初めての幻獣
これまでのあらすじ)
パインは、カイン王国で知り合ったアリス、サールと
行動を共にすることになる。
カルラド王国に拠点を移す3人。
姉ローザを探す少女リナと出会った。
ジェイルと名乗るヒーロー(?)に助けられるも
彼もリナの持っていたペンダントを狙っていた者の一人だった。
ペンダントは幻獣を呼び出すアイテムの一つだった。
ジェイルと共に召喚の儀式に立ち会う事になった3人。
無事召喚の儀式は成功するのだろうか?
何故か、ジェイルは屋敷の地下へと向かっていた。
パイン:「遺跡って、外じゃないのか?」
ジェイル:「だまって、ついて来い。」
そう言われてパインは黙る。
パイン:((くそ、何様のつもりだ、、、。))
アリス:((まーまー、パイン短気すぎるよ。))
サール:((まあ、向かうって言ってるんですから、
黙って従うしかないでしょうね。))
パイン:((まあ、そうなんだけどね、、、。))
ジェイルは地下の廊下にある1つの扉の前で立ち止まる。
そして、扉を開けた。
部屋は、5m四方ぐらいの大きさだった。
真ん中には魔法陣が描かれている。
ポールが毛皮のようなものを持って近づいてきた。
ポール:「これを着て下さい。」
3人が受け取る。
それは、毛皮で出来た上着だった。
どうやら、遺跡はかなり寒いところにあるらしい。
全員が毛皮を羽織るのを確認してジェイルが口を開く。
ジェイル:「よし、魔法陣の中へ、、、。
遺跡へ移動する。」
目の前が見えるようになると、そこは洞窟の中だった。
どうやら、鍾乳洞の中のようだ。
本当なら、その中は漆黒の闇に覆われているのだろうが、
魔法で作られたと思われる光が所々にあり、
あたりを照らし出していた。
しばらく洞窟を進むと、突然巨大な空洞へと出た。
すごく大きな空洞だ。
それは、ジェイルの家の敷地より広いのではないだろうかと
考えてしまうほどの広さがあった。
そこには、何十人もの人が整列していた。
どうやら幻獣を倒すために集められた戦士や魔導士達のようだ。
彼等と共にその空洞を進む。
そして反対側の端に巨大な円盤状の1枚岩が置いてあった。
部隊を待機させると、ジェイルと共に近づく。
その円形の岩の上に上がる。
サールが声を上げた。
サール:「これは魔法陣か。」
その声に反応してジェイルが答える。
ジェイル:「あぁ、そうだ。岩に魔法陣が刻まれている。」
良く見ると、その魔法陣の中心に円形の窪みがあった。
ジェイルがポールを呼び、3つの部品を受け取る。
そして、リング、勾玉の順にはめ込んでいく。
全てをはめ込むと、部隊のいる位置まで下がるように
指示を出す。
そして、月食を待った。
パイン達は最後方まで下がると話し出した。
パイン:((いったい、どんな幻獣が現れるんだろうか?))
サール:((えぇ、わくわくしますね。))
アリス:((ハーーーッ。ハーーーッ。))
アリスは口から真っ白い息がでるのを見て楽しんでいた。
しばらくすると、ポールが声を上げた。
ポール:「月食が始まります。」
全員が円形の岩に注目する。
岩の上部が淡く光だした。
複数の魔導士が祈り始める。
次第にその光が強くなって行く。
あたりの空気が冷たくなっていくのが分かる。
祈りが終わり、部隊の前に守護の壁が発動する。
守護の壁は、魔法攻撃の威力を減衰させる魔法障壁を作り出す
神聖魔法である。
そして、その障壁が部隊の四方および上方を取り囲むように
形成されていった。
さらに、障壁の四隅にいた魔導士達の上に頭ぐらいの大きさの
火の玉が浮かび上がった。
火の玉の熱で障壁内の温度が上がってゆくのが分かる。
サール:((もしかしたら、幻獣って、シヴァ?))
そこまで言ったとき、周囲が真っ白になった。
パイン:「うぁー。」
サール:「あー。」
アリス:「きゃっ。」
見えるようになると、岩の上には青白い羽衣を纏った、
女性に見える巨大な人型をした何かが浮いていた。
声が直接頭の中に入ってくる。
何故か分からないがその声を理解することができた。
(我が名は、シヴァ。
何ゆえに我を呼び出す。
我を従える為か?、それとも死に行く為か?)
ジェイルが答える。
ジェイル:「我、汝を従える為に赴く。」
シヴァが辺りを見回す。
(ならば、その力を我に示せ。)
最後の言葉とほぼ同時に、シヴァが光を放つ。
同時に回りの空間が凍りついた。
急激な温度低下によって、皮膚がチクチクと痛み出す。
障壁の外側では、細氷が光を反射してキラキラと輝いて
いるのが見える。
もしも、魔法障壁と火の玉がなかったら、一瞬で凍り付いて
いたのではないかと思えるほどであった。
複数の魔導士達が詠唱を開始した。
サールもすぐにその呪文を理解し、少し遅れて詠唱を開始する。
シヴァの光が収まったのを見て、魔法障壁が解除された。
そのタイミングで、魔導士達の頭上に大きな火の玉が
次々に出現する。
アリスの声が頭に響く。
アリス:((寒いのか、暑いのかハッキリしてよー!!))
次の瞬間、火の玉がシヴァ目掛けて飛んで行った。
一歩おくれて、サールの詠唱が完了した。
サールの頭上にも大きな火の玉が現れると、
シヴァ目掛けて飛んでいく。
初弾がシヴァに命中した。
それを合図に戦士達が次々にシヴァに突入する。
残りの火の玉が次々に命中してゆく。
サールの火の玉が当たったとき、戦士達が攻撃を開始していた。
シヴァの周りに戦士達が群がってゆくのが見えた。
パインとアリスは、魔導士達の後方でそれを見ていた。
シヴァはまるで優雅に踊っているようだった。
シヴァが左右の手を大きく振るたびに、
近くの戦士達が吹き飛ばされる。
魔導士達も次々に大きな火の玉をぶつける。
しかし、シヴァにダメージを与えているのかさえ疑問だった。
シヴァは、相変わらず優雅に踊っている。
その時、アリスの目の前に突然光が現れ、
その光が大きくなると、人の形を形成していった。
光が消えると、そこにはドレアルがいた。
パイン:「ドレアルさん、何故ここに。」
ドレアル:「どうやら間に合ったようじゃな。
話はあとじゃ、お前達はもっと後ろへ下がれ。
わしも加勢する。」
2人は指示に従い、後方へと下がる。
そして、次にドレアルを見たとき、
その頭上には巨大な火の玉があった。
そして、それがシヴァ目掛けて飛んで行った。
シヴァに命中する。シヴァは一瞬その動きを止めたが、
すぐに舞い始める。
サールの声が聞こえた。
サール:((最上位呪文でも効かないのか。))
このとき、パインは己の無力さを痛感していた。
なぜ、自分は戦っていないのだ。
なぜ、自分はあの中にいないのだ。
そして、思った。
自分の剣の腕では、あの中に入ることは許されないと、、、。
突然、癒しの加護の効果を感じた。
アリスの方を見ると、彼女が笑顔でこちらを見ていた。
パインは理解した。
今、自分に出来ることをやるしかないということを、、、。
パイン:((ありがとう、アリス。))
そう言うと、パインは剣を構えシヴァへ向かって走って行った。
アリス:((頑張れ、パイン!!))
パインがシヴァに向かって走ってゆく。
その時、アリスはシヴァが優雅に回転するのを見た。
シヴァの周りに取り付いていた戦士達が吹き飛ばされる。
その衝撃波が広がり次々と人々をなぎ倒してゆく。
パインはこのとき、見えない壁に激突したかと思った。
身体が壁に押されて宙に舞う。
アリスは、パインが吹き飛ばされる瞬間をみた。
時間が極限まで引き延ばされたかのように、
ゆっくりと進んでいく。
パインがこちらにゆっくりと回転しながら飛んでくる。
そして、シヴァが光を放ち始めるのが見えた。
アリスはそれが最初の光と同じものと直感した。
いま、あの攻撃を受けたら生きていることは不可能だと。
そして叫んだ。いや、声になる前に思ったのだろう。
アリス:(いやーっ!!)
突然、アリスの頭の中に声が届く。
(ほう、古の血の契約を持つ者がおるのか。
神も酔狂なことをなされる。
ならば、それに従わねばならぬか。)
突然時間が戻った。
パインがアリスの横に落下する。
すぐに駆け寄る。
アリス:「パイン、パイン。」
パインの胸ぐらを掴み前後に揺する。
パイン:「ふにゃーっ。」
パインは目を回しているようだった。
シヴァのいる方向が光った。
アリスは、その光の発する方向を見た。
それは、まるで霧の様だった。
シヴァの形をしていたものが、透け始め霧のようになって行く。
そして、その霧が光を放ちながら、1つに纏まって行く。
光輝く光の玉となると、上空をふらふらと浮遊する。
意識のあるもの全てが、制止してそれを見ていた。
声が聞こえた。
(古の血の契約を持つ者よ。
我はその契約に従うこととしよう。
しかしながら、汝に我を扱う力は無い。
その時まで、我が僕を使わすこととする。
そして、その時が来るまで待つとしよう。)
光の玉がアリスに近づいてくる。
そして、彼女の右手に吸い込まれるように入って行った。
アリス:「キャー!!」
その声で、パインが目を覚ました。
アリスを見ると右手が光っていた。
その光が収まったとき、右手には魔法陣が刻まれていた。
そして、ゆっくりと消えてゆく。
パインが起き上がると同時にアリスが崩れ落ちて行く。
それを支え、そして、抱きかかえる。
パイン:「アリス、大丈夫か?」
周りを見ると、ジェイルの仲間の神聖魔導士達がせわしなく
救護を行っていた。
前からドレアルとサールがやってくる。
ドレアルがアリスを見ると口を開いた。
ドレアル:「どうやら、気を失ってるだけのようじゃな。」
その言葉に、パインも胸を撫で下ろす。
サール:「そうですか、それは良かった。」
ドレアル:「色々と聞きたいこともあるが、
まずは救護が先じゃ。
話は戻ってからするとしよう。」
その後、けが人の救護を済ませると、
ジェイルの屋敷へと戻った。