魔獣に組する者
5人は、次の遺跡に移動するため、ズールの屋敷へと戻った。
そこに、ジェイルの家の執事、ポールが待っていた。
ポール:「ジェイル坊ちゃま。」
ジェイル:「おぉ、ポール、一体何事だ?」
ポール:「実は、お耳に入れたい話が、、、。」
ポールがジェイルに耳打ちしようとしたが、
ジェイルがそれを止めた。
ジェイル:「この場で言ってもいいぞ。
彼等は仲間だ。
隠し事は不要。」
ポール:「分かりました。」
一呼吸おくとポールが話し始めた。
ポール:「ハルバー男爵様の屋敷が火災により全焼しました。」
ジェイル:「なんだと。
男爵は無事なのか?」
ポール:「情報を集めているところですが、
今のところ生死は不明です。」
ジェイル:「そうか。
研究資料はどうなった?」
ポール:「あの火事では、全て焼失した可能性が高いと、、、。」
ジェイル:「くそ。
火災の原因はいったい何なのだ?」
ポール:「出火場所は、研究室らしいのですが、
火のあるところでは無いと考えられます。」
ジェイル:「んー。
どういうことだ、、、。
成功したのか?
いや、そうではないだろうな。
まさか、奴等か?」
ジェイルが何かを考え始めた。
しばらくの間、沈黙があったが、パインが堪えきれなくなり
ポールに質問した。
パイン:「ポールさん、申し訳ないですが、
話が見えないのですが、、、。
ハルバー男爵というのは、一体誰なのですか?」
ポール:「ハルバー男爵様は、
ジェイル様の遠縁に当たる方です。
主に精霊の研究を行っていました。
そして同時に古代魔法の研究も行っていました。」
サール:「なるほど、古代魔法の研究者だったのですか。」
パイン:「古代魔法っていうのは?」
サール:「神との対話というのを聞いたことありませんか?」
パイン:「あぁ、それなら聞いたことがある。
今では使える者もいないといわれている神聖魔法
だったよな。」
サール:「えぇ、そうです。
それが、古代魔法の一つです。
現在、確認されている古代魔法は、
神との対話、
灼熱の旋風、
霧氷の風、
雷神の矛になります。」
パイン:「へー、そんなのがあるのか。」
サール:「シヴァとの戦いを思い出してください。
あの時に最初の攻撃、たぶんあれが、
霧氷の風だと思われます。」
パイン:「あぁ、あれか。
魔法障壁がなかったら、今頃どうなってたか、、、。」
パインは、それを思い出すと身体が震えるのを感じた。
サール:「古代魔法は無音部分が存在するため、
人間では発声できないと言われているのです。」
パイン:「無音部分?」
サール:「えぇ、人間には音として聞こえないのですが、
実際は音として存在している部分です。
聞こえない音を発声することは出来ませんよね。」
パイン:「まあ、それはそうだな。」
サール:「古い書物には、古代魔法が載っています。
魔法文字としては、分かっているのですが、
その音を知る者がいないため、使えないのです。
その音を知る方法を研究しているのが
古代魔法研究なのです。」
パイン:「なるほどね。
しかし、どうやって音を見つけるというんだ?」
サール:「音と言うのは、振動なんですよ。
たとえば、紙の上に砂鉄を乗せて、
下から音をぶつけます。
そうすると砂鉄が音によって様々な模様に変化します。
これから音を見るのです。
そして、その音と同じになるように発声するのですが、
いままで成功した人はいないところから考えると
発声は不可能ということでしょうね。
そして、今のところの最有力の方法は、
記憶の魔法陣ですね。」
パイン:「なるほど、記憶の魔法陣に残して、
そこから巻物を起すというわけか。」
サール:「その通りですが、巻物では魔力が足りないでしょうね。
古代魔法がどれだけ魔力を必要とするのか
分からないですが、巻物では不可能でしょう。」
パイン:「ところで、記録する古代魔法は誰が唱えるんだ?」
サール:「それは、精霊ですよ。」
パイン:「なるほど、精霊か、、、。」
サール:「そう、精霊を呼び出して、唱えてもらうんです。
しかし、古代魔法を唱えられる精霊はまだ見つかって
いません。
いや、これは少し言い方がおかしかったですね。
見つかっていないのではなく、
唱えられる精霊が判らなくなったが正しいですね。
遥か昔には、その精霊が何なのかが判っていた。
しかし、その記録がないんです。
そのため、いまは試行錯誤の連続みたいです。
呼び出す事自体が難問なんですよ。」
その時、ちょっとした沈黙が起こった。
パイン、サール:「!!」
2人はここまで会話して、ジェイルが考えている事を理解した。
パイン:「ジェイル。」
ジェイル:「なんだ?」
パイン:「もしかして、ハルバー男爵が、
灼熱の疾風を唱えたか、唱えさせたことによって、
火災になったと考えているのか?」
ジェイル:「あぁ、そうだ。
ハルバーは、灼熱の旋風を研究していたんだ。
人間には一番やりやすいと思われているからな。
この火災を単純に考えた場合は、
古代魔法を唱えられる精霊の呼び出しに成功し、
精霊との契約に成功した。
そして、古代魔法を唱えてもらい、火災になった。
というところだろうな。」
サール:「しかし、それをやるなら、魔法障壁で囲んだ部屋や
別の空間で実行するのが普通だと思うのですが。」
ジェイル:「私が悩んでいるのも、そこなんだ。
どう考えても、研究室でやるとは思えない。
ハルバーの研究を阻止しようとする何者かが
動いた可能性の方が高そうだとな、、、。」
パイン:「阻止しようとする何者かって、誰のことだ?」
ジェイル:「研究は大詰めまで来ていたと聞いていたんだ。
そして、何者かに襲われる事件が頻発し始めたとも。
そう、シヴァとの戦いの後からだ。
あの時、ハルバーもあそこにいた。
シヴァの唱える古代魔法を記録していたんだ。
たぶんその記録から何かのヒントを得たんだろう。
それを奴等に嗅ぎつかれた。
そして、襲われた。」
パイン:「そいつらって、まさかアリスを狙っている奴らと
同じなのか?」
ジェイル:「その可能性は高いだろうな。
魔獣に組する者。
私はそう呼んでいる。」
パイン:「魔獣に組する者、、、。」
ジェイル:「あぁ、そうだ。
ほとんどの人は、極端に善あるいは悪に偏ったり
しないんだが、中には極端に偏る人がいる。
そう、極端に悪に偏る人達がいるんだ。
魔獣自体は、破壊が目的だろうから、仲間という
わけではないだろうが、その目的に賛同する人間が
いるということだ。」
パイン:「まさか、、、。人を滅ぼそうとしている魔獣に
味方するというのか?」
ジェイル:「あぁ、そうだな。
今の人のあり方に疑問をもち、再生するために
一度滅びるべきと考える人もいるんだ。」
パイン:「確かに悪いやつも多い、しかし良い人だって多いはず、
それを纏めて滅ぼすというのか?
俺には理解できない。」
ジェイル:「あぁ、そうだな、しかしそう考える者もいるんだ。
そういう奴等が魔獣王を復活させたのではないかと
思っている。
そして、魔獣王を倒せる力を持つ者、あるいは、
その可能性を持つ者を襲っていると、、、。」
パイン:「だとしたら、古代魔法には魔獣王を倒すだけの力が
あるということか?」
ジェイル:「そうとも限らないだろう。
ただ、脅威になる可能性を秘めているというところ
だろうな。
我々が、どこまで真実に近づいているのか
分からないが、このまま魔獣王を倒す道の模索を
続ければ、アリスだけではなく他の者も襲われる
可能性が高くなってゆくことは間違いないだろう。」
パイン:「確かにそうだな、気を引き締める必要があるな。」
パインは魔獣以外にも敵が存在することを
改めて心に刻み込んだ。
そして、魔獣に組する者とはいえ、
人と争うことに疑問も感じていた。
パイン:「ところで、古代魔法の件は調べなくてもいいのか?」
ジェイル:「いや、やめておこう。
古代魔法が使えるようになるとは思えない。
サールもそう思うよな?」
サール:「そうですね。
無音部分が分かったとしても、発声できなければ
意味がありませんし、私に出来るとも思えません。
これ以上問題を増やすのも考え物です。」
パイン:「確かにそうだよな。
下手に動いて、襲われるのは御免被りたいな。」
ジェイル:「この件に関しては、我々ではなく、別途調査
させるとしよう。
我々は、メダルに集中するほうがよさそうだな。」
ジェイルは、ポールにハルバー男爵の安否確認、火災の原因調査
古代魔法の研究についての調査指示を出した。
そして、次の遺跡へ飛ぶ準備を行うと、その転移の魔法陣へと
向かった。
C:「魔獣に組する者だって、、、。」
A:「えぇ、悪の組織みたいなものですかね?」
C:「そうですね、
話しの流れからすると、
かなり昔から存在していたんでしょね。」
A:「ですよね。
彼等が色々と知っているということもなんとなく判ります。
もし、ですよ。魔獣王復活が彼等の仕業だとしたら、
魔獣王を倒したとしても、また復活させる可能性もある
ということですかね?」
C:「可能性はありますが、前回の魔獣王との戦いがかなり古い
ようなので、たぶん復活には時間がかかるのでは?」
A:「あぁ、それならいいんですが、せっかく倒したのに、
また復活はやめて下さいよね。」
C:「私もそう思います。」




