縛り89,地返しの玉使用禁止
多分今日が明日。
美味しい料理をたっぷり食べて、宿屋でぐっすりと眠った翌日。僕たちはアレクサンドロスさんに指定された建物に来ていた。
「宿屋じゃないっぽくもあるけど、何の建物なんだろう」
「日本語で看板出てるし、拠点なんじゃね」
「『そうつのたびだん』か、変わった名前だな!」
「『双角旅団』じゃないかと思うよ」
一通りやいのやいの言った後。とりあえず入ってみようということに。
「ごめんくださ~い」
「ようこそ~、みなさんお久しぶりです~」
カランカランと、ドアに付けられたベルを鳴らしながら中に入れば、ゆったりとした挨拶が正面のカウンターから返ってきた。
「コノカさん久しぶりー! なんていうか、似合うね!」
「ありがとうございます~」
カウンターに立ってるのが似合う! それっぽい制服とか着てもらったら凄くはまり役なんじゃないかな! ドンドルマから最新作まで順番に着せ替えしてみたくなるよね。
「呼ばれるままに来てみたけど、ここってどういう建物? 表の看板に書いてるのは?」
「表の看板は~ギルドの名前ですよ~。建物は~、宿屋だった空き家を~、五回払いで~」
「へえ~、どのくらい?」
「メンバーに雑魚寝を我慢してもらえば~ひと月で元が取れるくらいです~」
「思ったよりも安い?」
「そうですね~。ぎゅうぎゅう詰めですけどね~」
ギルドかあ。その手のシステムはアライアンスだったりクランだったりゲームによって名前がいろいろな中でも、けっこうメジャーなやつだね。
コノカさんがチャットでアレクサンドロスさんを呼んでくれて、それを待ってる間に、ちょっとした雑談。【料理】スキル無しでモンスターの素材を調理しようとしたら酷いことになったことを話したり、ギルドの名前の由来を聞いたり。
「ギルマス~、遅いですよ~」
「すまん……」
十分くらい雑談してたら、アレクさんが二階から降りてきた。何か他の用事とブッキングでもしてたのかななんて思ってたけど、アレクサンドロスさんの表情とか服装とか、THE 寝起きって感じ。あ、寝癖ついてる。
「もう少し遅い時間に来た方がよかった?」
「あー、次からは時間も大雑把にでも決めたほうがいいだろうな。スケジュールはコノカが管理してるからそっちに連絡とってもらった方がスムーズかもしれねえ」
「秘書になった覚えは~、ないんですけどね~。でも~、フレンド登録は~、しておきましょうか~」
怒ってる時でもコノカさんだけど、アレクさんに怒ってるにしてはどことなく機嫌よさげ? 僕と、クロにもフレンド申請が来たみたい。連絡役が別行動したりしてた時対策だね。
「さて、じゃあそろそろ本題に移ろうか。こっちから先に話しても良い?」
「面倒なのが嫌だから町から離れてどっかのダンジョンに遠征に行ってたって話だったよな?」
「そうそう。片道一日半くらいのところまで」
「まあ俺の状況を顧みれば羨ましい話だぜ」
「この建物にぎゅうぎゅう詰めってことはけっこうな大所帯のギルドマスターになったってことだもんね~。頑張ってね!」
「まあ誰かがやらなきゃならないことだし、やるけどよ……」
適材適所ってやつだね。顔だけ見れば貫禄が有るような気がしないでもないし。実際上手く運営できてるみたいだし。
これが僕や老師だったら二日で瓦解させてる自信が有るね!
「で、こっちからの報告は基本的にそのダンジョンの話と、野営に使った道具やら食事やらの話だね。他に同席させたい人とかいる?」
「道具と食事か。コノカが聞いてるならそれで大丈夫だ」
「コノカさんいなくなったらギルド瓦解しそうだね……」
「そこは言わないでくれ……」
「いなくならないので~、大丈夫ですよ~?」
「すまん。もうちょっと落ち着いたら仕事の分担も進むだろうからそれまでは頼む……」
ゲームシステムが複雑なほど、集団の役割が大きいほど運営する負担も増えるからね。もう少ししたらギルドの数も増えてプレイヤーも分散していくだろうけど。そうなったら今度はギルド同士の連携のための会議の運営とか発生しそうだよね。
大きな集団の統率はあんまり得意でも好きでもないから、担ぎ上げられるのを避けたのは後悔してないけど。その分アレクさん達には出来る範囲で積極的に協力しようかな。
「で、手に入った鉱石なんだけど、こっちだとパーティー内の戦闘スタイルの傾向的に、予備まで含めても結構な量が余りそうだから、アレクさん達の方で使うなら売ってもいいかなって思ってるんだけど」
「マジか! いやあ助かる。俺らのところの生産者も鉱石は基本的に店で買うことも出来ねえから仕方なくドロップ品を鋳潰してたからな~。手間はかかるわ質も量も渋いわ……」
「道中出てくるモンスターも洞窟の中のモンスターもそんなに強くなかったから今後はある程度は安定して供給されるんじゃないかな? ポップ速度が速くないから奪い合いにならないといいんだけど」
「確かに、その心配も有るか…… どのくらいの量を個々人が要求するのかも分からねえし、安易に公開するのは危ないか?」
「インスタンスフィールド方式だったらそんな心配も無いんだけどね~。……あれ?」
洞窟に入る時にはボス部屋みたいな仕掛けも無かったし、見た目ただの洞窟だったから意識してなかっただけであそこってもろダンジョンだったよね?
「ねえクロ! 僕らインスタンスダンジョン方式じゃないっていうの確認したっけ!?」
「言われてみりゃしてない気がするな…… 基本ずっとパーティー組みっぱなしだったし、可能性は有るのか」
「ダンジョンは資源って散々主張しておきながらその一番重要な部分を確認し忘れるなんて、一生の不覚だよ!」
「俺はその主張聞いた覚えねえけどな」
してるんだよ! ほら! 言葉じゃなく行動で!
「あー、まあその辺の確認はこっちでするから大丈夫だ。情報は開示していく方針だけどよ、聞いた感じ敵のレベル的にも、必要な準備や心構え的にも今すぐに向かってまで鉱石が欲しいってやつはそう多くねえだろうし、問題になる前には判明するはずだ」
「まあ素材アイテムの確保は早い方が良いもんね。アレクさんのギルドからパーティー派遣することになる感じ?」
アレクさんの軌道修正にとりあえず乗っかる。
「あー、そうできればいいんだが…… 街の状況ともかかわってくる話なんだが、そっちの話はまだ残ってるか?」
「後は、スミスさんが清書してくれたダンジョンのマップがあるくらいかな」
「いくらだ」
「いくらなら出せる?」
「……このくらいでどうだ」
トレード申請画面に提示された金額に目を通して、無言でガシッと握手。
ちなみに、アレクサンドロスさんが提示した金額はパーティー単位で三時間くらいドロップアイテム集めて換金したくらい。大きな取引っぽいのは会話だけで、実際はお小遣い稼ぎくらいだったり。
「で、こっちの状況か。積極的な動きが取り辛いっていうのはここまでの会話で察してると思うんだがな……」
「けっこう状況が悪いみたいに聞こえるんだけど、何があったの?」
「いや、どちらかと言うといい知らせの部類なんだとは思うんだがな…… そうだな、心して聞けよ?」
「おお、自分からハードル上げていく構え! よっぽどびっくりな情報っていう自信が有るんだね!」
デスゲームになりました。っていう運営アナウンスが有ったゲームだし、ちょっとやそっとのことでは驚かない自信が有るからね! 普段から驚きの多い楽しいゲームライフ送ってるだけにそこは自信が有るよ!
「神殿のNPCからの情報で、まだ確かだとは言えないんだがな」
「うんうん」
まだ引っ張る! これで肩透かしな情報だったらそれはそれで面白いよね。もしかしてそっちを狙ってる可能性ある?
「どうやらこのゲーム、蘇生魔法が存在するらしい……」
……………………………………………ほゎっつ?




