初めてのお使い1
連合暦20年3月24日、
ドレアルを含めた4人が天馬の尻尾亭で朝食をとっている時、
1人の男が店に入ってきた。
それに気づいたパインが声を上げた。
パイン:「おっ、ジェイルじゃないか?」
他の3人もそちらに目をやる。
アリス:「もぐもぐ、、、もぐもぐ、、、ごっくん。」
サール:「ジェイルさん、おはようございます。」
ドレアル:「ジェイルか、、、。」
アリス:「おはよう。ジェイル。」
ジェイル:「食事中でしたか、これは失礼。
食事が終わるまで、こちらで待たせてもらいます。」
そして、少し離れたテーブルに座る。
ジェイル:「ポール!!。」
ポールが台車を押して入って来ると、ジェイルの横に止まる。
そして、台車からテーブルクロスを取り出すと、
テーブルの上へと広げる。
続いて、豪華なティーセットを取り出して、
テーブルの上に並べた。
最後に、ティーカップを持つと、湯気の立つポットから
紅茶を入れ始めた。
そして、ボットを高く持ち上げる。
紅茶が滝のように落ちながらティーカップへと入ってゆく。
それを見ていた4人が歓声をあげる。
アリス:「すごーーーい。」
パイン:「おぉ。」
サール:「へー。」
ドレアル:「ほう、それでうまくなるのかのう?」
紅茶の入ったティーカップが静かにジェイルの前に置かれる。
ジェイルはティーカップを優雅に掴むと、小指をピンと伸ばし、
静かに口に近づけた。
しばらく、紅茶の香りを楽しむと、ゆっくりと口に含んだ。
パイン:((なんだか、仰々しすぎるな。
俺は、普通にいれたのでいいや。))
サール:((一庶民の私としては、普通のやり方でいいですね。))
アリス:((あれはあれで、楽しいよ。))
そんなパーティー会話を続けながら朝食は続いた。
4人の食事も終わり、食器を片付け終わったとき、
ジェイルがおもむろに立ち上がると、3人に近づき声をかけた。
ジェイル:「そろそろ、よろしいかな?」
パイン:「はい、なんでしょう?」
ジェイル:「実は、頼みたいことがあるのだが。」
サール:((嫌な予感がしますね。))
パイン:((あぁ、こいつのことだから、
なにか裏がありそうだけど、、、。
まあ、話だけ聞いてみるかね。))
サール:((そうですね。))
アリス:((はーい。))
パイン:「話とは、なんでしょうか?」
ジェイル:「お前ではない。そちらのアリスに話がある。」
アリスは、自分を指差しながら、パインとサールを交互に
見ると、口を開いた。
アリス:「えっ、わたし?」
ジェイル:「まあ、アリスというよりは、アリスの幻獣にだが。」
アリス:「シロちゃんに?」
シロ:((一体何にゃんだ?
とりあえず、話を聞くにゃ。))
アリス:((わかった。))
アリス:「話を聞くそうです。」
ジェイル:「それは良かった。
それでは、話をさせてもらう。」
そう言って、ジェイルは話始めた。
ジェイル:「ズールの屋敷という名を聞いたことがあるか?」
アリス:「私も、シロちゃんも知らないです。」
ジェイル:「ズールの屋敷というのは、
ここ、カルラドの遥か北にある屋敷の名前だ。」
パイン:((そのままじゃないか。))
サール:((ですね。))
ジェイル:「その屋敷は、死人使いの屋敷なのだ。」
サール:「えーーーーーっ。」
パイン:「死人使い?」
アリス:「なにそれ?」
シロ:((にゃに。))
サール:「別名、ネクロマンサー。
禁断の秘術を使って自分を殺し、その見返りとして、
死者を使い魔として操る者の事です。」
パイン:「えっ、死んでるの?」
サール:「えぇ、死んでいるといっても、
生気が無いだけで、生前と何も変わらないそうですが、
だだ、良心がなくなると言われています。」
ジェイル:「いいかな?」
サール:「あっ、すみませんでした。」
ジェイル:「では、話を続けさせてもらう。」
ジェイルは話を続けた。
ジェイル:「その屋敷の存在が確認されたのが100年前。
いつの頃からかそこに在ったそうだ。
特に我々に何かするわけでもなかったため、
討伐の対象にはなっていなかった。
そこに住む主がズールだ。」
パイン:((名前は、すぐ分かるって、、、。))
ジェイル:「そこでだ、その主に玉を渡し、
代わりのものを貰ってきてほしい。」
サール:「えっ、それは、無謀でしょう。
死人は、生きている者は問答無用で攻撃をすると
聞いています。
そんな場所に行くのは死にに行くのと同じですよ。」
ジェイル:「分かっている。
ポール、あれを、、、。」
ポールが無言で、1本のビンをテーブルに置く。
ジェイル:「それで、これが使える。
無感霊銀だ。
これを人数分用意しよう。」
サール:「うへっ!!。」
パイン:「無感霊銀?」
アリス:「なにそれ?」
ジェイル:「死者が生者を見つけられなくなる妙薬だ。」
サール:((これ、すごく高価なんですよ。))
パイン:((いくらぐらいするの?))
サール:((1本で、家が建ちます。))
パイン:((げげっ。))
ジェイル:「この妙薬は2時間ほどしか効果が無い。
その2時間の間にズールを見つけ出して、
渡してほしいのだ。
ズールは魔法陣の中から外へは出られないようだが、
しかし、生者もその魔法陣の中へは入れない。」
アリス:「なるほど、それで、シロちゃんの出番なんだ。」
ジェイル:「そうだ、幻獣は魔法陣の中へ入れるというわけだ。
お前達以外に適役はいない。」
サール:「いくつか質問があります。」
ジェイル:「なんだ?」
サール:「ズールから攻撃をされたりしないのですか?」
ジェイル:「んー。たぶん大丈夫だとおもう。」
パイン:「たぶん?」
ジェイル:「1年ほど前、同じ事をやるために使者を派遣した。
もちろん、戦闘をしながら進んだんだがな。
そして魔法陣まで到達した。
ズールは、揺り椅子に座ったまま動かなかった。
1人が魔法陣に入って行った。
入った者は、一瞬にして老人の様に変化し、
そして、白骨化してしまった。
ズールは揺り椅子に座ったまま動かなかった。
残りの使者は、渡すことが不可能と判断して、
戻ったというわけだ。
このことから、攻撃されないと判断した。」
サール:「ということは、
屋敷の見取り図とかあるのでしょうか?」
ジェイル:「残念ながら見取り図はない。
というか、意味がないんだ。」
サール:「えっ?」
ジェイル:「屋敷は、魔法によって、毎日形を変える。
壁が移動しているといったほうがわかりやすいか?」
サール:「なるほど、では、幻獣だと大丈夫と考えた理由は?」
ジェイル:「幻獣は死ぬことがない。
そのように、前に見せた巻物に記載されていた。
異界の生物は生命体ではなく精神体であり、
人間界で具現化しているにすぎないと。
それで、召喚士の儀式を行うことにしたのだ。」
パイン:「なるほど、そこへ繋がるのか。」
アリス:((シロちゃん、本当なの?))
シロ:((みゃあ、当たらずも遠からずってところかにゃ。
この身体もアリスが好きな形になっただけだしにゃ。))
サール:「代わりの物というのは?」
ジェイル:「骨だ。
それを求める理由は今は教えることはできない。」
サール:「渡す玉と引き換えに骨が貰えるという根拠は?」
ジェイル:「それは、別の巻物に書いてあったのだ。」
サール:「なるほど、私の質問は以上です。」
ジェイル:「他に聞きたいことは無いのか?」
パイン:「今のところは、、、。」
ジェイル:「報酬だが、、、。ポール、あれを。」
ポールが1本の杖をテーブルに置く。
パイン:「杖?」
その杖は、うねうねと曲がっており、その上側に、
宝石のような玉が付いていた。
サール:「これは?」
そう言って、サールが手に取り、杖を見る。
サール:「ただの杖にしか見えませんね。」
ジェイル:「そうだろうな。これは、アリスにしか効果がない。」
サール:「えっ、ということは、召喚士の為の杖?」
ジェイル:「そうだ。召喚士以外には使い道は無い。」
サールがアリスに杖を渡す。
アリス:「あっ、何か分からないけど、いい感じがする。」
シロ:((ちょっと、気持ちいいにゃ。))
ジェイル:「この杖を召喚士が持つと、
召喚獣の滞在時間を延ばすことができるようだ。
簡単に言うと、召喚獣を出していても疲れにくくなる。
召喚獣にも効果があるようだが、それは不明だ。」
サール:「そんなすごい杖、報酬にしてもいいんですか?」
ジェイル:「私が召喚士になることが出来ないことが
分かった今、これは無用の長物だ。
召喚士はアリス1人しかいない。
魔獣王を倒すためには、持つべき者が持つのが
正しいんだ。」
パイン:((こいつ、思っていたより、すごいやつかも。))
サール:((そうですね。
魔獣王討伐を真剣に考えているんですね。))
アリス:((だね。))
パインは、少し考えると口を開いた。
パイン:「その骨というのは、魔獣王を倒すために必要なのか?」
ジェイル:「そうだ。」
パイン:((俺は決心した。この話やろう。))
サール:((私も賛成です。))
アリス:((うん、そうだね。))
シロ:((アリスがやるにゃら、やるにゃ。))
パイン:「分かりました。引き受けます。」
ジェイル:「そうか、引き受けてくれるか。
杖は、先渡ししておく。
有効に使ってくれ。」
アリス:「やったー。ありがとう。」
ジェイル:「それでだ、ポールを一緒に連れて行ってもらう。」
パイン:「えっ?」
ジェイル:「玉と骨の交換の交渉はポールに行ってもらう。
それにポールはA級の神聖魔導士だ。
死者には上位の祈りが有効なんだ。」
サール:「そうですね、万が一の事を考えると、私の炎系の呪文
だけでは、心もとないですしね。
浄化の祈りもできるんですよね?」
ポール:「はい、覚えております。」
サール:「それなら、心強い。」
パイン:「そうだな。
こちらからお願いしたいぐらいだ。」
ジェイル:「よし、これで決まりだな。
では、すぐに、出発してもらおう。」
パイン:「えっ、いまから?」
ジェイル:「あぁ、それで朝一番に来たんだよ。
それに、昼は屋敷の外に死者はいない。」
パイン:「なるほど、分かりました。」
こうして、3人+ポールは、
ズールの屋敷へと向かうこととなった。