初めてのパーティー
パインはクライム王国の武器商人の家に生まれ、
幼い頃から剣に触れ、そして物心付くときには、
聖騎士を夢見ていた。
そして、魔獣王討伐隊に志願することを、、、。
連合暦20年3月15日、
パインはカイン王国の傭兵試験の会場前にいた。
入口の柱には傭兵試験のポスターが張られていた。
ポスターには、片方の拳を突き上げた6人の女性兵士達と共に
「明日から君も勇者だ!!
魔獣王討伐に参加しよう!!」
と書かれていた。
パインはクライム国で傭兵試験のポスターを見て、
参加を決意していたのだった。
あたりを見回すと、そこは沢山の人で溢れかえっていた。
パイン:「傭兵になりたいやつってこんなにいるのかよ。」
ポスターを見たときは、人材に困っているのだろうと思い、
直ぐに傭兵になれるのではないと考えていた。
しかし、どうやら甘かったようだと考え直したのだった。
パインが試験を受けるため順番を待っていると、
後ろから声がした。
???:「ちょっといいですか?」
後ろを向くと、丸めがねをかけた少女が立っていた。
パイン:(おっ、かわいい。)
パインは真顔になるとすぐに答えた。
パイン:「なんでしょうか?お嬢さん。」
???:「あのー」
少女は、少しむっとした顔をしながら下を指差している。
下を見ると、その女性のかばんの紐を踏んでいた。
パイン:「あっ、すみません。」
パインは飛び上がるように、かばんの紐から足をずらした。
その女性はかばんを持ち上げると、パインが踏んでいた部分を
ぱたぱたとはたきながら言った。
???:「あなたも傭兵試験を受けに来たんですよね?」
パイン:(ん?変な質問するな、傭兵試験以外でここに来る
ことってあるんだろうか?)
パイン:「そうですけど、、、」
???:「私も試験を受けに来たんですが、、、」
パイン:「そうですか、それで、なんでしょう?」
???:「履歴書をださないといけないんですよ。」
パイン:「ええ、そうですね、それで?」
???:「実はまだ、履歴書を書いてないんですよ。」
パイン:「はい?」
???:「あのー、書くものを貸してほしいのですが、、、」
パイン:「ああ、それならそうと最初に言ってくださいよ。
それに、書くものなら受付にありますよ。」
???:「えっ、そうだったんですか、ありがとうございました。」
パイン:「いえいえ、どういたしまして。」
彼女は、ぺこっと頭を下げると、受付に向かっていった。
パイン:(なんなんだこの子は?)
そんなことを考えながら順番を待っていた。
しばらくすると、背中をつつかれる感覚があった。
後ろを振り向くと、彼女がにこにこしながら話しかけてきた。
???:「あのーっ」
パイン:「はい?
今度はなんでしょうか?」
パインは少しイライラしながら答えた。
彼女は無言のまま右手を差し出した。
その手の上には、1個の飴が乗っていた。
パイン:(くれるってことなのかな?)
パインは、「ありがとう」というと飴を取り、口に放り込んだ。
???:「あっ、、、それ、消しゴム、、、」
パイン:「えっ?」
パインはそれを吐き出し、むっとした顔をしたが、
よく考えてみると自分の早とちりだと気がついた。
そして、なぜか笑いが込み上げてきた。
パインは、笑いながら尋ねた。
パイン:「君、名前は?」
彼女は少し真剣な顔になると、
???:「名前を尋ねるときは、自分から先に名乗るように
お母さんから習わなかったんですか?」
と言った。
パイン:「ごめん、ごめん、俺はパイン。
パイン・シュナイダー。
君は?」
???:「私は、アリス」
パイン:「後ろの名はなんていうんだい?」
この世界の名前は、個人名+家族名からなっていた。
パインは家族名を聞いたことになる。
アリス:「んー、たぶん言っても覚えられないと思うし、、、」
パイン:「そんなことないよ、物覚えはいいほうなんだ。」
アリス:「そうなんだ。じゃあ、、、」
そう言うと、アリスは息を吸い込んで一気に言った。
アリス:「アリス・シュトロメンガイアルツッバウトフォン
アルファウムディバインシュルトスです。」
パイン:「・・・。」
アリス:「アリスでいいですよ、パイン・シュナイダーさん。」
これが、この後運命を共にする女性、アリスとの出会いだった。
この後、2人はこれから数奇な運命をたどることになる。
受付を無事済ませた2人は次の予備試験までの時間を潰していた。
アリス:「あのー」
アリスが神妙な顔つきで話しかけてきた。
パイン:「アリスさん、なんですか?」
アリス:「予備試験、本試験とありますよね?」
パイン:「何を言いたいのか、分からないですが。
ストレートに言っちゃってもいいですよ。」
アリス:「そうですか。じゃあ、付き合ってください。」
パイン:「えっ?付き合うって、、、」
パイン:(まさか、こんな突然に告白されるとは、、、)
パインは照れながら答えた。
パイン:「俺でよかったら、よろしくお願いします。」
そして、右手を差し出した。
アリスは、その手を両手で握ると、飛び上がって喜んだ。
アリス:「よかった。神聖魔導士は補助者が必要なんですよ。」
パイン:「えっ?」
パインはすぐに右手を引っ込めると、頭を掻きながら、
パイン:「いえいえ、当然のことですよ。」
と答えた。
アリスは、パインを連れて受付へと向かい、
パインが補助者だと告げた。
係員:「そちらの方は受験者の方ですよね?」
パイン:「そうです。」
係員:「そうですか。でしたら、パーティーを組まないと
いけないですね。
こちらへおいで下さい。」
そしてカウンターの奥の部屋へと入っていく。
2人は、係員に続いて部屋に入った。
その時、2人をじっと見つめる男の存在に
2人は気が付いてはいなかった。
部屋の真ん中には、魔法陣が描かれていた。
係員:「それではパーティーについて説明します。
パーティーは一緒に行動する仲間の絆を強化します。
パーティーの術式を行ない、同じパーティーになると
言葉にしなくても相手の意思が分かるようになります。
相手の名前を思い描きながら話す内容を考えて下さい。
あと、相手の所在地が分かるようになります。
最後に、これが一番重要なのですが、
神聖魔法の効果や転移の呪文などをパーティー全体に
かけることができます。
アリスさん、あなたは神聖魔導士なので分かると思う
のですが、癒しの祈りを行う場合、その人のことを強く
思いますよね?」
アリス:「はい」
係員:「その時に、人ではなくパーティー全体を思って下さい。
そうすれば、癒しの祈りはパーティー全体になります。
ただし、一人の場合よりも効果が少ないことを忘れないで
ください。
なお、思考の伝達もパーティー全体に可能です。
以上がパーティーの説明です。
なにかご質問はありますか?」
アリス:「いえ、ありません。」
係員:「それでは、パーティーの術式を行いますので、
魔法陣の中にお立ち下さい。」
2人は魔法陣の中へと進んだ。
係員:「よろしいですか?」
パイン、アリス:「はい」
係員:「それでは始めます。」
そう言うと係員がなにかの呪文を唱えだす。
次の瞬間、魔法陣が光りだす。
パイン:(体が熱くなってきた。)
アリス:(ぽかぽかする。)
呪文の詠唱が終わったとき、パインは右側に、
アリスは左側に気配を感じた。
係員:「パーティーの術式は終了しました。
お互いの位置は分かりますか?」
パイン:「アリスのいる方向に何かいるという気配を感じます。」
アリス:「わたしも同じです。」
係員:「それが相手の位置です。
その気配は、人によって感じ方が異なります。
それを覚えておくと誰がどの位置にいるかが瞬時に
分かるようになりますよ。」
2人は気配を再確認すると、それが相手の気配だと
覚えるように努力した。
係員:「それでは、癒しの祈りを試してみましょう。
アリスさん、癒し系の祈りをパーティー全体でやってみて
下さい。」
アリス:「はい」
そう言うとアリスは祈り始めた。
しばらくすると、パインとアリスはその効果が現れたのを実感
した。
パイン:「癒しの効果が現れています。」
アリス:「私も感じます。」
係員:「はい、これで、パーティーの術式は終わりです。
なお、パーティーの結成・解散は、各地にある傭兵協会で
行うことが出来ますのでご利用ください。
今回は試験代金に含まれていますので無料になります。」
パイン:((通常はお金を取られるのか、、、))
アリス:((そうだね。))
パインは、はっとした。
パイン:(なるほど、注意しないと思ったことが聞こえるのか。)
2人は部屋を出ると、しばらくの間パーティー会話を楽しんだ。
こうしてパインとアリスの初めてのパーティーが結成された。