縛り75,砥石およびキレアジ使用禁止
風邪ひいてダウンしてた割には早い更新。
「おらぁっ! ちぃっ、そっちいったぞ!」
「よっ! ほっ! はっ!」
「って、また新手かよ!」
行き止まりを時間と技能の許す範囲で探索し終え、クロ達と合流しようと引き返して来てみればガッツンガッツン激しい音が響きまくっていた。非常事態の連絡が有った訳でもないし、あんまり心配はしてなかったんだけどね。どういう状況なのかな?
老師はやたらとぴょんぴょこ飛び跳ねてるし、クロは無茶苦茶にハンマー振り回しまくってるしで騒がしいことこの上ないね。それでモンスターも寄って来てるみたいだからレベル上げとしてはいい感じなんだろうけど。とりあえず
「やっほー。手伝う?」
「おお! 終わったのか! 悪いがちょっとな! この足元のムカデどもをだな!」
「おっけー。とりあえずハンマー振り回されると近づけないから適当に向こうのゴブリンの相手でもしといてくれる?」
「助かる!」
あ、クロよりもムカデの方が移動速度速い。ダメじゃん。
仕方ないから遠距離から仕留めよう。とはいっても、動く的に対して斜め上から撃って当てるなんて芸当はせめて弾速がある程度無いと出来ないよね、普通に。ボーリングみたいに重心下げて地面すれすれを水平に連射すれば何発かは当たるでしょ。距離で減衰するから倒すまでにかなりかかるかもだけど。
「うおっ!? 足になんか飛んできてる!? 飛び道具持ちだったのかよ!」
「あ、ごめんそれ僕」
「流れ弾は良いけど人声かけろよ、転んだらどうすんだよ」
「クロなら大丈夫っていう信頼の現れ、かな」
「誤魔化すなよ……」
「ごめんなさい」
会話しながらも地道に連射して、当たった数が五発くらいになったところでムカデがひっくり返ってぴくぴくするだけになった。途中で反転してこなかったということはダメージでターゲット決めてるわけじゃないのかな?
飛び跳ねる老師を追いかけてたムカデには近づいてから【マナバレット】を撃ってこっちも無事撃破。二発で済んだからクロ達でもダメージ与えるには与えてたんだね。
クロもゴブリンを仕留めるのには特に問題なさそうだし、最初は何事かと思ったけど、これで無事戦闘終了かな。
「いや、よく考えたら【ライト】で明かりやりくりしてたから別行動しようと思ったら別に用意しなきゃだろ? 最初は俺が松明持ってたんだけどよ、片手でハンマー振ろうと思うとどうしても細かいコントロールが効かなくてな」
で、ムカデの死体とゴブリンの装備品を回収した後、一回行き止まり寄りに場所を移してクロに事情を聞く場を設けたら、最初に出てきたのがこれ。
「仕方なく松明を一旦どこかに置いたらそのまま明かりが消えちゃって今度は敵の位置が良く見えなくなった、とか?」
「まあそんな感じだ。老師がふっ飛ばしたゴブリンの下敷きになっちまってな。幸いゴブリンもカンテラみてえなの持ってたりするから目が慣れれば見えないことも無いくらいの暗さだったんだがなあ」
自分でもあそこまで苦戦した理由が分らないみたいで首を傾げるクロ。そもそも最初に上げた理由がバカバカしすぎないかな…… 送り出した僕が言えたことじゃないんだけどさ。
「う~ん? うねうねした軌道取るとは言っても動き自体はそれほど速いモンスターでもないよね?」
「そうなんだよな。見えてないわけじゃないのにどうもうまく当てられなくてな」
「もしかして、クロの側に何か問題が有るんじゃない? ちょっと今から石投げるから打ち返してみてよ」
「おう、分かった」
即座にバッティングフォームを取ったクロに、アンダースローでアイテム欄から取り出した石ころを投げる。外角高めのスローボール、ピッチャー返しは死にかねないから勘弁してね。
カツンッ。
「あれ?」
クロの振ったハンマーは石ころに当たることには当たったけど、前には飛ばず、野球だったらキャッチャーフライ。バッティングだけは得意なクロらしくもない。
「ねえクロ、ムカデに噛まれたりはした?」
まず真っ先に疑うのは何らかの状態異常の線。もしそうなら場合によっては街まで撤退することも視野に入れなきゃいけないくらいには重い事態だよ。
「いや、その線は薄いと思う、攻撃自体は多少受けたが防具が有ったし、何よりムカデからは老師がまひ系統の状態異常受けてるからな。この時点で状態異常二種類持ちっていうのは流石にないんじゃないかと思うぞ」
「さらっとすごく大事なこと言ったよね今」
「話の流れで出なくても後でちゃんと共有するつもりだったけどな。二人しかいない時に麻痺とかシャレにならないし、警戒しつつ戦ってたんだよ。そうじゃなきゃ掴んで攻撃すれば済んだ」
「石もモンスターも見えてはいたんだよね? 振った手応えは?」
「なんかこう、がくんってなって綺麗に真っ直ぐ振れてない感じはしたな。もう一回二回素振りしてみていいか?」
「うん、僕達も見て気付いたことが有れば言うね」
その場で野球の素振りを繰り返すクロ。いや、確かに戦ってる時みたいな振り方されてもなかなか細かい所は見えないからその方が良いんだろうけど、バットじゃないよ? それ。
確かに普段よりもブレてるように見えるけど、バットじゃないからって言っちゃえばそれまでの気もするし、ブレてる原因が見て取れなきゃなんだよね。
「ちょっといいかい?」
「スミスさん、何か気付いたの」
「ええと何か長くて真っ直ぐなものは有るかい」
「10フィート棒的ななにかなら」
「ちょっと借りてもいいかい?」
「どうぞどうぞ」
「ありがとう」
なんでそんなものが有るのかって? トラップが有るかもしれないなら対策として用意するのが淑女のたしなみだからだね。
僕から十フィートくらい棒を受け取ったスミスさんが続けてクロからハンマーを受け取ろうとして危うく取り落としそうになり、結局クロがスミスさんの指示で地面の上にその二つを並べることに。
その時点でまあ有る程度僕にも何が理由だったのか想像がついてたんだけど、思いっきり明後日の方を見ているクロの手元を見たら思わず呆れた声が出たよ。
「うわあ……」
「ここまで歪んでいれば重心がぶれて上手く振れないのも当たり前なんじゃないかと
思うよ」
地面に置かれただけでもところどころ軽く曲がってるのが見て取れるんだけど、横にまっずぐな棒がおかれることで歪み具合が一目瞭然。持ち手側と平行になるように置かれたおおよそ十フィート棒と綺麗に並ぶのは20センチくらいで、そのあとは左右にぶれぶれ、先端部分はヘッドが辛うじて棒と重なるかどうかくらいにはずれてる。ヘッドの厚み分先端が浮いてるのに端っこは地面に置かれた棒と平行っていうのもおかしいよね。
「むしろこんなになるまで気付かないのも問題なんじゃないかな……」
「いや、おそらくだけどガタが来ていたところに今回壁や床に何度も叩き付けたことで一気に歪みが大きくなったんじゃないかと思うよ。とりあえず今持っている道具での修理は難しいと言っておくね」
「なんとかならないか? 直すのは無理でも重心さえ真っ直ぐにすれば良いんだが」
「クロ君の力なら無理矢理真っ直ぐに出来なくはないと思うが、それをやっても武器の寿命が縮むだけだと思うよ」
「そうか……」
スミスさんに最後通牒を突きつけられてがっくりと肩を落とすクロ。なんだかんだ最初の武器って愛着湧くものだもんね。
しばらく見守っていると、クロはゆっくりと顔を上げ、意を決した表情で口を開いた。
「そうなると、素手、か……」
「いや他の武器使おうよ。ドロップ品なんかかんかあるでしょ」
「そりゃあ有るけどよ、ああいうのって資金源なんじゃないのか?」
「買った武器使い潰すよりはドロップ品使い潰すほうがまだ経済的だよ。というか力任せに叩き付けない武器の扱いを学ぶべきだと思う。それに何より」
素手だけはクロにお勧めできない明確な理由が有るんだよね。老師のスキル構築を思えばおのずとわかることではあるんだけどさ。
「素手には対応するパッシブスキルがないから素手で戦えば戦うほど相対的に育成が遅れることになるんだよ?」
「……ないのか」
「有ったら今頃老師のスキル枠が一つ埋まってるよね。いくらクロがスキルに頼らず昇龍とかスクリューパイルドライバーとかGETBとか撃てたとしても最終的には絶対伸び悩むよ」
「いやそもそも撃てないけどな? 特に最後。俺に磁力の力はねえよ」
「いやいや、もうちょっとステータスが上がれば案外行けると思うよ? ここは天井有るから無理だけど」
「物理法則に刃向かう気まんまんかよ」
そこから『ステータス向上による格ゲー技の再現可能性』に話が盛大に脱線し、特殊な装備品に寄らないものは再現できる派のの僕と、物理法則にあらがうような動きのものは再現できない派のクロ、そこで展開される技名の数々に興味を抱いて会話に参加してきた老師とで盛り上がりを見せたんだけど、結論を出すには尚早ということにいったんは落ち着いた。まあまだまだステータスや装備効果の可能性に関する情報が出そろってないから仕方ないね。
老師が一番興味を示したのがハッピーセットで叩き潰す、例のあの人の必殺技だったから、今度余裕が出来たら巨大ハンバーガー型のアイテムを作ってくれるようスミスさんに頼んでみようかな。
放っておくと無敵フレームの無い昇龍拳に再現する価値はあるのかとかそういう方向にも議論が脱線しそうですね。
GETBにルビ振るか迷いましたが流石にやめておこうと思いとどまりました(面倒くさかったともいう)
知らない人にざっくり説明すると、鉛直に投げ上げたあと自分もジャンプして空中で追いつき、下方向に加速しつつラリアット的な感じで敵の首に引っ掛けた腕を地面に叩き付ける、みたいな。




