初めての人探し
これまでのあらすじ)
傭兵試験を受ける為にカイン王国へとやってきたパイン。
会場で知り合ったアリスと共に無事に試験に合格する。
試験中に起きた不可解な出来事。
傭兵協会会長のバーバラは、試験官サールを2人に同行させる。
3人は、初めてのクエストを完了するも、
カイン王国での少ないクエストでは生活もままならない。
3人は、カルラド王国の天馬の尻尾亭に拠点を移すことを決めた。
到着早々、ひったくりにあうアリス。
そして誰とも分からぬ人物に助けられる。
彼は何者なのだろうか?
連合暦20年3月19日、
ドレアルは、想像以上に親切だった。
家賃こそ月に銀貨2枚と通常価格だったが、
なんと朝食を付けてくれたのだ。
3人は、ドレアルと共に朝食を取っていた。
アリス:「もぐもぐ、、、もぐもぐ、、、。」
パイン:「まさか、朝食までとは思ってもいませんでした。」
サール:「本当にその通りです。」
アリスも頷く。
ドレアル:「気にするでない。
どうせ捨ててしまうものだからな。」
パイン:「それに、古いベットも助かっています。」
ドレアル:「そうかそうか、それは良かった。
ところでお嬢さん。
どこかで会った事は無かったかの?」
アリス:「んっ?、もぐもぐ、、、ごっくん。」
水を飲むと胃に流し込む。
そして一息つくと口を開いた。
アリス:「いえ、カルラド王国に来るのは初めてですので、
お会いした事は無いと思いますよ。」
ドレアル:「そうか、思い過ごしか、、、。」
その時突然、店の扉が大きな音を立てて開いた。
4人が扉に視線を向ける。
1人の男がふらふらと近づいてくるのが見えた。
そして倒れこむ。
4人:「!!」
アリスが立ち上がり男に近づく。
3人もその後に続く。
アリス:「大丈夫ですか?」
そう言うと祈り始めた。
男は、アリスを見上げ、かぼそい声で言った。
男:「ロ、ローザ、こっ、これを、、、。」
そして、右手を差し出そうとしたが、力尽きた。
男の手には勾玉のような物が付いたペンダントが握られていた。
その勾玉には魔法文字のようなものが描かれていた。
ドレアルはそれをじっと見つめている。
ドレアルはアリスの肩に手をそっと置く。
アリスがドレアルを見ると彼は首を横に振っていた。
ドレアルは、3人に部屋で待っているように言うと、
警備兵を呼びに行くと言って出て行った。
3人は部屋で今の出来事を話し合っていた。
パイン:「確かに、アリスを見ながらローザって言ってた。
アリス、その名前に心当たりは?」
アリス:「んー、記憶にないですね。」
サール:「それに、あのペンダント。
魔法文字の様な模様が入っていました。
いまさらですが、もっとよく見ておけばよかった。」
そんな話を延々としていたところ、ドレアルの声がした。
ドレアル:「もう、降りてきてもよいぞ。」
そう言われ、3人は1階へと向かった。
そこには、すでに誰もいなかった。
ドレアルが言うには、ただの行き倒れとして処理される
との事だった。
「良くあることだから、もう忘れろ」とも言われた。
そして、気分転換に王都見学を進められた。
3人はその助言に従い、王都見学へと行くことにした。
しばらくの間、先ほどの出来事が頭から離れなかったが、
王都見学をしている間に記憶の底へと追いやられていった。
3人は王宮の正門の前にいた。
目前には、巨大な門があり、その先に立派なお城が見えた。
アリス:「見て見て!!すごーい。」
パイン:「ああ、立派な門だな。」
サール:「この門は、竜またぎの門とも呼ばれています。
竜をまたぐほど巨大という意味らしいですが。」
パイン:(どこかで似たような話を聞いた気もするが、
意味がちょっと違っていたな。
竜が避けて通るだったかなー?)
パインはそれが何だったか思い出すことが出来なかった。
その時、アリスに近づいてくる少女がいた。
少女:「ローザお姉ちゃん?」
アリスが少女を見る。
少女:「やっと見つけた。ローザお姉ちゃんだ!!。」
そう言ってはしゃぎだす。
アリスがなだめるように言った。
アリス:「ごめんね。ローザお姉ちゃんじゃないの。
私はアリスよ。」
少女:「えっ、違うの?」
アリスの右手を取ると手の甲を見た。
そして、下を向いて黙ってしまった。
しょぼんとする少女を見てアリスが口を開く。
アリス:「よし、なにかおいしいものでも食べよっか。
お姉ちゃんがご馳走してあげる。」
その言葉に少女はアリスを見上げると、笑顔で答えた。
少女:「うん。」
4人は近くのお店でくつろいでいた。
少女はアリスの膝の上にちょこんと座ると、
おいしそうにオレンジジュースを飲んでいた。
少女はリナと名乗った。
姉と一緒に両親に会いにここに来たが、
朝起きると姉がいないことに気付き、
姉を探しまわっていたとの事だった。
ローザは手の甲に蝶の形のアザがあり、それが無かったため
アリスが別人と分かったらしい。
パイン:「なるほど、で、どうする?」
アリス:「もちろん、ローザを探すでしょ。」
パイン:「そう言うと思っていたよ。
じゃあ、早速探しにいくとするか。」
そして、3人はリナと一緒にローザを探すことになった。
当然の事だが、捜索は難航した。
地理に詳しくない3人が集まっても迷子になるだけだった。
3人は裏路をさ迷い歩いていた。
パイン:「んー、ここは一体どこなんだろうな?」
サール:「さー、どこでしょうね?」
アリス:「わかんない。」
そのとき、路地の角から男が現れた。
その男がこちらを見ると大声をあげた。
男:「いたぞー!!。」
その声で、数人の男達が集まってきた。
男達は手に武器を構えていた。
4人は男達と対峙する。
男:「おとなしく、ペンダントを渡してもらおうか。」
アリスはリナを自分の後ろへと下がらせる。
パイン:「ペンダントだと?何のことだ?」
そう言いながら、戦闘体制へと入る。
男:「殺してもかまわん。やれー!!」
その時、上の方から笑い声が聞こえてきた。
???:「ハッハッハッハッハッハッ!!」
全員が上を見上げる。
そして、妙な歌声が聞こえてきた。
???:「このー世にー♪、悪のー♪、あーる限りー♪
どこからともなく♪、現れてー♪
悪を倒して♪、去って行くー♪
その名をー♪、その名をー♪、尋ねたらー♪
皆が答えるー♪、そーの名前ー♪
ジェイル♪、ジェイル♪、ジェイルー♪」
何故だかわからないが、男達はその歌が終わるまで待機する。
そして、男がお決まりの台詞を発した。
男:「貴様、何者だ?」
突然、屋根から男が飛び降りると1回転して着地しようとした。
しかし、着地に失敗してこける。
その男は、目のところを隠すマスクをしており、
そしてマントを付けていた。
アリスが近寄って声をかける。
アリス:「あのー、大丈夫ですか?」
ジェイルはすっと立ち上がると、何事も無かったように答えた。
ジェイル:「お嬢さん、下がっていてください。
これは私の仕事です。」
パインとサールはその台詞っぽい話し方が妙に気になった。
アリスは何を言っているのか良く分からなかったが、
助けてくれようとしていることだけは分かった。
アリスは、「はい。」と答えると、リナと共に後ろへとさがった。
ジェイル:「その他の皆さんも下がっていてください。」
そういわれて、パインとサールも後ろへ下がる。
そして、男達の方を向くと言った。
ジェイル:「成敗してくれる。」
その言葉を聞いて、やっと男達が動きだした。
男達:「やれー!!」
そして、しばらくジェイルと男達の殺陣の様な攻防が続くと、
突然男が大声をあげた。
男:「くそ、退却だ!!、引けー!!」
そして、ジェイルは逃げてゆく男達を追いもせずに、
その場に佇んでいた。
パインとサールは、それをじっと眺めていた。
アリス:「ありがとうございました。ジェイルさん。」
そして、ぺこっと頭を下げる。
ジェイル:「ん?、何故、私の名を知っているのだ?」
パインとサールは、その言葉に突っ込みを入れたかったが
我慢した。
ジェイル:「まあいい。気をつけて帰りなさい。」
そういい残して、逃げるように去って行った。
パイン:「今のはなんだったんだ?」
サール:「なんか、三流の芝居を見ているようでしたが、、、。」
パイン:「そうそう、そんな感じだったな。
いったいあれは、なんだったんだろうな?」
そんなこともあり、3人はまた襲われることを危惧して、
天馬の尻尾亭へ戻ることを決めた。
天馬の尻尾亭の扉を開けると、目の前にドレアルが立っていた。
パイン、サール:「戻りました。」
アリス:「ただいまー。」
ドレアルは、アリスの服をしっかりと掴んだ
リナを見るなり言った。
ドレアル:「思い出したぞ!!」
パイン:「どうしました?」
ドレアル:「まあ、まずは座れ。」
そう言って、4人を座らせる。
リナは、アリスの膝の上にちょこんと乗っかった。
そして、全員が座るのを見て話だした。
ドレアル:「そう、それは一昨晩のことだ。
嬢ちゃんに良く似た娘が今と同じように
その子を膝に乗せて、ここにいたんじゃよ。」
パイン:「えっ」
ドレアル:「そして、その娘がこのペンダントをかけていた。」
そう言って、ペンダントを机に置く。
全員がそれを見る。
パイン:「あっ、そのペンダントは、、、。」
そのペンダントの先には、勾玉のような平たい石と丸い玉が
付いていた。
そして、その両方に魔法文字のような模様が刻まれていた。
サール:(あれ?あの丸い玉、あんなの付いていたっけ?)
サールは思い過ごしだと思い、考えるのをやめた。
リナ:「あっ、ローザお姉ちゃんのペンダント!!」
ドレアル:「やはり、そうか。
お前さんたちが王都見学をしている間に、
このペンダントの魔法文字、調べさせてもらった。」
全員がドレアルに注目する。
そして、サールは何かを思い出したような顔をする。
サール:「もしかして、マスタードレアル?」
ドレアル:「そうじゃが。」
サールが急に立ち上がると、
サール:「知らぬこととは言え、ご無礼の数々お許しください。」
そう言って、ふかぶかとお辞儀をする。
ドレアル:「よいよい、わしはただの店主じゃよ。」
パインとアリスはきょとんとした顔をしていた。
サールは座ると、2人を見て話し始めた。
サール:「魔法陣研究所のことは知ってますよね?」
パイン:「多少は、、、。」
サール:「傭兵王カインが作った魔法陣の研究をする組織です。
で、そこの所長がバーバラなのですが、
所長を決めるときの所長候補の一人だったのが、
ここにおられるマスタードレアルなのです。
マスタードレアルは引退すると言い残して
去って行ったと聞いていたのですが、、、。」
アリス:「へー、そんなに偉い人だったんだ。」
そして、ドレアルを見る。
ドレアルは、ひげを摩りながら話始めた。
ドレアル:「そんなこともあったかのー。
それに、昔の話じゃ。
今は、ただのジジイじゃよ。
まあよい、それより魔法文字の話じゃ。
この魔法文字を見る限り、召喚用の魔法文字の
一部だと見受けられる。」
サール:「一体何を呼び出そうとしたのですか?」
ドレアル:「それが何かは分からん。
まあ一部分だし、当然じゃがの。」
サール:「たしかに。」
ドレアル:「これ以上考えても、何も分からんよ。
全て手に入らない限りはの。」
サールは残りの魔法文字が気になっていたが、
ドレアルの言う通り、これ以上考えても意味が無いことを
理解していた。
そのため、これ以上の議論は不要と判断した。
その後、パイン達は、先ほどの襲撃の事をドレアルに話した。
ドレアル:「そうか、そんなことがあったのか。
そうじゃ、このペンダントは一旦返しておこう。
魔法文字は写させてもらったからの。」
ペンダントをリナの首にかける。
3人はびっくりした。
(ペンダントを狙っている奴らがいるのに、
子供にそれを持たすのか?)
リナはペンダントを握り締めると、笑顔で答えた。
リナ:「ありがと。」
そしてドレアルは言った。
ドレアル:「リナちゃん、お願いがあるのじゃが、、、。」
リナ:「なに?」
ドレアル:「しばらく、お爺ちゃんにそのペンダント
貸してくれないかのー?」
3人はなるほどと思った。
リナ:「えー。」
アリスが応援を入れる。
アリス:「私からも、お願い。」
リナ:「んー。アリスお姉ちゃんにならいいよ。」
そう言って、自分の首からペンダントを外すと、
アリスの首にかけた。
ドレアル:「すまんが危険を承知で頼まれてくれんかの?
そのペンダント、見えるようにしておいてくれ。」
アリスはパイン、サールと見た後に、
アリス:「はい。」
と答えた。
3人は、これで少なくともリナが襲われる可能性は
無くなると考えた。
そして部屋に戻り、明日もローザの捜索を行うことを決めると、
眠りについた。