ベンヌの本
パイン達は、クライム王国の傭兵協会にいた。
ハルバールの屋敷の位置はすぐに分かった。
傭兵協会で位置を確認したのもあるが、パインがその場所を
知っていたのだ。
パイン:((ハルバールの屋敷は、子供の頃にお化け屋敷って
呼んでいた場所なんだ。))
サール:((お化け屋敷ですか。))
パイン:((あぁ、誰も住んでいないのに、たまに明かりが
点くことがあったんだ。
それで、お化け屋敷って呼んでいた。
実際には定期的に管理していた人が来ていただけ
だったんだけどな。))
サール:((そういえば、
クライム国はパインの故郷でしたね。))
パイン:((あぁ、それにしても懐かしいな。))
アリス:((パインの実家みてみたいな。))
パイン:((えっ?、いいけど、先にハルバールの屋敷に行こう。
ニコさんを待たせるのも悪いし、、、。))
サール:((そうですね。その方がいいでしょうね。))
ジェイル:((さっさと行って、終わらせよう。))
アリス:((はーい。))
そして、5人はハルバールの屋敷へと直行した。
ハルバールの屋敷は、住宅街の真ん中にぽつんとあった。
5人はよく手入れされた庭を通り玄関へと到着した。
扉には、鳥の形を模したドアノッカーが付いていた。
パインがそれを使う。
「コン、コン、、、コン、コン」
屋敷の中を歩く音が聞こえる。
そして、静かに扉が開いた。
現れたのは、1人の中年の女性だった。
???:「あんれまぁ、こんだらところへ何のようだぁ?」
パイン:「いえ、傭兵協会のほうから来ました。」
???:「ほうから?、もしかして、詐欺じゃねえだろな?」
サール:「いえ、カイン王から依頼されて調査に伺いました。」
???:「あぁ、そっだな話あったな。
んで、リーダーの名前教えてくりゃ。」
パイン:「パインです。」
???:「それだぁ。その名前だぁ。
あたしゃが、ニコだぁ。」
パイン:「貴方がニコさんですか。」
ニコ:「んだ。
んだども、こんだらところへ、なんのようだぁ?」
パイン:「ハルバールの行方を捜すための調査なんですよ。」
ニコ:「そうだったな。とりあえずはいるべよ。」
サール:((どうやら、我々が本当にカイン王から依頼されて
来た者か確認したようですね。))
パイン:((あぁ、なんか試されている感じがした。))
パイン達は屋敷の中へと入った。
ニコ:「すまなかった。
本人かを確認させてもらった。」
パイン:「訛りも演技だったんですか?」
ニコ:「あぁ、ヴァニッシュの連中が動いていると報告が
あったのでな。」
パイン:「ヴァニッシュ?」
ニコ:「ヴァニッシュは魔獣王に味方する者達のことだ。
その連中が魔獣王討伐隊の邪魔をしたり、
討伐に関係する者を襲ったりと、混乱を起しているんだ。
理由は分からないが、この屋敷も狙われているという
情報が入ってきている。
彼らのことは、傭兵協会では無に帰すものという意味で、
ヴァニッシュと呼んでいるんだ。」
アリス:「それって、魔獣王に組する者達のことだよね?」
サール:「たぶん同じ者達のことだと思いますよ。」
ジェイル:「ヴァニッシュか、なんか、いいな。
よし、我々もそう呼ぼう。」
サール:「そうですね。名前は同じ方が混乱しないですからね。」
パイン:「ところで、
何故、カイン王はその話をしなかったのだろう?」
サール:「そうですね。何故でしょう?」
ジェイル:「そうだな、気になるな。」
アリス:「きっと、忘れてたんだよ。」
パイン達が悩んでいると、ニコが話し始めた。
ニコ:「ヴァニッシュの件は、極秘事項なんだ。
私はカイン王の勅命を受けて動いている。
ヴァニッシュについても話すように指示されていた。
ヴァニッシュは、どこにでもいるんだ。」
パイン:「どこにでもいる?、どういう意味ですか?」
ニコ:「バニッシュは人々の中に紛れ込んでいるんだ。
そして、指示があれば牙を向く。
カイン王は傭兵協会の中にもヴァニッシュがいると
考えているようだ。」
パイン:「なるほど、そういうことでしたか。
ところで、ニコさんの話し方って女性って感じが
しないんですが、まさか、、、男?」
ニコ:「あぁ、ばれてしまったか。
もう少し、話し方に注意しないといけないな。
そう、私は男だ。」
アリス:「えぇーーっ。そうだったんだーー。」
ニコ:「まあ、この話は、終わりにしよう。
屋敷の中は、勝手に調べてもらってもかまわない。
しかし、勝手な出入りは禁止だ。
必ず私の許可を取ること。
あと、中の物は当時のままになっている。
家の中の魔法陣や魔法の品は使わないこと。
以上を守ってくれ。」
パイン:「はい、分かりました。」
そして屋敷の中を調べ始めた。
パイン達は1階にあった部屋にいた。
そこは、壁際にレンガ造りの暖炉が1つあり、
くつろぐ為のソファーが置かれていた。
ジェイルは、暖炉を熱心に調べていた。
パインがそれを見て声をかけた。
パイン:((ジェイル、暖炉が気になるのか?))
ジェイル:((あぁ、ニコさんが当時のままと言っていただろ。
失踪があったのが22年前の2月中旬。
つまり、真冬だったんだ。
それなのに、薪が新品だ。
確かに使った跡はあるが暖炉を焚かない理由が無い。
つまり、当時この暖炉は使われていなかったんだ。
ということは、この暖炉には使わなかった理由が
あるんじゃないかと思ってな。))
ジェイルがなにやら呟くと、暖炉の中に明かりが灯った。
そして、暖炉の中へと入ると、中を丹念に調べてゆく。
暖炉の中は煤で汚れていた。
しかし、1箇所だけ後からはめ直したと思える汚れていない
レンガがあった。
そのレンガを慎重に外す。
それは、想像以上に軽かった。
暖炉の中から這い出ると、皆が集まっていた。
ジェイル:((このレンガなんだが、軽すぎる。
中が空洞かもしれない。))
そう言ってジェイルがレンガを振った。
しかし、中に何か入っているような音はしなかった。
サール:((とりあえず、割ってみるしかなさそうですね。))
パイン:((割るなら、ニコを呼んでくる。
後で、何か言われたくないからな。))
そして、部屋を後にした。
しばらくすると、パインがニコを連れてきた。
ジェイルが事情を説明し、ニコの承諾の上、
レンガを割ることになった。
割る担当は、パインになった。
パイン:「さて、なにが入っているのかな、、、。」
パインがレンガを割ると、何かを包んでいると思われる布の
塊が現れた。
ジェイル:「なるほど、それで音がしなかったのか。」
パインが布を外してゆく。
そして、現れたのは、鳥が描かれたメダルだった。
パイン:「これは何なんだ?」
ニコ:「それは、、、。」
ニコが驚いた顔でそれを見た。
ニコ:「それは多分、屋根裏部屋の鍵だろう。
屋根裏部屋に扉があるんだが、
どうやっても開かなかった。
その扉には丸い穴があいていたんだ。」
パイン:「なるほど、何か隠したいことがあったんだろうな。
その部屋に手がかりがあるかもしれない。
すぐに行って見よう。」
そして、6人は屋根裏部屋へと向かった。
その扉には鳥の絵が描かれていた。
見たことも無い鳥だった。
パインは、これがベンヌなのかと考えた。
そして、丁度巣が描かれたあたり。
たぶん卵に見立てているのだろうが、
その位置に丸い穴が開いていた。
そこに、メダルをはめ込む。
すると、音も無く扉が開いた。
まず、パインが中の様子を確認した。
それは部屋というよりも、収納という狭さだった。
幅1m、奥行き2mというところだろうか?
そこに机が1つ置かれていた。
机の上奥には本棚があり、本が隙間無く入っていた。
机の上に蜀台を見つけたので、それに火を灯す。
そして、本棚の本の背表紙を確認していく。
その中の1冊に目を留めた。
その本には、「ベンヌ」と書かれていた。
表紙を捲ると、そこには
我が一族の子孫のために、これを残す。
と書かれていた。
書かれた日付もはいっていた。
それは、今からおよそ100年ほど前だった。
次の頁を捲ると、そこには羽を広げた鳥の絵が描かれていた。
その横には、鳥に祈りを捧げる人が描かれていた。
その鳥は、大きくそして光輝いていた。
羽を広げたその鳥は、横に描かれている人の3倍はあるであろう
大きさだった。
次の頁も絵だった。
その絵では、鳥の大きさは人の10倍はあろうかという大きさで
描かれている。
パイン:「おいおい、こんな巨大な鳥はいないよな。」
サール:「そうですね。誇張して描かれているようですね。」
ジェイル:「さっさと、次の頁捲ってくれ。」
パイン:「すまん、すまん。」
そして、次の頁を捲る。
そこには、魔獣と戦う炎を纏った幻獣と思われるものと
空を飛ぶ鳥が描かれていた
それは、壁画で見た絵に似ていた。
パイン:「これ、魔獣と幻獣とベンヌだよな?」
サール:「幻獣は、たぶんイフリートじゃないですかね?」
シロ:((そうにゃ、イフリート様にゃ。))
サール:((やはりそうですか、、、。))
パイン:((とすると、魔獣王と戦うにはイフリートとベンヌが
必要ということなのか?))
シロ:((イフリート様は、前の戦いで傷ついたにゃ。
復活するには人間の歳月で、あと千年は必要にゃ。))
ジェイル:((どういうことだ?))
シロ:((それは、言えないにゃ。自分で調べるにゃ。))
サール:((つまり、こういうことではないでしょうか?
前の魔獣王との戦いでイフリートが魔獣王を封印した。
しかし、その戦いで傷つきイフリートも眠りについた。
そんな感じがしっくりきますね。
しかし、アリスにはシヴァが来た。
それには、きっと意味があるんですよ。))
パイン:((サールは、幻獣はイフリートでなくても良いと
言いたいんだよな?))
サール:((そうですね。
ただし、横にいるベンヌですが、
それは必要なのかもしれません。
実際の鳥かあるいは、それに代わるものが、、、。
そして、ハルバールは、ベンヌに関わっていると
言うことですね。))
ジェイル:((なるほど、やはり、ハルバールを探すのが
魔獣王討伐に必須ということか。))
サール:((そうですね。))
生死不明のハルバールを見つけることが出来るのか?
ベンヌとは何なのか?
そして、この本には何が書かれているのだろうか?
A:「この本を読み進めてゆくと、ベンヌについて
分かるんでしょうね。」
C:「たぶん、そうじゃないですかね?」
A:「Cさんは、いつも、はっきりしませんね。」
C:「いえ、色々と注意を受けているので、、、。」
A:「ヴァニッシュというのと魔獣に組する者は、
同じでいいんですか?」
C:「たぶん、そうなんじゃないですかね。
同じような団体が複数あっても意味が無いですし、、、。
目的が同じなら一緒に行動すべきですよね。」
A:「たしかに。」




