初めての宝探し3
パインは、壊れた柱や壁を使い、隠れるようにゴーレムに
近づいて行く。
正面に回りこみ額の文字を確認すると、
魔法文字のようなものが描かれているのが見えた。
ゴーレムはこちらに気がついていない。
ある程度の距離まで近づくと、パインはゴーレムの前に
躍り出た。
ゴーレムはパインを認識すると、パインに向かって動き始めた。
パインは、一定の距離を保ちながら、誘導するように移動する。
ゴーレムが大きな柱の横を通過しようとした瞬間、
サールの唱えていた拘束の呪文が発動した。
ゴーレムの身体に糸のようなものが纏わりつき始めた。
その時、ゴーレムの頭の上に何かが動いた。
少し前、3人は作戦を練っていた。
パイン:((さて、どうやって文字を消すかだな。))
サール:((シロさん、消すというのは、
文字通り、擦ったりして消すということなのですか?))
シロ:((そうにゃ、擦れば消えるにゃ。))
サール:((たとえば、塗るとかではダメなのでしょうか?))
パイン:((なるほど、墨汁とかをかけるということか。))
シロ:((だめにゃ、それは消したことにはならないにゃ。))
サール:((そうですか、ということは、
ゴーレムに近づき、そして額に手をかけて、
擦らないといけないわけですね。))
パイン:((それは、難問だな。))
サール:((ですね。))
ずっと考え込んでいたアリスが声を上げる。
アリス:((ねえねえ、こんなのはどうかな?))
パイン:((えっ、なにかいい方法があるのか?))
サール:((なんですか?))
アリス:((まず、パインが囮になって、ゴーレムを柱の下に
おびき寄せる。
そして、サールが拘束の呪文を使って、
ゴーレムの動きを止める。
そして、柱の上から飛び降りて、頭の上に乗っかって
額の文字を消す。))
パイン:((なるほど。
しかし、失敗したら、頭上に居た者が真っ先に
狙われるぞ。
大丈夫なのか?))
アリス:((大丈夫。))
そう言ってアリスは、にっこりと笑った。
サール:((それで、消す役目を
アリスがやるというわけですね。))
アリス:((私じゃないよ。))
パイン、サール:((えっ?))
アリス:((シ・ロ・ちゃ・ん。))
頭の上に飛び降りたのは、シロだった。
そして、ゴーレムの頭に後ろから取り付き、
両手を額のところへ回す。
ゴーレムは突然の頭への攻撃に頭を振って応戦する。
シロ:「んぎゃー!!」
シロはゴーレムの頭の上で、振り落とされないように
耐えていた。
シロ:((にゃんで、こんなことになったにゃん。))
シロはあの時の会話を思い出していた。
アリス:((私じゃないよ。))
パイン、サール:((えっ?))
アリス:((シ・ロ・ちゃ・ん。))
一瞬の沈黙の後、シロが言った。
シロ:((にゃに、それは無理にゃ。))
アリス:((シロちゃんって、私の幻獣だよね。))
シロ:((そうだにゃ。))
アリス:((じゃあ、私のお願い聞けないの?))
シロ:((お願いはきくにゃ。))
アリス:((じゃあ、額の文字を消して、お・ね・が・い))
シロ:((にゃにゃにゃ、ばれたにゃ。
こんにゃに、早くばれるにゃんて、、、。))
サール:((なるほど。
前回の時は、指示してなかったんですよ。
それで、シロさんは、本能に従って逃げたと、、、。))
シロ:((ばれたのにゃら、しかたがにゃいにゃ。
やるにゃ。
あんまり無謀にゃお願いするにゃよ。
幻獣にゃんていっても、痛いのはいやにゃ。))
アリス:((はーい。))
今の返事にシロは、嫌な予感が頭をよぎり、背筋がぞっとした。
ゴーレムが白い糸に覆われていくなか、
シロはなんとか耐えていた。
シロ:((やばいにゃ、もうだめにゃ。))
シロがゴーレムの頭に片手で、なんとか掴まっているとき、
「ドーン!!」
と言う音と共に、ゴーレムの身体が揺らいだ。
そして、ゴーレムが後ろに倒れる。
シロは倒れるゴーレムの頭にしがみつくと、
顔の方へ移動し、額に手をかけた。
ゴーレムが倒れる少し前、逃げていたパインは所定の位置で
立ち止まると、振り向き、拘束の呪文によって
徐々に拘束されてゆくゴーレムを見ていた。
シロが頭に飛びつき、振り落とされそうになると、
すぐにゴーレムに向かって突進した。
そして、ゴーレムの首あたりに飛び蹴りを入れる。
すでに足を拘束されていたゴーレムは、バランスを崩し
後ろへと倒れた。
パインは、そのまま下へと落下する。
そして、身体を地面に強く打ち付け、
しばらく動けなかった。
ゴーレムが後ろへ倒れた直後、「グォーーーッ」という、
唸り声のような音を発した。
「ブチブチブチ、、、。」と言う音と共に、
拘束が消え去った。
ゴーレムは右腕を頭の上に振り上げ、シロを吹き飛ばした。
シロ:「んぎゃ。」
シロは、近くの柱に激突し、ふらふらとしている。
ゴーレムは起き上がるなり、近くに倒れているパインに近づく。
パインは落下の痛みに耐えながら仰向けになると、それを見た。
ゴーレムが両腕を上げ、自分目掛けて振り下ろそうとするのを。
パイン:「うぁーーーっ!!」
次の瞬間、ゴーレムの頭から砂のようなものが落ち始め、
一気に崩れ始めた。
そして、ゴーレムが消え去り、砂の山が残った。
直後、シロが言った。
シロ:((やったにゃ、消したにゃ。))
パインがゆっくりと起き上がると、シロ、サール、アリスの順で
砂山に集まった。
アリス:((これ、ゴーレムだよね?))
サール:((えぇ、ゴーレムですね。
額の文字を消したので、魔法が解けたんですよ。))
パイン:((いてててて、、、。))
パインが腰を摩りながら言った。
パイン:((なるほど、魔法が解けると砂になるんだな。))
シロ:((そうにゃ。))
シロは得意満面な顔で言った。
アリス:((シロちゃーーーーん!!))
アリスがシロを抱き上げると、思いっきり抱きしめた。
シロ:((くっ、くる、しい、にゃ、、、。))
サールは、砂を少し取ると、袋に入れ大事にしまった。
研究用として持ち帰るとのことだった。
3人は、砂山の周りに腰を下ろすと、しばらく休憩した。
そして、3人揃って祭壇へと向かった。
パイン:((あれ、なんだろう?))
祭壇の上には、魔法陣の上に大人の頭ぐらいの大きさの
白く丸い玉が置いてあった。
サール:((魔法陣が描かれていますね。
何の魔法陣でしょうか?))
サールが魔法陣の魔法文字を注意深く観察する。
サール:((どんな魔法が発動するか分かりません。
うかつに触らないほうがいいですね。))
その時、魔法陣が一瞬光った。
パイン:((えっ?))
アリス:((あっ、、、。))
サール達がパインを見ると、パインがその玉を持ち上げていた。
サール:((うぁ、遅かったですか、、、。))
3人は、しばらく、そのまま動かなかった。
アリス:((何も起こらないね。))
パイン:((あぁ、そうみたいだな、よかったな。))
サールは呆れたように言った。
サール:((今回は何もおこらなかったですが、次からは勝手に
触ったりしないでくださいね。))
パイン:((次からは、気をつけるよ。))
アリス:((はーい。))
サールが2人を見ると、2人はその玉に夢中だった。
パインとアリスは2人して、その玉を撫で回していた。
その後、他に何かないかを探したが、
特にお宝のようなものは無かった。
しかたなく、3人は戻ることにした。
サール:((さて、戻るにしても、出口は無いんでしょうかね?))
パイン:((確かにそれらしいものは無さそうだな。))
アリス:((まさか、帰れない?))
サール:((いえ、そんなことは無いんですが、
出口が無いっていうのが、
ちょっと変に思っただけですよ。))
パイン:((確かにそうだよな。))
サール:((まあ、考えても分かりませんので戻りましょうか?))
パイン:((あぁ、そうしよう。))
アリス:((はーい。))
3人はサールの帰還の魔法でカルラドへと戻った。
そして、コゴーロ老人のところへと向かった。
コゴーロはカルラドの家に居た。
玉をコゴーロの前に置くと、起こったことを説明した。
コゴーロ:「なんと、その玉があったのか、、、。」
パイン:「えぇ。」
コゴーロ:「まさか、、、残っていたのか?。
しかし、、、。
ありえんな、、、。」
コゴーロがぶつぶつと独り言を言い始めた。
そして、何かを思ったのか、突然質問した。
コゴーロ:「ところで、最初にこれを持ったのは、誰じゃ?」
パイン:「俺ですけど。」
コゴーロ:「おぬしか、、、。
では、その時魔法陣は光ったか?」
パイン:「光りましたよ。何も起こりませんでしたが。」
コゴーロ:「そうか、光ったか。」
また、ぶつぶつと独り言を言い始めた。
コゴーロ:「どっちに、転ぶかじゃな。
どうする?
なるようにしかならんか、、、。」
パイン:「あのーーーーー。
コゴーロさん?」
コゴーロ:「あっ、すまんのー。」
パイン:「どうしたんですか?」
コゴーロ:「いや、なんでもない。
ところで、報酬の件じゃが、
この玉を売ることはできん。
それに、そなたらが今もっていても意味が無い。
とりあえず、最初の依頼料の金貨1枚は支払おう。
残りは、3ヶ月後に取りにまいれ。
それでどうじゃ?」
パイン:((どうする?))
サール:((老人は玉のことを何か知っているようですね?
教えてくれそうも無いですが。
まあ、3ヵ月後に取りに来いということは、
その時にでも教えてくれるのかもしれないですね。
待ちましょうか?))
アリス:((私は、どっちでもいいよ。))
パイン:((分かった、じゃあ、待つかな。))
パイン:「分かりました。
じゃあ、3ヵ月後に受け取りに来ますね。」
コゴーロ:「そうか、では、3ヶ月間後に待っておる。
悔いを残さないようにな。」
3人は、老人の最後の言葉が少し気にはなったが、
その言葉の意味を質問することも無く、老人の家を後にした。