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魔獣の壺 - 本編 -  作者: 夢之中
英雄の誓い
32/99

魔獣に組する者

5人は、次の遺跡に移動するため、ズールの屋敷へと戻った。

そこに、ジェイルの家の執事、ポールが待っていた。


ポール:「ジェイル坊ちゃま。」

ジェイル:「おぉ、ポール、一体何事だ?」

ポール:「実は、お耳に入れたい話が、、、。」

ポールがジェイルに耳打ちしようとしたが、

ジェイルがそれを止めた。

ジェイル:「この場で言ってもいいぞ。

     彼等は仲間だ。

     隠し事は不要。」

ポール:「分かりました。」


一呼吸おくとポールが話し始めた。


ポール:「ハルバー男爵様の屋敷が火災により全焼しました。」

ジェイル:「なんだと。

     男爵は無事なのか?」

ポール:「情報を集めているところですが、

    今のところ生死は不明です。」

ジェイル:「そうか。

     研究資料はどうなった?」

ポール:「あの火事では、全て焼失した可能性が高いと、、、。」

ジェイル:「くそ。

     火災の原因はいったい何なのだ?」

ポール:「出火場所は、研究室らしいのですが、

    火のあるところでは無いと考えられます。」

ジェイル:「んー。

     どういうことだ、、、。

     成功したのか?

     いや、そうではないだろうな。

     まさか、奴等か?」

ジェイルが何かを考え始めた。


しばらくの間、沈黙があったが、パインが堪えきれなくなり

ポールに質問した。

パイン:「ポールさん、申し訳ないですが、

    話が見えないのですが、、、。

    ハルバー男爵というのは、一体誰なのですか?」

ポール:「ハルバー男爵様は、

    ジェイル様の遠縁に当たる方です。

    主に精霊の研究を行っていました。

    そして同時に古代魔法の研究も行っていました。」

サール:「なるほど、古代魔法の研究者だったのですか。」

パイン:「古代魔法っていうのは?」

サール:「神との対話というのを聞いたことありませんか?」

パイン:「あぁ、それなら聞いたことがある。

    今では使える者もいないといわれている神聖魔法

    だったよな。」

サール:「えぇ、そうです。

    それが、古代魔法の一つです。

    現在、確認されている古代魔法は、

    神との対話、

    灼熱の旋風、

    霧氷の風、

    雷神の矛になります。」

パイン:「へー、そんなのがあるのか。」

サール:「シヴァとの戦いを思い出してください。

    あの時に最初の攻撃、たぶんあれが、

    霧氷の風だと思われます。」

パイン:「あぁ、あれか。

    魔法障壁がなかったら、今頃どうなってたか、、、。」

パインは、それを思い出すと身体が震えるのを感じた。


サール:「古代魔法は無音部分が存在するため、

    人間では発声できないと言われているのです。」

パイン:「無音部分?」

サール:「えぇ、人間には音として聞こえないのですが、

    実際は音として存在している部分です。

    聞こえない音を発声することは出来ませんよね。」

パイン:「まあ、それはそうだな。」

サール:「古い書物には、古代魔法が載っています。

    魔法文字としては、分かっているのですが、

    その音を知る者がいないため、使えないのです。

    その音を知る方法を研究しているのが

    古代魔法研究なのです。」

パイン:「なるほどね。

    しかし、どうやって音を見つけるというんだ?」

サール:「音と言うのは、振動なんですよ。

    たとえば、紙の上に砂鉄を乗せて、

    下から音をぶつけます。

    そうすると砂鉄が音によって様々な模様に変化します。

    これから音を見るのです。

    そして、その音と同じになるように発声するのですが、

    いままで成功した人はいないところから考えると

    発声は不可能ということでしょうね。

    そして、今のところの最有力の方法は、

    記憶の魔法陣ですね。」

パイン:「なるほど、記憶の魔法陣に残して、

    そこから巻物を起すというわけか。」

サール:「その通りですが、巻物では魔力が足りないでしょうね。

    古代魔法がどれだけ魔力を必要とするのか

    分からないですが、巻物では不可能でしょう。」

パイン:「ところで、記録する古代魔法は誰が唱えるんだ?」

サール:「それは、精霊ですよ。」

パイン:「なるほど、精霊か、、、。」

サール:「そう、精霊を呼び出して、唱えてもらうんです。

    しかし、古代魔法を唱えられる精霊はまだ見つかって

    いません。

    いや、これは少し言い方がおかしかったですね。

    見つかっていないのではなく、

    唱えられる精霊が判らなくなったが正しいですね。

    遥か昔には、その精霊が何なのかが判っていた。

    しかし、その記録がないんです。

    そのため、いまは試行錯誤の連続みたいです。

    呼び出す事自体が難問なんですよ。」

その時、ちょっとした沈黙が起こった。

パイン、サール:「!!」

2人はここまで会話して、ジェイルが考えている事を理解した。


パイン:「ジェイル。」

ジェイル:「なんだ?」

パイン:「もしかして、ハルバー男爵が、

    灼熱の疾風を唱えたか、唱えさせたことによって、

    火災になったと考えているのか?」

ジェイル:「あぁ、そうだ。

     ハルバーは、灼熱の旋風を研究していたんだ。

     人間には一番やりやすいと思われているからな。

     この火災を単純に考えた場合は、

     古代魔法を唱えられる精霊の呼び出しに成功し、

     精霊との契約に成功した。

     そして、古代魔法を唱えてもらい、火災になった。

     というところだろうな。」

サール:「しかし、それをやるなら、魔法障壁で囲んだ部屋や

    別の空間で実行するのが普通だと思うのですが。」

ジェイル:「私が悩んでいるのも、そこなんだ。

     どう考えても、研究室でやるとは思えない。

     ハルバーの研究を阻止しようとする何者かが

     動いた可能性の方が高そうだとな、、、。」

パイン:「阻止しようとする何者かって、誰のことだ?」

ジェイル:「研究は大詰めまで来ていたと聞いていたんだ。

     そして、何者かに襲われる事件が頻発し始めたとも。

     そう、シヴァとの戦いの後からだ。

     あの時、ハルバーもあそこにいた。

     シヴァの唱える古代魔法を記録していたんだ。

     たぶんその記録から何かのヒントを得たんだろう。

     それを奴等に嗅ぎつかれた。

     そして、襲われた。」

パイン:「そいつらって、まさかアリスを狙っている奴らと

    同じなのか?」

ジェイル:「その可能性は高いだろうな。

     魔獣に組する者。

     私はそう呼んでいる。」

パイン:「魔獣に組する者、、、。」

ジェイル:「あぁ、そうだ。

     ほとんどの人は、極端に善あるいは悪に偏ったり

     しないんだが、中には極端に偏る人がいる。

     そう、極端に悪に偏る人達がいるんだ。

     魔獣自体は、破壊が目的だろうから、仲間という

     わけではないだろうが、その目的に賛同する人間が

     いるということだ。」

パイン:「まさか、、、。人を滅ぼそうとしている魔獣に

    味方するというのか?」

ジェイル:「あぁ、そうだな。

     今の人のあり方に疑問をもち、再生するために

     一度滅びるべきと考える人もいるんだ。」

パイン:「確かに悪いやつも多い、しかし良い人だって多いはず、

    それを纏めて滅ぼすというのか?

    俺には理解できない。」

ジェイル:「あぁ、そうだな、しかしそう考える者もいるんだ。

     そういう奴等が魔獣王を復活させたのではないかと

     思っている。

     そして、魔獣王を倒せる力を持つ者、あるいは、

     その可能性を持つ者を襲っていると、、、。」

パイン:「だとしたら、古代魔法には魔獣王を倒すだけの力が

    あるということか?」

ジェイル:「そうとも限らないだろう。

     ただ、脅威になる可能性を秘めているというところ

     だろうな。

     我々が、どこまで真実に近づいているのか

     分からないが、このまま魔獣王を倒す道の模索を

     続ければ、アリスだけではなく他の者も襲われる

     可能性が高くなってゆくことは間違いないだろう。」

パイン:「確かにそうだな、気を引き締める必要があるな。」


パインは魔獣以外にも敵が存在することを

改めて心に刻み込んだ。

そして、魔獣に組する者とはいえ、

人と争うことに疑問も感じていた。


パイン:「ところで、古代魔法の件は調べなくてもいいのか?」

ジェイル:「いや、やめておこう。

     古代魔法が使えるようになるとは思えない。

     サールもそう思うよな?」

サール:「そうですね。

    無音部分が分かったとしても、発声できなければ

    意味がありませんし、私に出来るとも思えません。

    これ以上問題を増やすのも考え物です。」

パイン:「確かにそうだよな。

    下手に動いて、襲われるのは御免被りたいな。」

ジェイル:「この件に関しては、我々ではなく、別途調査

     させるとしよう。

     我々は、メダルに集中するほうがよさそうだな。」


ジェイルは、ポールにハルバー男爵の安否確認、火災の原因調査

古代魔法の研究についての調査指示を出した。

そして、次の遺跡へ飛ぶ準備を行うと、その転移の魔法陣へと

向かった。


C:「魔獣に組する者だって、、、。」

A:「えぇ、悪の組織みたいなものですかね?」

C:「そうですね、

  話しの流れからすると、

  かなり昔から存在していたんでしょね。」

A:「ですよね。

  彼等が色々と知っているということもなんとなく判ります。

  もし、ですよ。魔獣王復活が彼等の仕業だとしたら、

  魔獣王を倒したとしても、また復活させる可能性もある

  ということですかね?」

C:「可能性はありますが、前回の魔獣王との戦いがかなり古い

  ようなので、たぶん復活には時間がかかるのでは?」

A:「あぁ、それならいいんですが、せっかく倒したのに、

  また復活はやめて下さいよね。」

C:「私もそう思います。」



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