縛り78,ジャンピングアッパー禁止
今日はこの後別枠でリンドウちゃんのお料理地獄、ドラゴンゾンビ編を投稿します。
「クロー、ムカデ一匹お願い!」
クロの左手が救い上げるような動きで閃き、噛み付こうとしていたムカデをとらえた。ムカデはそのまま腕へと噛み付こうとするが、籠手とその上に巻かれた布の性で腕まで牙が届いていない。
じたばたともがくムカデを左腕に絡みつかせたままクロはゴブリンと相対し、みんなのサポートも有って危なげなく戦闘を終えた。
「思ったより良いなこれ。最初に提案されたときはまた訳分からんこと言い出したと思ったが」
「少なくとも両手に別の武器を武器を持って別々に扱おうとするよりはまともな考えだと思うよ?」
「いや、妥当かもしれねえけどまともではねえよ」
クロの今の装備は右手に片手剣、左手には布の盾という比較的スタンダードな剣士スタイル。
布の盾の正体が今では使われてないのに素材としてリサイクルされることもなく忘れ去られてたクロの初期装備の半ズボンなことに気付かなければだけどね! まあ正体どころか加工もしないでズボンの穴の片方に腕を通して使ってるから気付かない方が難しいんだけど。
「よし、じゃあ次は右手に鞭、左手布の変則装備いってみよっか! いざダサさの向こう側へ!」
「いや、中距離武器と掴み武器組み合わせてもダメじゃないか?」
「掴んで投げてエリアルで!」
「布に足が引っ掛かるから捕まえられるって事情が有るからな、投げるのは難しいぞ」
「布ごと投げて布ごと撃墜?」
「なるほど、それならやれるか」
「練習するならムカデ一匹の時も任せるけどどうする?」
「いや、メインの相手はゴブリンだろ? ゴブリンで練習するわ。あとコウモリ撃墜できるかどうかだな」
鞭の扱いに慣れてきたクロがゴブリンに五連コンボを決め、それを見た老師が「俺もやってみたい」と言い出し、最終的にクロと老師がコンビネーションで浮かせっぱなしの十三連コンボを編み出し、フィニッシュに勢いに任せて老師が【波濤捻り貫手】をぶっ放したことで元クロのズボンが襤褸切れになっても、僕たちは間違いに気付かなかった。冷静だったなら絶対に気付くはずの間違いに……
「それで、クロ君の新しい戦闘スタイルは定まったのかい?」
「あ」
「ちょっと無意味にはしゃぎすぎたな。どうすんだこれ……」
いたるところが裂けて、ズボンだったということが言われなければわからなくなってしまった布をぶらぶらとさせてクロが途方に暮れる。
ちなみに、この惨状の引き金になった老師の【波濤捻り貫手】は手に水の渦を纏って突き込むスキルで、僕らにとっては記念すべき初の属性攻撃スキルだったり。MPを使うから多用は出来ないけど、防御力が高い相手にもそれなりの効果が有ることは既に実証済みだよ。
「ここまでボロボロになっちゃったらもう捨てるしかないんじゃない? たき火にくべれば燃料の足しに…… 臭いそうだからやめよっか」
「そんなに汚してねえからな!? というかそんなに臭うのか!?」
クロが慌てて自分の脇の下に鼻を近づけようとして、鎧の可動域の関係で首がつっかえて変な声を上げた。
「何を考えたかだいたい予想はつくけどそもそも盾代わりにムカデだのゴブリンだのに散々接触した物体を食事の準備にも使う火には転用したくないよね?」
「ま、まあそうだな」
「あと蒸れたり臭いがこもったり汗が染みついたりは防具付けて運動する以上仕方ないよ。諦めも大事だと思うかな」
「他人事みたいに言ってるけどお前も装備がそろったら同じ環境に身を置くんだからな!?」
クロに指摘されて、僕個人の事情を加味した上で想像をめぐらせてみる。呪いの前身鎧……脱げない兜……激しい運動で全身から滝のように流れる汗……
「全会一致の賛成多数で『オペレーション・脱真夏の剣道部』を発動するよ」
「どこの会議の全会だよ。というか何か策が有るならもったいぶらずにさっさと教えてくれ」
「いや、今のところは何もないかな」
「ないのかよ!」
無いに決まってるよね! 問題を認識すると同時に探せば解決策が見つかるのは脱出ゲームみたいな謎解きジャンルのものだけだよ。それだって散々回り道させられるのが常なのに、ゲーム開発側が用意してるものとは別の問題にそう都合のいい解決策がポンッと出てくる訳ないじゃん。
「で、ズボンを一枚犠牲にして、何か方向性に関して目指したいものは見つかった?」
「迷走に迷走を重ねた結果から見つかるものは落ち着いてみたらどう考えてもこれは違うって感想だけだと思うが」
「そうなの? 僕は一つ二つ見つけたけど? 両方とも火力を重視したいっていうクロの意見に有ってると思うし特にないならとりあえず僕の提案聞いてみる?」
「聞く。そんな語る気満々な顔してるお前に水を差すと後が怖い」
失礼な。別にそのくらいのことでへそ曲げたりしないし、これまでだってクロがやりたいことが有る時はちゃんとそれも尊重してきたのに。悔しいは悔しいからそれに乗っかる方向の提案することは有ったかもだけど。
「一つは片手武器をメインに、左手は素手かそれ用の籠手を着けるかして、掴みかかってのゼロ距離戦闘を挑むスタイル。大型に対しては敵の攻撃があんまり来ない背中とか脚とかにしがみついて一点集中攻撃、小物は今まで通り掴んで盾にしたり敵に叩き付けたりも含めて活用。左手で引き寄せる力も活用できるから案外単発火力も稼げると思うんだよね」
「ほうほう」
「題して、『クロピクミンは気が強い作戦』!」
「それ数十人単位の犠牲前提の特攻じゃねえか!」
「ごめんねクロ、鎧の重さが有るから投げつけてはあげられないんだ」
あと、有能な宇宙飛行士は最小限の犠牲で敵を倒すからきっと大丈夫だよね。このゲームは回復手段も有るし。パクッと食べられたら流石に死にそうだけど。
「で、そんな言い方するってことはもう一つの方が本命なんだよな? 流石にこんな無茶な方法が通るとは思ってないだろ。思ってないよな?」
「あれ、バレた? まあ一度に相手どれる数とか、立ち回りとかの関係でダメージ稼げたとしても後衛を守るっていう点が穴だらけだもんね」
「本気で提案してるなら作戦名もう少し捻るだろ」
「『AAA→AAB作戦』と迷ったんだけどね」
「どのゲームのコマンドだよそれ……」
脱線を繰り返し続けても意味は無いので、クロの疑問を黙殺して、本命の提案をする。ちょっと捻りやインパクトに欠けるアイデアなんだけど、考える時間も惜しいし、後々方針転換したっていいんだから気にしたら負けだよ。そもそもアクティブスキルを禁止してる時点でそれ以上を求め過ぎたら見てて胸焼けするようなくどいプレイスタイルになりそうだし。
「もう一つの案なんだけど、割と順当に、いろんな武器に対応するパッシブスキルを鍛えておいて、相手によって相性の良い武器を持ちだすことで火力を補うっていう」
「それは、弱点属性の追加効果が有る装備品を用意するとかそういう話ではないよな?」
「うん、属性や、有れば種族特効武器なんかも追々導入していきたいけどそうじゃなくて、硬い敵にはごつい鈍器を、素早い敵には軽い武器を、みたいに武器ジャンル自体違うものを積極的に切り替えていく方針。どう?」
「さっきまでと大差なくないか。いやでも意識して運用するのとしないのでは違うか……」
ちょっとの間腕を組んでうなっていたクロだったけど、そもそもこの話の当初の目的は『先のことを見据えた方針を立てること』じゃなくて、『武器が壊れたクロがどうするのかを決めること』だってことに思い至ったみたいだね。
「だけどよ、将来的にそういうスタイルを目指すとしても、今どれを使うのかって答えにはならなくないか結局」
「うん? そこは当然全部だよね?」
「全部」
「順番はクロに任せるし途中途中入れ替えるのも自由で、この先モンスターから武器のドロップが有ればそれも使う方針かな。ただスイッチにも慣れてほしいから可能ならメインで使わないのも出来る限り背負うとか腰に下げるとかしといて欲しいかな」
「要望多いわ!」
と、おおよその話を伝え終えたところで、通路の向こうからゴブリンが近づいてきてるのを発見。数は見える範囲で三匹かな? 老師一人でも対処できないことは無いだろうけど、無用なリスクを負いたくはないし、話し合いはとりあえずここまでだね。
※前書きはエイプリルフールです。探しても見つかりません。たぶん。
エリアルは格ゲー用語で空中コンボのこと。エリアルレイヴの略だそうです。相手を打ち上げたもの後自分も飛び上がって行うものがエリアルと呼ばれやすい。とのこと(ニコニコ超百科より)
あとサブタイ、コマンド表記はGBソフト『熱血硬派くにおくん~番外乱闘編~』です。合ってればですが。




