初めてのお使い2
4人は、傭兵協会でポールをパーティーに加えると、
その足で、ジェイルの屋敷へと向かった。
そして、ジェイルの屋敷から転移の魔法陣を使い、
ズールの屋敷の近くへと移動した。
そこで、パインが最初に見たものは、墓だった。
それも、見渡す限りの墓、墓、墓、、、。
それは、巨大な墓地だった。
その墓地の真ん中にそれはあった。
昼間にも関わらず、人を拒むかのような異様な雰囲気を
感じないわけにはいかなかった。
ただ1人、アリスを除いては、、、。
パイン:((あれが、ズールの屋敷なのか?))
ポール:((はい、その通りでございます。))
サール:((・・・。))
アリス:((うぁー。まるで、お化け屋敷って感じ、、、。))
アリスは、墓地の中に屋敷を建てたのか、
それとも、屋敷を建てた後に墓地を造ったのか、
そんな疑問が頭の中をよぎった。
ポール:((まずは、屋敷の玄関まで参りましょう。))
パイン、サール:((はい。))
アリス:((はーい。))
屋敷に近づくにしたがって、屋敷の全貌が明らかになってゆく。
壁はびっしりとシダと思われる植物で覆われていた。
窓には外側から木の板が打ち付けられており、
さらに魔法陣が描かれていた。
しかし、100年以上前に建てられたにも関わらず、
壊れたり、崩れたりしている箇所が見当たらず、
それが更なる不気味さをかもし出していた。
玄関に到着すると、ポールが言った。
ポール:((無感霊銀をお渡ししますが、
これの効果はおよそ2時間でございます。
効果が現れると、パーティーメンバーの気配が
消えますので、確認後に入りましょう。))
各自に小さなビンが配られ、4人同時に飲んだ。
ポール:((・・・。))
サール:((うっ。))
パイン:((うげっ。))
アリス:((うぁ、まっず。))
ポールを除く3人は舌を出すと、この上なく嫌そうな顔をした。
残り時間2:00
ポール:((皆様、パーティーメンバーの気配の確認を
お願いいたします。))
3人は、気配を感じなくなったことを報告した。
ポール:((薬の効果が現れたようですね。
それでは、入りましょう。))
そう言うと、ポールはドアを開けた。
「ぎいぃーーっ。」という音と共にゆっくりと扉が開いた。
残り時間1:59
扉が開くと冷たい空気が4人を包んだ。
まるで巨大な死者の手で身体をつかまれたような感じがした。
ゆっくりと中へ入る。
玄関ホールは、薄暗かったが決して真っ暗ではなかった。
特に外の光が入っているというわけでもなかったし、
照明の類があるわけでもなかった。
ただ、全体的に薄暗いという感じだった。
それが、さらに恐怖を煽った。
サールが光の魔法を唱え始めたが、ポールがそれを制止した。
ポール:((ダメです。
死者は光に反応します。
光に向かって攻撃を加え、消そうとするでしょう。))
サール:((そうですか。
しょうがないですね。見えないわけではないので、
このまま進みますか。))
パイン:((そうだな。))
アリス:((まさに、お化け屋敷って感じだね、、、。))
3人を他所にアリスだけがその雰囲気を楽しんでいた。
その時、入り口の扉が「バタン!!」と閉まった。
パインとサールがビクッと身体を震わせ、入り口の方を見る。
パイン:((うぁ、びっくりした。))
サール:((えぇ、びっくりしました。))
アリス:((そう?))
パイン:((アリス、怖くないのか?))
アリス:((なんで?
薬飲んだから、襲われること無いよね?))
パイン:((確かに、そうなんだけど、、、。))
残り時間1:58
周りを探索すると、玄関ホールの右側にのみ扉があった。
屋敷の構造としては納得がいかなかったが、
壁が移動するという情報があったためそう考えることにした。
4人がその扉の前に集まると、パインがノブに手をかけた。
そのとき、右肩をポンと叩かれた。
パイン:「うぁっ。」
パインの身体がビクッと跳ねる。
そして、右側を見ようと首を回す。
右頬に何かが当たった。
よく見ると、指だった。
そして、指の先を目で追うと、アリスが笑っていた。
アリス:((プッ、パイン、怖がりすぎ、、、。))
呆れ顔でパインが言った。
パイン:((こんな状況で遊ぶな、、、。))
残り時間1:53
扉は苦も無く開いた。
そこは廊下と思われる通路だった。
壁には油絵と思われる絵画が飾られており、
反対側の壁には複数の窓があるものの、
板で打ち付けられていた。
廊下は真っ直ぐに進み、左に曲がっているようだった。
その突き当たりの所に、白っぽい何かががあった。
突然それが、カチャカチャと音を立てて浮かび上がった。
そして、骨格標本のように形作られた。
パインは、とっさに剣を構えた。
ポール:((パイン様、あれは我々を認識しておりません。))
パイン:((あぁ、そうだった。))
そして、剣を降ろす。
アリス:((あれ、なに?
人の骨みたいだけど、、、。))
サール:((スケルトンですね。))
アリス:((へー、おもしろいね、
あんなのがいるんだ、、、。))
アリスは1人で、スケルトンに近づき、
興味津々という感じで眺めていた。
しばらく、それの様子を見ていると、
カチャカチャと音を立てながら、
パインのいる方へと移動し始めた。
アリスもルンルンしながら、その後ろに続く。
一方、パインは硬直してそれを見ていた。
スケルトンがしだいにパインに近づく。
パインとスケルトンの距離に比例して
パインの顔が歪んでゆくのが分かった。
そして、スケルトンがパインにぶつかると、
ガラガラと崩れて骨の山になった。
アリスがパインを見ると、その顔は恐怖に歪んでいた。
アリスは、ニヤニヤと笑いながら言った。
アリス:((もしかして、パインって、
幽霊とか苦手なのかなー?))
パインは悔しそうな顔で答えた。
パイン:((悪かったな、、、。))
残り時間1:49
通路を進み左側へと曲がると、扉が見えた。
パインはアリスの言葉がよほど悔しかったのか、
自ら先頭を志願していた。
扉の前まで進み、内開きの扉をゆっくりと開くと、
その隙間から扉の奥を覗いた。
パイン:「うぁぁぁぁーーーっ。」
パインが尋常ならざるスピードで扉から飛び退いた。
すぐ後ろにいたサールにぶつかり、2人して尻餅をついた。
サール:「いてててて、、、。」
パインは口を半開きにして、扉の向こうを指差していた。
パイン:「うぁ、うぁ、、、。」
アリス:((もう、何言ってるのか、分からない。))
アリスがパインの上をまたぐと、扉の向こうを覗いた。
そこには、「うー、うー。」という声を上げて、頭から
血を流している人が、こちらを監視するように立っていた。
アリス:「えっ、あなた、怪我してますね。
大丈夫ですか?」
と、声をかけた。
その時、ポールが言った。
ポール:((それは、死人。別名ゾンビでございます。))
アリス:((えっ、そうなんだ。))
ポール:((この屋敷には、生きている人間はいませんよ。))
アリス:((あー、そっか。))
そして、ポールは扉に近づくと扉を閉めた。
ポール:((まずは、パイン様が落ち着くまで待ちましょう。))
サール:((そうですね。))
アリス:((はーい。))
そして廊下に座ると、パインが落ち着くまで休憩した。
サール:((アリスさんは、死人とか怖くないんですか?))
アリス:((えっ、あぁ、神聖魔道士は、研修で医療現場に
参加するのが義務付けられていたから、
怪我人とか、いつも見てたし、
怖がっていたら救護できないでしょ。))
サール:((なるほど、そう言うことでしたか。))
しばらくすると、パインが落ち着きを取り戻した。
パイン:((取り乱して、すまない。もう大丈夫だ。))
残り時間1:40
パインは、再び扉を開くと、恐る恐る覗き込んだ。
それは、まだ、そこにいた。
パインは一回身震いし、覚悟を決めたような顔をすると、
扉を全て開け、ゾンビの横を触れないように壁に張り付いて
移動した。
続くアリスは、右手を上げ、ゾンビに
「こんにちは」
と挨拶しながら通過していった。
扉の先は、食堂と思われた。
天井には豪華なシャンデリアがつけられており、
その部屋の真ん中には、大きなテーブルがあり、
その周りには8人分の椅子が整然と置かれていた。
テーブルの上には、シミの付いたテーブルクロスが
掛けられており、燭台と何も入っていない花瓶があった。
主の席と思われる一番奥の席には、
これから食事でもするかのように、食器セットが置かれていた。
主の席の左側には次へと続くであろう扉があった。
しかし、その扉にはノブはおろか、鍵穴もなかった。
パイン:((これは、どうやってあけるのだろう?))
そう言いながら、パインは入ってきた扉の横にいるゾンビを
横目でちらちらと見ていた。
サール:((どこかにスイッチのようなものがあるのでは?))
パイン:((ポールさんは何か知らないかな?))
ポール:((前回の時にも仕掛けのあった部屋が存在していた
ことは伺っております。))
パイン:((そうですか、やっぱり何かあるんだろうな。))
サール:((えぇ、探すしかなさそうですね。))
アリス:((はーい。))
そして、4人は何か仕掛けが無いかを探し始めた。
パインは決してゾンビの方を探そうとしなかった。
しばらくの間、注意深く探したが、
それらしいものは発見できなかった。
突然、「ガチャ、ガラガラガラ、、、。」という音がすると、
その扉が横にスライドして開いた。
そして、スケルトンとゾンビが扉の奥から、
ぞろぞろと入ってきた。
4人は、それを呆然と見つめていた。
全ての死人が通過するとゆっくりと扉が閉じてゆく。
一番近くに居たポールの動きは素早かった。
扉の近くの椅子を持ち上げ、開いた扉の隙間にはさんだ。
扉は動きを止め、そこには人が通れる隙間が開いていた。
ポール:((ふぅ、なんとか間に合いました。))
アリス:((すごーい。))
サール:((やりますね。))
パイン:((さすが、有能な執事さんですね。))
ポール:((いえいえ、運がよかっただけですよ。))
そんな会話をした後、4人は開いた扉の先へと向かった。
残り時間1:17