩経って、また二人でデートをしている。
ボサエモンはきりっとした顔つきで前を見る。
彼の目には、愛しい女性の髪に住む常在菌が映っていた。
あれも含めて愛してる。
ボサエモンはやはりいい男なのであった。
「ねえねえ、こっちこっちー」
ガングロ女性が手をつなぐ。
彼女もボサエモンの常在菌をちらりと見る。
「ねえねえ私たち気が合いそうだね」
だって彼らも皆で仲良くしてるじゃん。
みんなで幸せになろうねえ。