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魔獣の壺 - 本編 -  作者: 夢之中
ベンヌの住まう山
57/99

元凶

連合暦20年6月18日、


シェリルは悲しみのあまり、何も考えることができなかった。

頭の中に語り掛ける声が聞こえるまでは、、、。


その声は最初こそ、小さくか細かったが、次第に大きく、

力強くなっていった。


そして、頭の中の霧が晴れてゆく。

今では、はっきりと聞こえる


???:「ジェイルは生きている。」


シェリルは、その声に気が付き、顔をあげると振り向いた。

そこには、右手のひらを自分に向け、神妙な顔をした

レミューズが立っていた。


レミューズは、優しい声でシェリルに語り掛けた。

レミューズ:「ジェイルは生きている。

      意識を失っているだけだ。

      もう少し、寝かせてやれ。」

シェリルは、涙を拭くと、黙って立ち上がり、

ゆっくりと頷いた。


レミューズ:「何があったかを説明しよう。

      一緒にきてくれ。」

シェリルとサールは、レミューズの後に続き、

隣の部屋へ移動した。

そこには、ドレアルとエッグ王子が待っていた。


ドレアル:「どうやら、そろったようじゃな。

     なにが起こったのか説明しよう。」


-----


ドレアル、レミューズ、ジェイルの3人は、大河の水差の祠の

前で、完全に体が動かなかった。

3人とも、後ろから近づく人の気配だけを感じていた。


???:「気分はどうかな?

    あっ、そうか、しゃべれなかったね。

    じゃあ、こうするかな。」

    

ジェイル:(んっ?この声、どこかで聞いた覚えがある。

     一体どこだ?思い出せ。)


次の瞬間、突然頭の中に声が聞こえた。

???:((これでよし。聞こえるだろ?))


レミューズ:(これは、パーティーの術式か?

      しかも魔法陣もなしにやったというのか?

      一体何者なんだ?)


ドレアル:((聞こえるぞ。

     ところで、お前は何者じゃ?))

???:((名前を聞いているのかな?

    それなら、ゼロスとでも呼んでくれ。))

ドレアル:((ゼロスじゃと?))

レミューズ:(ゼロス?)

ジェイル:((あっ、思い出した、この声、ニコさんの声だ。))

ゼロス:((えっ、ちょっとまってね。

    ・・・・・・・・・・

    あぁ、そいつの言っていることは、本当だよ。

    こいつの名前はニコみたいだ。))

レミューズ:((なんだと、どういう意味だ?

      まさか、記憶を調べたのか?

      憑依しているとでも言いたいのか?

      まさか、お前は魔獣なのか?))

ゼロス:((おいおい、壊すだけしか能のない魔獣と

    一緒にしないでくれよ。

    こいつの身体は借りてるだけだ。))

ドレアル:((ヴァニッシュなのか?))

ゼロス:((バニッシュ?

    ・・・・・・・・・・

    なるほどね、魔獣の手助けをするの人間達の事か。

    んー、そういう意味だと、ヴァニッシュなのかな?

    そこのやつにも、手伝わせてるし。))

ドレアル:((お前の目的は一体何なんだ?))

ゼロス:((んー、とりあえず、今は2つかな。

    1つは、この大河の水差を使わせない事かな。

    これに関しては、封印を解く時間がなかったので、

    開けてくれて助かったよ。

    まあ、大河の水差に関しては、ついでなんだけどね。

    もう1つは、あの召喚士に消えてもらう事かな。))

レミューズ:((なんだと、、、貴様。

      何をやろうとしているんだ?))

ゼロス:((そうだね、折角だから教えてあげるよ。

    僕はね、世界を昔に戻したいんだよ。

    世界は、元々創造と破壊のバランスで

    成り立っていたんだ。

    創造だけでもダメ、破壊だけでもダメなんだ。

    ところが、人間が幻獣を仲間にしたことによって、

    そのバランスが壊れたんだ。

    それだけだったら、まだ問題は無かった。

    問題は、魔獣を異世界に閉じ込めてしまった事なんだ。

    そのために、この世界の進化は一気に

    減速してしまった。

    生物は、生き残るために進化を続けているんだ。

    そして、生き残れた種のみがそれを次に引き継ぐ。

    ところが、人間は生き残るための方法を他に見出し、

    進化することを自らやめてしまったんだ。

    だから、僕は魔獣の壺を作ったんだよ。))

ドレアル:((なんじゃと、貴様が魔獣の壺を作ったじゃと。))

ゼロス:((そうだよ、最初の壺を作ったのは僕さ。

    そして、魔獣に作り方を教えた。))

レミューズ:((なるほど、貴様が元凶という訳か。))

ゼロス:((いや、そうでもないよ。

    元々発端は、人間が幻獣と契約を結んだことなんだよ。

    そして、魔獣を異世界に閉じ込めたことだ。

    それが無ければ、魔獣の壺も作らなかった。

    まあ、魔獣が存在するなら作る必要もないけどね。

    それに、一部の人間は自ら進んで僕に協力してくれる。

    今回の魔獣王の復活も人間がやったことだしね。

    もちろん指示したりしてないよ。

    僕は、その手助けをしているにしか過ぎないんだ。

    この身体は勝手に使わせてもらっているけどね。))

ジェイル:((なんだって、おぃ、ニコさんを解放しろ。))

ゼロス:((すまないが、それはできない。

    僕がベンヌの所在を確認するために行動していた時に、

    この男に前の身体を壊されちゃったんだよ。

    仕方なく、身体を使わせてもらっているんだ。))

ドレアル:((まさか、お前は精神体なのか?))

ゼロス:((精神体?

    ・・・・・・・・・・

    うーん、難しい質問だね。

    言っても分からないだろうから教えないよ。

    さて、そろそろいいかな?

    僕は、召喚士の居場所を知りたいだけなんだ。))

ゼロスが何かの呪文を唱える。


ジェイル:((あっ!!))

その瞬間ジェイルの意識が飛んだ。


ドレアル:((うっ!!))

レミューズ:((くっ!!))

残りの二人は、背中に激痛が走った。


ゼロス:((あれれ、坊や以外には、効果なかったか。

    ふーん、守護の魔法陣でも彫ってるんだね。

    じゃあ、痛かったでしょ。))


レミューズ:((魅了の呪文か、残念だったな。))

ゼロス:((まあ、そうなんだけど、

    坊やからの情報だけで、我慢するよ。))


ゼロス:「おい、お前、そいつだけ金縛法を解く、

    暴れるかもしれないので抑えておいてくれ。」


ドレアルは、見逃さなかった。

前を通過した時に見えた顔は、この国の大臣だった。

そう、最初にこの地底湖を探索したときの宮廷魔導士であり、

大河の水差を封印したときの補佐役。

そして、現在の大臣、その人だった。


大臣がジェイルを抱きしめるように拘束する。

ゼロスが、右手を前に出し、

ジェイルの頭に手を置こうとしたその時。


ゼロス:「ぎゃーーーっ!!」


突然2人の身体が動くようになった。

レミューズがジェイルの方を向くと、

切断された右腕の付け根を左手で押さえたゼロスが見えた。

ジェイルは、真っ赤な血に染まっている。

奥にしゃがんでいるのは、エッグ王子だろうか?

片手に剣を持ち、振り下ろした後の様にみえる。


ゼロスの身体から、霧のようなものが噴き出す。

そして、その霧が大臣に吸い込まれてゆく。

大臣は、ジェイルの拘束をやめ、後ろに下がると、

次の瞬間、白い光と共に消えていった。


ジェイルを見ると、意識を失っているのかぐったりとしている。

力なく立つ体をエッグ王子が支えていた。

そして、ジェイルを静かに地面に横たえた。


ドレアルがジェイルに近づき、身体を確認する。

レミューズは、倒れたニコの身体を確認する。

そして、切断された右腕を手に取ると、ニコの身体に繋げ

呪文を唱え始めた。


しばらくして、

ドレアル:「ジェイルは、大丈夫そうじゃ。

     気を失っているだけじゃの。

     魅了の呪文も何とかなるじゃろう。」

そう言いながら、レミューズを見る。

レミューズ:「この者の腕も大丈夫でしょう。

      とりあえず、接続だけはしておきました。」

ドレアル:「そうか。

     ところで、エッグ王子。

     わしらからは、見えなかったのだが、

     一体何が起こったのじゃ。」

エッグ王子:「はい、事前指示の通りに後をつけ、

      地底湖を船で移動して、敵の視界を避けるように

      祠の影に隠れていました。

      そして、ジェイルが攻撃されそうになったので、

      祠の上から飛び降りて切りつけたのです。」

ドレアル:「なるほど、助かったぞ。」

エッグ王子:「それよりも、あいつは何者なんですか?」

ドレアル:「うむ、その話は、戻ってからにしよう。

     ジェイルとニコ殿の事も気になる。

     すまんが、2人の救護を頼む。

     わしは、大河の水差を回収してから戻る。」

エッグ王子:「わかりました。」


-----


ドレアル:「わしとレミューズは、大河の水差の回収を済ませ、

     戻ってきたというわけじゃな。

     ニコさんは、気が付くとすぐにカイン王に報告に

     向かった。そして、今に至るというわけじゃな。」


黙って聞いていたサールが神妙な顔をして言った。

サール:「んー、にわかに信じられない話ですね。」

ドレアル:「そうじゃろうな。」

サール:「そのゼロスというやつですが、

    魔獣の壺を最初に作ったということは、

    一体、何年生きているのでしょう?」

ドレアル:「うむ、数千年、数万年という事じゃろうな。

     不死なのか、あるいは他に方法が

     あるのかもしれんが。」

サール:「不死なんて、精神体以外考えられないのですが、

    幻獣などの精神体としては、

    行動に一貫性が無いと思うのですが。」

ドレアル:「そうじゃな。

     我々の知らない何かなのかもしれんな。

     情報が無い以上、検討は無意味じゃろう。

     ただの想像になってしまう。」

サール:「そうですね。」


サールが横を向くと、シェリルが何か悩んでいるような顔を

していた。

シェリルがそれに気づき、戸惑った顔で話し出した。


シェリル:「あのー、実はゼロスという名前なんですが、

     どこで聞いたのか思い出せないのですが、

     聞いた事があるような気がするんです。」

シェリルの発言にレミューズが驚いたような顔をした。


レミューズ:「実はな、私も聞いた事があるような気がするんだ。

     残念ながら、私もどこで聞いたのか思い出せない。」

ドレアル:「不思議なこともあったものだな。

     しかし、そのゼロスという者が全てを知っているのは

     間違いないじゃろうな。」


A:んー、話が急展開すぎます。

  ジェイルが生きていてよかったです。

C:そうですね、気が付いている人もいるかもしれないですが、

  以前に、「私も若かったのだよ」と語っているので、

  死んでいない事は分かっていたんですよね。

A:なるほど、そうだったんですか。

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