初めての戦闘
これまでのあらすじ)
魔獣王討伐隊に参加することを夢見て、
試験会場のあるカイン王国へとやってきたパイン。
ひょんなことからアリスと知り合い、
予備試験に向けてパーティーを組むことになった。
2人を監視する謎の人物。
2人は予備試験に合格できるのだろうか?
2人は、しばらくの間パーティー会話を楽しんでいた。
「パイン様、アリス様、受付までおいで下さい。」
楽しい会話は呼び出しで中断された。
受付へ向かうと、受付嬢が笑顔で言った。
受付嬢:「パイン様とアリス様ですね。
これより、予備試験を行います。
そちらにいる係りの者についていってください。」
横を見ると見るからにゴリラ顔の厳つい男が立っていた。
アリス:((この人サル顔だ。))
パイン:((そんなこと口に出して言うんじゃないぞ。))
アリス:((はーい。))
この時、パインはアリスは天然かもしれないなと思った。
係員:「お二人の担当をします。
サールと申します。」
パイン:「えっ、サル?、ぷっ、、、」
パインは、思わず吹き出してしまった。
アリス:((こらこら。))
サール:「サルではありません。サールです。
こちらにおいで下さい。」
パインは、笑いをこらえるのに必死だった。
アリスはパインを見るとクスクスと笑いながら答えた。
アリス:「はい。」
そして、2人はある部屋に案内された。
その部屋は、真ん中に魔法陣が描かれており、
左側と奥側に扉が1つづつあった。
サール:「左側の扉が更衣室になります。
その部屋にある装備に着替えて下さい。
着替え終わりましたら、
この部屋で、しばらくお待ち下さい。」
そう言うとサールは部屋を出て行った。
アリス:((サルじゃなくて、サールなんだね。))
パインはついにこらえきれなくなり、大声で笑い出した。
アリスが追い討ちをかける。
アリス:((サル、サル、サール。))
パインはつぼに入ってしまったのか、腹を抱えて笑い出した。
パイン:「はっ、腹が、、、いっ、痛い、、、。」
アリス:「先に着替えてくるね。見ちゃだめだよ。」
そう念を押すと、更衣室に入って行く。
しばらくすると、アリスが着替えを済ませ戻ってきた。
薄いローブを羽織っていた。
パインは落ち着いたのか、何回か深呼吸すると
パイン:「もう大丈夫だ。」
と言いい、更衣室へと入っていった。
更衣室は思っていた以上に狭かった。
2m四方ぐらいだろうか?
入ってきた扉と反対にもう一つ扉があった。
右の壁には2段の棚があり、各段に3個づつ籠が置かれていた。
籠の中を見ると、装備が入っていた。
パイン:(これに着替えろということだろうな。)
パインがそれに着替えると思った。
パイン:(まるで、紙装備だな、これで戦うのか。)
一緒に置かれていた剣を取ると、何回か振る。
かなり軽い武器だ。
ふと、横の籠を見ると、アリスが着ていた服が見えた。
そのとき、突然頭の中に声が聞こえた。
アリス:((私の服にいたずらするなよ。))
パイン:((そんなこと、するか!!))
パインは、着ていた服を籠に入れると部屋をでた。
丁度その時、サールが入ってきた。
パインはサールの顔を極力見ないようにしていた。
アリスはそれを見ると、クスクスと笑った。
サール:「お待たせしました。これより予備試験を行います。
これから飛ばされる場所の最深部に魔獣の壺が
あります。
壺の傍に魔獣がいますので、それを倒して
壺に蓋をしてください。
そして壺の横にあるメダルを回収した上で、
帰還の巻物を使って帰還してください。
なお、今回の試験は対処方法がメインとなります。
お二方はパーティーのため、アイテムの持込は禁止
となります。
以上で説明を終わりますが、なにか質問はありますか?」
パインは下を向いたまま答えた。
パイン:「ありません。」
サールは帰還の巻物をパインに渡すと言った。
サール:「それでは、真ん中の魔法陣に立って下さい。」
2人はそれに従う。
サールがなにか呪文を唱えると、突然目の前が真っ暗になった。
そして、周りが見えるようになると、そこは別の場所だった。
辺りを見回すと、そこはかなり広い空間だった。
下を見ると魔法陣が描かれていた。
上を見上げると空が見えた。
パイン:((穴の底なのか?))
アリス:((そうみたいだね。))
そして真正面をみると、犬ぐらいの大きさのうねうねと動く、
ゼリー状の丸い物体が数個うごめいていた。
パイン:((あれが、スライムというやつか?))
アリス:((えっ、スライムって、もっとかわいくない?
ポスターに描かれていたのはもっとかわいかったよ。))
パインは思い出した。
それは傭兵試験のポスターだ。
片方の拳を突き上げた6人の女性兵士達の横に小さく描かれていた。
それは青色をしたマカロンの上にちょんと角のようなものがあり
クリットした両目をもった絵だった。
パイン:((いや、あれがスライムだろう。))
やや緑色をした半透明のゼリーのような物体。
ところどころから触手のように出た腕のようなものが、
出たり引っ込んだりと、思いのほか早い動きをしていた。
その中心には他と明らかに違う色の濃い部分があった。
パイン:((あの真ん中の色の濃い部分、
たぶんあそこが急所だろう。
ところで、アリスは癒し系は何ができるんだ?))
アリス:((えーとね、まだ癒しの加護のみかな。))
癒しの加護は、肉体の再生能力を極限まで高めることによって、
小さな傷ならば、瞬時に再生できるというものだ。
しかも、その効果はしばらく続く。
パイン:((そうか、わかった。
それなら、癒しの加護で援護を頼む。))
アリス:((はーい。))
そう言うとパインは、剣を上段に構えスライムに突進した。
アリスもそれに続く。
スライムの近くまで来ると、上段に構えた剣を振り下ろす。
同時にアリスが癒しの加護を祈り始めた。
ゼリー状の物体に当たったが、その中心に届く前に止まった。
パインは剣を抜こうとしたが、抜けなかった。
見ると、そのゼリー状の物体はゆっくりと剣を包み込んでいく。
まずいと思い、全体重をかけて引っ張る。
剣がするっと抜ける。
パインは後ろ向きにごろごろと転がった。
パイン:((イテテ、、、やるな、こいつ。))
丁度その時、アリスの祈りが完了した。
パインの痛みがすっと引いていく。
スライムがゆっくりと近づいてくる。
パインは起き上がると、剣を構えスライムに向かう。
そして剣を横に振る。
しかし剣はスライムの中心に届かなかった。
そして、また剣を取り込まれそうになると、剣を引き抜き
同じようにごろごろと転がった。
このような状況が数回続いたとき、頭の中にアリスの声が
聞こえた。
アリス:((突いたらダメなのかな?))
パインは、ハッとした。
そして、スライムに近づくとその中心に向けて剣を突き刺した。
剣はすっとスライムに入って行く、そしてその中心に到達した。
スライムは急にその動きが遅くなると動かなくなった。
アリス:「やったね、パイン!!」
パイン:「まかせろ、俺にかかれば楽勝さ、、、。」
そう言ったあと、パインは今のは言うんじゃなかったと
後悔した。
アリスは動かなくなったスライムに近づくと、武器の棍棒で、
スライムとツンツンとつついた。
アリス:((動かないね。大丈夫そうだね。))
棍棒の先に粘着性の物質が付着して、糸を引いている。
アリス:「これ、べとべとする。」
アリスがパインを見ると、そのところどころにその物質が
付着していた。
アリス:「うぁー、パイン、汚い。」
パインは剣を何回か振ると、周りに飛び散った。
アリス:「キャー!!」
アリスが逃げ回る。
アリス:「こっちに向けて振らないでよ。」
パイン:「すまん、すまん。」
そう言ったとき、目線の先に2匹のスライムが近づいてくるのが
見えた。
パイン:((次の敵だ。))
アリス:((はーい。))
そう言って剣を構えると、スライムに近づいた。
倒し方さえ分かれば、スライムは敵ではなかった。
2匹のスライムを倒すと、さらに奥へと進んで行った。
このあと、3匹のスライムを倒しながら少し進んだ。
そして、台座の上に1つの壺が置かれているのが見えた。
その横に犬のような顔をした子供ぐらいの大きさの化け物が
立っていた。
2人の顔が真剣になる。
パイン:((あれが、魔獣か?))
アリス:((そうみたいね。
パンフレットに描かれていたのは、
もっとかわいかったけどね。))
パイン:((スライムより手強そうだな。
援護を頼む。))
アリス:((分かった。))
2人は、魔獣に向かってゆっくりと近づいて行った。
ある距離まで近づくと魔獣はうなり声を上げ突進してきた。
アリスの祈りが始まる。
魔獣は飛び上がりながら右手を振り上げると
パインに向けて一撃を放った。
パインは剣でそれを受け止めると、蹴りを放った。
魔獣の腹にヒットする。
魔獣は後方へ飛ばされ、1回転すると着地した。
そして、1回吼えると、アリスに向かって突進した。
アリスは祈りの最中だった。
パインは、アリスと魔獣の間に入り、剣を構えた。
魔獣は、突進をやめて吼える。
同時にアリスの祈りが完了する。
魔獣は、再びパインを目標にすると、突進して飛び掛ってきた。
パインはそれを剣で受け止める。
また蹴りを入れようとしたが、魔獣はすぐに後ろに飛んだ。
このような攻防が数回繰り返された。
パイン:((攻撃にパターンがあるみたいだな。))
アリス:((そうみたいね。))
パイン:((よし、次の敵の攻撃で決めるぞ。))
アリス:((わかった。))
パインは魔獣に向かって突進し、剣を横になぎ払う。
魔獣が後方へ飛ぶ。
ゆっくりと魔獣に近づく、魔獣は後方へと下がろうとしたが、
後ろに壁があり下がれない。
魔獣は一回吼えると、飛び掛ってきた。
パインは素早く着地点に移動すると、上に向かって
剣を突き出した。
魔獣はその剣に貫かれ、1回低く吼えると動かなくなった。
2人共、無言だった。
アリスは壺に近づくと辺りを見回した。
壺の横に蓋とメダルが置かれていた。
アリス:((これが蓋ね。しばらく経つとまた沸くみたいだから、
さっさと蓋をしちゃいましょう。))
そう言うと蓋を手に取りしっかりと蓋をした。
パインは剣を収め、メダルを手に取った。
パイン:((これがメダルか。
さて、それじゃあ戻ろうか。))
アリス:((うん、早く戻ろう。
疲れた。))
パインは帰還の巻物の紐を解き巻物を開くと、
途端に目の前が真っ暗になった。
再び、見えるようになった時には部屋の中だった。
目下には魔法陣が描かれていた。
そして目の前の壁に扉が1つあった。
突然扉が開いた。
入ってきたのはサールだった。
サール:「お疲れ様でした。メダルは回収できましたか?」
パインが無言でメダル差し出す。
サールはそれを手に取ると表と裏をしげしげと眺めた。
サール:「はい、結構です。
更衣室の奥で、体を洗えます。
着替えたあとで、受付に戻って下さい。
今着ている装備は籠に入れておいて下さい。」
そう言うとサールは部屋を出て行ってしまった。
2人は体を洗い、着替えると受付へと向かった。
受付嬢:「お疲れ様でした。予備試験は合格となります。
なお、本試験は明日になります。
これが宿泊カードで、部屋は2階にあります。
扉に宿泊カードと同じ番号が書かれていますので、
その部屋をお使いください。」
そう言って、カードを渡された。
渡されたカードには、207番と書かれていた。
アリスは、208番のカードだった。
2人は階段を上がり2階へ向かうと番号の部屋に入った。
そしてベットに横になると、すぐに眠ってしまった。
こうして、2人の初めての戦闘が終わった。